モサラベ(その他表記)mozárabe[スベイン]

デジタル大辞泉 「モサラベ」の意味・読み・例文・類語

モサラベ(〈スペイン〉mozárabe)

8~15世紀、イスラム支配下におけるスペインキリスト教徒

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精選版 日本国語大辞典 「モサラベ」の意味・読み・例文・類語

モサラベ

  1. 〘 名詞 〙 ( [スペイン語] mozárabe ) 八~一五世紀の、アラブ支配下のスペインのキリスト教徒のこと。

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改訂新版 世界大百科事典 「モサラベ」の意味・わかりやすい解説

モサラベ
mozárabe[スベイン]

アラビア語ムスターリバ(アラブ化した人々)が転訛したもの。イスラム・スペインにおいて,キリスト教徒でありながら,言語・文化的にはアラブ化したスペイン人を指す。東方イスラム世界のジンミーと同じく被支配者として租税を支払う代りに,信仰の自由は保障され,ムスリム各社会層と調和した。彼らの多くは,コルドバ,セビリャ,トレドなどの大都市に住み,商工業に従事していたが,芸術家,建築家,宮廷文筆家として活躍する者も多かった。彼らはアラブ支配者とスペイン人被支配者の間に位置し,両者のパイプ役となった。とくにイスラムの諸学や芸術・文化の北方のキリスト教諸国への伝播に貢献した。馬蹄形アーチなどの建築様式は彼らの活動の所産で,これをモサラベ様式という。しかし,レコンキスタ(国土回復戦争)が進展するにつれ,同宗者のレコンキスタ軍と同郷者のムスリム勢力の中間にあって動揺したが,ムラービト朝ムワッヒド朝イベリア半島への到来によってその活動はしだいに制限されていった。
執筆者:

西ゴート美術の伝統である馬蹄形アーチや東方起源の動植物文がイスラム美術の執拗な反復リズムや幾何学的傾向によって作り変えられ,イスラム特有のリブ付ボールトや軒蛇腹,持送りとともに9~10世紀のキリスト教美術に入ってくる。イスラム支配地域では岩にうがたれたボバストロの教会堂や,荒野に壁厚く築かれたサンタ・マリア・デ・メルケ教会が,キリスト教徒の抵抗を物語る。一方,北へ逃れドゥエロ川右岸に住みついた修道士たちはサン・ミゲル・デ・エスカラダやサンチアゴ・デ・ペニャルバ修道院を設立し,祭室(内部は馬蹄形プラン)にイスラム風円蓋を架け,またサンタ・マリア・デ・レベニャではアストゥリアス建築に倣った半円筒ボールトを高さを違えて組み合わせ,教会堂全体を覆い,荷重を分散するのにつごうよい集合柱も考案した。カタルニャでは,馬蹄形アーチの流行に加え,アカンサス葉の枠の中にパルメットや小花を溝彫した柱頭リポル)がコルドバのイスラム建築からの直接の影響を示す。行列用大十字架(ルーブル美術館)などの象牙細工もイスラムの象牙彫と密接な関係にあり,イスラム風蔓草文,鳥獣文は内陣障壁浮彫(エスカラダ)などに模倣され,レオンやカタルニャで誕生するロマネスク彫刻をも飾ることになる。ベアトゥス本彩画もロマネスク壁画に主題や色彩,描線について示唆を与えるなど,モサラベ様式はロマネスク美術への貢献度がきわめて高い。
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「モサラベ」の解説

モサラベ
mozárabe

中世のイベリア半島において,イスラームの支配地域に居住したキリスト教徒をさす。支配者への納税と引き換えに,信仰の保持や共同体の自治を認められたが,イスラーム教徒との長期の接触により実際の生活習慣は非常にアラブ化していた。都市に住み商工業や建築業に従事する者が多かったが,イスラーム世界の先進的な学問を北方キリスト教世界に伝える役割も果たした。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モサラベ」の意味・わかりやすい解説

モサラベ
mozárabe

イスラム統治下の中世スペインで,改宗しないで混住,雑居したキリスト教徒をさすスペイン語。アラビア語でムスターリバ。スペインのイスラム教徒が,コルドバ,セビリア,トレド,その他多くの都市に居住しているキリスト教徒をさして呼んだ (イスラムに改宗したキリスト教徒はレネガド renegadoという) 。これらの都市のモサラベは自治区を営み,教会などを維持していた。

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世界大百科事典(旧版)内のモサラベの言及

【アンダルス】より

…彼らは,前者とともにアンダルスのイスラムの主要な担い手であり,中には貴族となる者もいた。キリスト教徒としての信仰を保持しつつも,言語・文化・風俗の点でアラブ化した者をモサラベ(アラブ化した人々というアラビア語のスペイン語なまり)という。彼らは都市に住み,芸術家,建築家,文筆家,商人として活躍し,ムスリム社会と非ムスリム社会の交流・融合を促進させた一方で,通商活動に通じて北方のキリスト教諸国にイスラム文化を伝達した。…

【カタルニャ】より

…まずギリシア人植民市であったエンポリオンの遺跡,ローマ時代のタラゴナの水道橋,続いて西ゴート時代のタラサの重要な教会堂群が地中海世界との強い結びつきを示す。イスラム支配は免れたが,馬蹄形アーチ,パルメットを溝彫した柱頭などのイスラムやモサラベの要素が入り込み(サン・ミゲル・デ・クシャ,リポル),かえって新しい活力を生む。例えば図柄を表面に残して地を彫りくぼめ細部を繊細に仕上げる溝彫技法は,11世紀初めのピレネー山麓の大理石工房で継続され,イスラム風の植物文に始まり,人物をアーチ形の枠にはめ込んで表すまでに発展し(サン・ジュニ・デ・フォンテーヌ),ロマネスク彫刻誕生の一局面をなしている(12世紀以降は逆に彫刻の新しい流れは南西フランスから入る)。…

【スペイン美術】より

…こうした外縁文化の特徴は,他文化圏と接している場合はいっそう増幅されるとともに,異種の文化原理と融合し,思わぬ成果を発揮する可能性もある。今日にいたるスペイン絵画の出発点となった中世のモサラベムデーハルの美術などその典型であろう。しかもスペインの場合,異なった文化原理は,ほとんどの場合に支配勢力の交代によってもたらされた。…

※「モサラベ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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