食物繊維(読み)ショクモツセンイ

デジタル大辞泉 「食物繊維」の意味・読み・例文・類語

しょくもつ‐せんい〔‐センヰ〕【食物繊維】

食物成分の中で、人の消化酵素では消化できないものの総称。植物繊維セルロースペクチンリグニンアルギン酸など。整腸作用や各種の効用がある。
[類語]栄養滋養養分人工栄養栄養分栄養素栄養価炭水化物含水炭素糖質糖類澱粉蛋白質アミノ酸ゼラチンコラーゲン脂肪・脂肪分・脂質ビタミンミネラル灰分無機質

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精選版 日本国語大辞典 「食物繊維」の意味・読み・例文・類語

しょくもつ‐せんい‥センヰ【食物繊維】

  1. 〘 名詞 〙 野菜や豆などの植物性食品に含まれる植物細胞壁成分の総称。セルロースが代表的。不消化または難消化だが腸の働きを促進し、便通をよくする。便秘・糖尿病などの防止に効果がある。

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家庭医学館 「食物繊維」の解説

しょくもつせんい【食物繊維】

 人間の消化液には、食物を分解し、吸収しやすくするために各種の消化酵素が含まれています。しかし、消化酵素でも分解されない食物中の成分があり、これを食物繊維といいます。
 食物繊維は、1972年にトロウエル博士によって初めて提唱された Dietary fiber ということばの日本語訳です。
 かつては、食品中の消化できない繊維分は、エネルギー源として利用されず、便秘(べんぴ)の解消に有効であるという程度の理解しかありませんでした。しかし、1971年バーキット博士が「大腸(だいちょう)がんに対する繊維仮説」をとなえて以来、便秘は、単に生理的に不快というだけでなく、大腸がんをはじめとする腸の病気のほか、高脂血症(こうしけっしょう)(「高脂血症(高リポたんぱく血症)」)とか糖尿病(とうにょうびょう)(「糖尿病」)の発生とも関係があることが、しだいに明らかになってきました。
●食物繊維の種類
 大別すると、不溶性(ふようせい)食物繊維と水溶性(すいようせい)食物繊維に分けられます。昔から繊維と呼ばれてきたものは不溶性繊維のほうで、食物繊維という考え方が生まれてから後に、水溶性繊維が食物繊維の仲間に入れられました。
●不溶性食物繊維
 代表的なものとしては、植物の細胞壁をつくるセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどがあります。一般的に、保水性がよく、また、腸内にすみついている細菌類によって分解されにくいため、糞便(ふんべん)を増やす効果があり、便の形をよくし、やわらかくする作用があります。そのため、腸内の便の通過時間を短くでき、便秘の予防効果をもたらします。
 不溶性食物繊維は、穀類(こくるい)の外皮や豆類などの細胞壁の基本的な成分であるセルロースを中心として、これにヘミセルロースやリグニンが加わり、複雑に絡み合ったものです。
水溶性食物繊維
 食物繊維と呼ばれる食物中の消化されにくい物質は、すべてが不溶性のものばかりでなく、水溶性の物質も数多くあります。ことに、水溶性の難消化性多糖類(なんしょうかせいたとうるい)(あらゆる糖質の基本的な単位を単糖(たんとう)といい、単糖が多数結合したものが多糖です)が、からだにとって重要なことがわかり、繊維状ではないのですが、食物繊維と呼ばれるようになりました。
 ジャムなどの原料になる果物に多く含まれるペクチン、こんにゃくの原料であるコンニャク粉の主成分であるグルコマンナンコンニャクマンナンともいう)、種々の植物性のガム質や粘質物(ねんしつぶつ)など、自然にあるもののほか、精製された難消化性デキストリン、合成多糖としてのポリデキストロースなどもこの仲間です。粘性の強いものは、練り製品などに増粘多糖類(ぞうねんたとうるい)として使われています。
●食物繊維の不足と代謝異常(たいしゃいじょう)
 バーキットとトロウエル両博士は1975年、食物繊維が少ないか欠乏している食事を長く続けると、便秘だけでなく、大腸がんやポリープ大腸憩室症(だいちょうけいしつしょう)などの腸の病気のほか、高脂血症や胆石(たんせき)、虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)、成人型糖尿病などの発生にも関係するという仮説を提唱しました。この仮説は、今日では卓見として受け入れられていますが、これらの病気は、便秘を除き、食物繊維の不足や欠乏によってすぐに発症するわけではありません。もっとも早く現われる症状は習慣性の便秘で、食物繊維の量と種類が、便の量と質に影響しています。
 食事中に食物繊維が多く含まれていると、おもに大腸内において、それが腸内細菌(ちょうないさいきん)の栄養源となるため、たんぱく質や脂肪の多い食事をとっている場合とちがって、大腸内の代謝様式が、かなり変わってきます。
 腸内細菌によって分解され発酵(はっこう)した食物繊維からは、短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)や乳酸(にゅうさん)などの有機酸ができるために大腸内の酸性度が低下し、がんなどの原因となる有害物質が少なくなり、腸内の環境が改善されます。したがって、食物繊維が不足すると、便秘だけでなく、大腸がんなど、腸の病気がおこる原因となります。
 一方、食物繊維は、上部消化管を通る過程で、食事中の栄養成分と、さまざまな相互作用をおこします。
 食物繊維は、とくに栄養成分の消化吸収を低下させます。過剰な栄養状態を長期間続けた場合には、種々の代謝異常がおこることがわかっています。これを予防するのに、食物繊維が役だつわけです。たとえば、食物繊維は糖質の吸収を遅らせ、食後の血糖値の上昇を防ぐため、インスリンの分泌(ぶんぴつ)が節約でき、糖尿病予防にも効果を示します。
 また、食物中に脂肪やコレステロールがあると、消化のため、胆嚢(たんのう)から胆汁酸(たんじゅうさん)が分泌されて、それらが乳化されますが、食物繊維は、この乳化を阻害するために、過剰な脂質の吸収を防ぎます。つまり、高脂血症を防ぎ、ひいては虚血性心疾患や脳梗塞(のうこうそく)の発生を予防するのに役立つと考えられています。
 このような食物繊維の効果は、一朝一夕(いっちょういっせき)には現われないので、毎日の食事で、きちんと摂取するようにすることがたいせつです。
●食物繊維はどれだけ摂取すればよいか
 便量が多いほど、食べてから排便までに要する時間が短くなることが、臨床実験や疫学研究で明らかになっています。しかし、それにも限界があり、1日の排便量が、少なくとも150~220gくらいならばよいとされています。
 健康な青年男子10人を使って実験を行ない、最低150gの便量を確保するために必要な食物繊維量を求めたところ、20~30gという結果が得られました。
 いくつかの調査では、食物繊維量が18g以下になると、結腸(けっちょう)がんの死亡率や糖尿病の有病率が増えると報告されています。
 このような結果から、1994年に改訂された「日本人の栄養所要量」では、食物繊維の目標摂取量が初めて取り上げられ、成人1人1日あたり20~25gと定められました。この程度の食物繊維を摂取すれば、毎日の排便が保証されると考えられています。
●食物繊維不足の診断
 日常の食事で食物繊維が足りているかどうかを調べる方法として、目標摂取量が定められていますので、食品成分表を用いて摂取量を計算し、比較すればわかります。しかし、これは簡単にはできません。
 もっともよい判定法は、その人が便秘がちかどうかをみることです。毎日150g以上の排便があれば申し分ありませんが、排便量を計ることもむずかしいため、毎日、かたすぎず下痢(げり)気味でもない排便があるかどうかを1つの目安にします。
●食物繊維不足の予防
 食物繊維の多い食品の摂取を心がけます。種々の穀類や豆類を中心として、野菜類、イモ類、キノコ類、海藻類を取り合わせて食べるようにしてください。
 穀類でも米や小麦などは、ふつう精白されたものを食べているので、食物繊維の供給源としては、あまり期待できません。ただし、穀類のふすまをフレーク状にしたものが市販されていますので、大いに利用してください。また、特定保健用食品ということで、食物繊維を多く含む食品も売られています。これらを上手に利用することも1つの方法です。

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食の医学館 「食物繊維」の解説

しょくもつせんい【食物繊維】

〈不溶性と水溶性の2種類がある〉
 食物繊維(しょくもつせんい)は、大腸がんをはじめとして、生活習慣病の予防に有効なことが判明し、脚光を浴びている栄養素です。
 食物繊維には不溶性と水溶性があり、不溶性はおもに野菜や豆、キノコなどに含まれています。また制がん剤として注目されているキチン・キトサンも動物性の食物繊維で、不溶性に分類されます。不溶性食物繊維は胃の中に長時間留まるので満腹感が得やすく、肥満防止になります。また腸内で水分を吸収してふくれ、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を活発にするため、便秘(べんぴ)を防ぎます。これにより発がん物質などを排泄(はいせつ)し、有用菌をふやして腸内環境をととのえます。
 水溶性食物繊維は熟した果実や樹皮、こんにゃく、海藻などに含まれる粘性の物質です。ブドウ糖の吸収速度をゆるやかにし、血糖値の急上昇を抑えるので、糖尿病予防に効果があります。また、コレステロールの吸収を抑制し、動脈硬化を予防するほか、ナトリウムを排出して血圧を下げる作用も期待できます。
〈食物繊維のサプリメント〉
 食物繊維は1日17~20g以上の摂取が推奨されていますが、現在の平均摂取量は14.3gほどです。これは精製された食品には含有量が少ないうえ、動物性たんぱく源にはあまり含まれていないからです。食品から摂取するのが望ましいのですが、不足分をサプリメントで補う場合もでてきます。
 こんにゃくに含まれるグルコマンナンは菓子やダイエット食品でよく使われています。アメリカで人工的に合成した食物繊維は、ポリデキストロースといいます。水溶性の有効作用をすべてもち、ドリンク剤や加工食品に添加されています。
 食物繊維の過剰摂取は下痢(げり)を起こしてビタミンやミネラルを排出しますし、それらの栄養素が腸から吸収されるのを妨げるおそれもあります。胃腸にガスのたまりやすい人は、過剰摂取に注意しましょう。

しょくもつせんい【食物繊維】

人の消化酵素では消化されない食品中の難消化成分が第6の栄養素と呼ばれる食物繊維(しょくもつせんい)。食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、それぞれ働きがちがいます(「関連データ」参照)。そのため、食物繊維はいろいろな食品から多くの種類を摂取するのがポイント。ちなみに、くだものに含まれるペクチン、海藻に含まれるアルギン酸などは水溶性。ごぼうや豆類などの野菜に含まれるセルロース、リグニンは不溶性です。
 食物繊維は有害物質の排出に有効ですが、同時に他の栄養素も排出するので、栄養状態の悪い人や下痢(げり)気味の人はとりすぎに注意しましょう。
 可食部100g中に含まれる食物繊維の多い食品として、以下のものがあります。白キクラゲ(乾)68.7g、干しヒジキ51.8g、干しシイタケ41g、カンピョウ(乾)30.1g、インゲンマメ(乾)19.3g。成人1日あたりの目標量は男性19~20g以上、女性17~18g以上です。

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百科事典マイペディア 「食物繊維」の意味・わかりやすい解説

食物繊維【しょくもつせんい】

食物中に含まれる消化されない繊維。植物性ではセルロースペクチンリグニン,コンニャクマンナン(マンナン),アルギン酸など,動物性ではキチン(エビやカニの甲羅の成分)など。穀類の外皮や胚芽,大豆,サツマイモ,ゴボウ,キノコ類,海藻類に多く含まれ,便秘や糖尿病,大腸癌,動脈硬化などを予防する効果があるとされている。食生活の変化により日本人の食物繊維摂取量が低下しているので,近年胚芽入りパンや各種セリアル,食物繊維入り飲料などが発売されている。1994年改定の栄養所要量では,日本人の1日の必要量は20〜25グラムとされている。
→関連項目機能性食品

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「食物繊維」の意味・わかりやすい解説

食物繊維
しょくもつせんい
dietary fiber

人の消化酵素では加水分解されず,小腸内で消化・吸収されにくい食物成分。水溶性のものと不溶性のものがある。水溶性食物繊維はペクチンマンナンなどで,海藻(→寒天),コンニャク,果実に含まれる。粘性や保水性が高く,食後の血糖値の急激な上昇を抑え,血中のコレステロール量を減少させる。不溶性食物繊維はセルロースヘミセルロースリグニンなどで,豆,全粒の穀物,野菜,芋,キノコに含まれる。腸内の有害物質を体外へ排出させる整腸作用があり,便秘解消効果を高める。動物性食物への偏重が著しい現代の食生活において,人体の健康維持に不可欠な成分の一つ。成人 1日あたりの目標摂取量は 20g前後であるが,過剰に摂取すると鉄,銅,亜鉛などの微量栄養素の吸収率低下,脂質や蛋白質の消化率低下を招く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「食物繊維」の意味・わかりやすい解説

食物繊維
しょくもつせんい

ダイエタリーファイバーdietary fiberの訳語で、難消化性の植物細胞壁成分がその主体である。もともと植物性食品の粗繊維といわれる成分は、腸の働きを助け、通便を整える以外は、栄養的に価値のないものと考えられてきた。しかし、近年、とくに欧米先進諸国で、便秘、憩室(けいしつ)病、虫垂(ちゅうすい)炎など腸の疾患、糖尿病、虚血(きょけつ)性心臓病、大腸癌(がん)、胆石(たんせき)など生活習慣病(成人病)の多発は、食品とくに穀類の精製が進みすぎ、食物繊維の摂取量が減少したためと推定され、食物繊維の重要性が再認識された。現在、難消化性成分としては、植物細胞壁に由来するセルロース、ヘミセルロース、リグニンのほか、細胞内に含まれる難消化性の、水溶性ペクチンや植物ガムなどの貯蔵多糖を含めている。また、エビやカニの殻に存在するキチンも広い意味での食物繊維である。食品分析での粗繊維定量法は食物繊維の全部を定量することはできず、新しい定量方法が種々考えられている。

[不破英次]

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知恵蔵 「食物繊維」の解説

食物繊維

ヒトの消化酵素では消化されない、食品中の難消化性多糖類。その代表は、野菜や果実などの細胞壁成分(セルロースやペクチン等)、海藻の成分(寒天、アルギン酸等)。カニやエビの殻にも含有されている(キチン)。排便促進や肥満・糖尿病などの予防効果、血中コレステロールや血圧の上昇抑制作用が期待される。一方、大腸がん予防には効果がないと判明した。食生活の欧米化に伴って食物繊維の摂取が不足傾向で、厚生労働省は摂取の促進(目標摂取1日20g)を勧告。数個の単糖(ブトウ糖等)が重合した難消化性オリゴ糖(フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖等)は、腸内環境改善作用(便秘改善、便の異臭軽減、ビフィズス菌増殖等)があり、特定保健用食品(トクホ)に利用される。甘味料としても用いられ、エネルギー量は消化性糖の約半分。

(的場輝佳 関西福祉科学大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典 「食物繊維」の解説

しょくもつせんい【食物繊維】

人の消化酵素では消化されない難消化性成分。水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶ける「水溶性食物繊維」に大別される。主に野菜類、果物類、豆類に多く含まれる。腸内のコレステロールなどの有害物質を排出し、糖分の消化吸収を抑制して血糖値を下げる役割をもつほか、整腸作用、腸内有用菌(特にビフィズス菌)の発育促進、肥満予防、動脈硬化症・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病の予防などの作用があるとされる。

出典 講談社漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典について 情報

栄養・生化学辞典 「食物繊維」の解説

食物繊維

 食物の成分のうちヒトの消化酵素で消化できない成分.

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