モヤシ

食の医学館 「モヤシ」の解説

モヤシ

《栄養と働き》


 モヤシというのは植物名ではなく、豆類や穀類などの種子を発芽させて、伸長させたものを指します。
 わが国では一般的に、豆類の種子を発芽させて育てたものをモヤシと呼んでいます。
 原料の豆や種子によって種類が異なり、若干ですが栄養成分もかわってきます。
〈豆が発芽するとビタミンが急増する〉
○栄養成分としての働き
 さまざまな種類があるモヤシですが、共通していえるのは、豆の状態では含まれないビタミンCが急増するということです。
 また、植物性たんぱく質やビタミンB群、カルシウム、鉄分、食物繊維も豊富。貧血、便秘(べんぴ)の改善、生活習慣病予防、かぜ予防、疲労回復に有効です。
 アミラーゼという消化酵素が生まれるのも特徴としてあげられます。アミラーゼはでんぷんの消化を助ける酵素ですが、熱に弱いので、さっと湯どおしする程度で食べるのがいいでしょう。
○モヤシの種類とおもな働き
<ダイズモヤシ>
 ダイズを原料としたダイズモヤシは、リジントリプトファンなど、人間の体内ではつくられない必須アミノ酸を多く含んでいます。
 肝機能を高めて体に活力を与えてくれます。
<リョクトウモヤシ>
 わが国ではもっとも多く出回っている種類です。ビタミンCを100g中8mg含み、モヤシのなかではブラックマッペに次ぐ含有量です。
<ブラックマッペモヤシ>
 黒緑色のケツルアズキが原料。100g中に含まれるビタミンCは11mgと、モヤシのなかではいちばん豊富です。糖質が少なく、低カロリー。亜鉛(あえん)や繊維質も多く含んでいます。
 美肌効果、便秘改善、動脈硬化予防に役立ちます。免疫細胞を活性化するレクチンという成分も含まれています。
<豆苗>
 エンドウマメの新芽。カロテンが豊富で、免疫機能を強化し、活性酸素の生成を防ぎます。
<アルファルファモヤシ>
 ムラサキウマゴヤシという牧草の種子からつくられます。モヤシのなかでは唯一、豊富にカロテンを含んでいます。含有量は56μgと、リョクトウモヤシの約20倍。
 ドレッシングをかけて油といっしょに食べると吸収が高まります。生食できるので、ビタミンCの損失もなく、一度にたくさん食べられるので、食物繊維の働きによる便秘改善にも効果的です。
<ブロッコリーモヤシ>
 がんの抑制効果のあるスルフォラファンという酵素を含み、がん予防に効果が期待できます。

《調理のポイント》


 どのモヤシも、ゆですぎるとビタミンCの損失につながるので、短時間で手早くゆでるのがコツ。
 なによりシャキッとした歯ごたえが魅力なので、強火でさっと炒(いた)めたほうがおいしく食べられます。油で表面がおおわれるので、栄養分やうまみの損失も少なくてすみます。
 アズキ、そば、シソ、ミツバなどの種子を5~10時間水に漬け、4~5倍にふくらんだら、ぬらしたふきんなどの上に撒(ま)き、朝夕水をかえて暗いところに置くと、自宅でモヤシを育てることができます。

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改訂新版 世界大百科事典 「モヤシ」の意味・わかりやすい解説

もやし

萌,蘖と書く。《和名抄》では〈蘖〉を〈よねのもやし〉と読み,別に〈むぎのもやし〉があるとする。前者はひしお(醬)の類,後者は酒の醸造とともに薬用にも使用された。現在,もやしというと,アズキ,緑豆(りよくず),ブラックマッペ,ダイズ,ときとしてダイコンアルファルファ,ソバを暗所で,高温・多湿の条件で白化させながら発芽させた一種の野菜をさす。通常のもやしは緑豆またはブラックマッペを用いる。ダイズもやしは普通のもやしより大きく,やや固い。豆を十分吸水させ,暗所で排水のよい砂上で27~30℃の温度で発芽させる。毎日2度ほど温水を注ぐと数日で食用となる。おもな成分はタンパク質2.0~5.4%,カルシウム17~33mg%,ビタミンB10.04~0.13mg%,ビタミンC8~16mg%で,ほかに見るべき成分はない。ふつう炒め物として用いるが,生食する場合は酢であえると特有のにおいが抑えられる。ダイズもやしは韓国,中国料理に多く用いられる。現在カイワレと呼んで多く出回っているダイコンもやしは,かつてはカイワリナ(貝割菜)と呼び,双葉のものを間引いたものであった。特有の辛みがあり,これを生かして生食とする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モヤシ」の意味・わかりやすい解説

もやし
もやし / 萌

穀類や豆、野菜、牧草などの種子を暗所で人為的に発芽させたもの。ダイズ、リョクトウ、ブラックマッペ(ケツルアズキ)、ダイコン、アルファルファ、ソバなどのもやしがある。また最近は、スプラウトの名で流通しているブロッコリーやクレス(ウォータークレス)などのもやしもあるが、単にもやしといえば、一般にはダイズやブラックマッペ、リョクトウなどの豆を用いたものをさすことが多い。豆もやしは、豆に吸水させたあと、27~30℃の暗所で発芽させ、水分を補給しながら芽を伸ばし、数日で収穫する。季節を問わず一年中つくられている。しゃりしゃりした歯ざわりがよいので、ゆでたり炒(いた)めたりするときには加熱しすぎないようにする。油炒め、からし酢やごま酢などの和(あ)え物、鍋物(なべもの)、中華そばの具、みそ汁の実などによい。中国や朝鮮半島では大豆もやしがよく使われる。オオムギのもやしは麦芽(ばくが)とよばれ、ビールの醸造や製飴(せいい)などに用いられる。

[河野友美・星川清親]

『増田芳雄著『モヤシはどこまで育つのか――新植物学入門』(中公新書)』


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百科事典マイペディア 「モヤシ」の意味・わかりやすい解説

もやし

萌とも書く。豆類や麦類などの種子を水分と適温を与え暗所で人工的に発芽させたもの。またウド,ミツバなどの軟化栽培によるものもいう。一般に麦類(おもにオオムギ)のほうは麦芽といって醸造やあめ製造に用い,野菜とされるのはおもに緑豆,ダイズによるもやしで,ビタミンCを多く含み,汁の実,いため物,酢の物など四季を問わず利用される。
→関連項目軟化栽培

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モヤシ」の意味・わかりやすい解説

もやし

蔬菜類の種子を暗い場所で発芽させたもの。一般には豆もやしのことをいう。昔は緑豆を使ったが,現在はブラック・マッペという東南アジアから輸入する豆を用いる。一種の香味があり,ビタミンCを含むので,野菜類の少い冬季などに重宝された。ほかに大麦,小麦,燕麦,裸麦,とうもろこしなどのもやしがある。特に大麦もやしは麦芽と称して,ビール,アルコール,飴,薬剤の原料としても広く使われている。もやしは一般には食用として知られているが,今日では醸造用の使途のほうが多い。

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栄養・生化学辞典 「モヤシ」の解説

もやし

 ムギやマメを暗所で人工的に発芽させたもの.わが国のいわゆるもやしは,ブラックマッペとよばれるもの,もしくはダイズのもやしをいうことが多い.後者はダイズもやしとよばれることが多い.

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世界大百科事典(旧版)内のモヤシの言及

【ダイズ(大豆)】より

…そのほかにも,1粒の大豆の皮を除き,核の双方に文字を書いて飲む方法もある。大豆黄巻(だいずおうかん)は大豆のもやしを日にさらして乾燥したもので,原料は黒大豆に限られた。古代には丹砂や水銀,鉛やさまざまな玉石が薬用にされたので100種類以上の薬害があり,死ぬ者も多かった。…

【軟化栽培】より

…軟白栽培ともいう。軟化によってできた野菜は〈もやし〉と呼ばれることがあり,普通に光をあてたものに比べると,組織の分化が不十分で機械組織も発達していないので,軟らかく,もろい。また,葉緑素ができないので黄白色または白色になり,種類によっては特有の風味がでてくる。…

【豆】より

… マメ科植物の種子には,しばしば硬い種皮があるか,養分を貯蔵している子葉が硬質だったりし,また貯蔵物質の特性とも相まって,人間が,そのまま食べるには消化吸収のしにくいものになっている。そのため,もやし,豆腐,豆乳,納豆,みそなどの豆類の特殊な調理利用法が発達した。また種子だけでなく,若い未熟な豆のさやを野菜として利用したり,成熟したさやに含有される糖や有機酸を食用にするような利用法も発達した。…

※「モヤシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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