改訂新版 世界大百科事典 「モルガン財閥」の意味・わかりやすい解説
モルガン財閥 (モルガンざいばつ)
アメリカの金融財閥として,しばしばヨーロッパのロスチャイルド家と並び称される。モーガン財閥ともいう。財閥の宗主J.P.モーガンおよび彼の組織したモーガン(モルガン)商会J.P.Morgan & Co.は,アメリカ資本主義の発展の歴史と密接に関係し,強大な影響力を与えてきた。モーガンはウォール街を牛耳り,その強力な産業支配を通じて,J.D.ロックフェラーやA.W.メロンと並んで,ニューディール前のアメリカの影の支配者として時の政権も動かすほどの力をもって君臨した。
モルガン財閥の発展の基礎は1880年代から90年代にかけての鉄道投資の成功にある。モーガンは1879年のニューヨーク・セントラル鉄道会社の株式発行を引き受けて以来,90年代には主要鉄道会社11社を支配した。こうした鉄道投資を軸に巨万の富を築き上げ,95年にJ.P.モーガン商会を設立し,金融界においてはニューヨーク・ファースト・ナショナル銀行をはじめとするモーガン系銀行と称される10以上の大銀行を支配下に収め,エトナやエクイタブルなどの生命保険会社にも大きな影響力を及ぼした。さらに1901年にはUSスチール社を設立するなど,その支配力は主要産業にも及んだ。モーガンの金融・産業支配は別名〈モーガニゼーション〉と呼ばれ,株式保有,重役派遣を通じて行われ,33年の上院銀行委員会の調査では,アメリカの89の大会社に167人の取締役を送り込み,なんらかの形でアメリカの有力銀行すべてと大企業のほとんどすべてを支配していたことが明らかにされた。
しかし大恐慌中の1933年の銀行法で,商業銀行業務と投資銀行業務が分離されたことにより,モーガン商会は大きな打撃を受けた。以後モーガン商会は証券引受業務を放棄し,商業銀行の道を歩み,58年にはモーガン系銀行のギャランティ・トラストと合併し,モーガン・ギャランティ・トラスト銀行Morgan Guaranty Trust Co.of New Yorkとなった。その後68年には同行の持株会社としてJ.P.モーガン会社J.P.Morgan & Co.Inc.が設立された。同行はアメリカ第4位(1994)の大銀行であるが,もっぱら大企業取引を中心とした卸売銀行としての伝統を守っている。2000年にはチェース・マンハッタンChase Manhattan銀行と合併し,J.P.モルガン・チェースJ.P.Morgan Chase & Co.となった。同社の総資産1兆1572億ドル(2004年12月)。
一方,1933年の銀行法により放棄した証券引受業務は,35年に設立されたモーガン・スタンリー社Morgan,Stanley & Co.が引き継ぎ,投資銀行業界きっての老舗として,少数精鋭主義を貫き,特定の大企業取引に専念してきた。しかし70年代半ば以降の業界内の競争激化のなかで,従来の路線の変更を迫られ,多角化を進めている。長らく業界トップの地位を続けてきた証券引受業務でも,82年にメリル・リンチ社にその座を明け渡したが,97年にはディーン・ウィッター・ディスカバー社Dean,Witter,Discover & Co.(1981年設立。クレジット・カード業界の大手)と合併してモーガン・スタンリー・ディーン・ウィッター・ディスカバー社(現,モルガン・スタンリー社。同社の2004年11月の総資産7754億ドル)を設立し,巻き返しを図っている。〈金融革新〉の時代にあって,名門モーガン系兄弟銀行を取りまく環境には厳しいものがある。2000年にJ.P.モーガン社はチェース・マンハッタン・コーポレーションに買収された。
執筆者:上田 信行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報