モロダー(読み)もろだー(英語表記)Giorgio Moroder

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

モロダー
もろだー
Giorgio Moroder
(1940― )

イタリアに生まれアメリカで活動する音楽プロデューサー。ドロミーティ山地にあるバル・ガルデナで生まれる。作曲、編曲のほか映画制作、インダストリアル・デザインなども手がける。ダンス音楽にコンピュータ制御のリズム・シーケンスとシンセサイザーによるアンサンブルをいち早く取り入れた「ミュンヘン・サウンド」の確立や、『フラッシュダンス』(1983、監督エイドリアン・ラインAdrian Lyne(1941― ))などの映画サウンド・トラックへの評価が高い。10代なかごろからギターを弾き始め、19歳でイタリアを離れ、ダンス・バンドのギター、ベース奏者としてヨーロッパをツアー、1967年ベルリンで作詞・作曲活動を開始。翌1968年には「マナ・マナ」でレコード・デビューを果たしている。1971年から活動拠点をミュンヘンに移し、ミュージカル『ヘアー』の公演で滞独中のアメリカ人歌手ドナ・サマーを起用した「愛の誘惑」(1975)が世界的なヒットとなる。
 この作品の中でモロダーはイギリス人のプロデューサー、ピート・ベロットPete Bellotte(1946― )とともに、コンピュータとシンセサイザーを使った無機質で反復的なサウンド作りを行う一方、サマーの歌唱法を、性行為を思わせる囁(ささや)きとうめき声へと変えていく。カサブランカ・レコーズのニール・ボガートNeil Bogart(1943― )が試しにもち込んだダンス・パーティーでは聴衆がこの録音デモを絶賛する。聴衆が一晩中繰り返し聴きたがったことから、シングル・カットを狙って4分前後に収められていた原曲は最終的に16分50秒にまで引き伸ばされ、アルバムのA面全面に収められた。ここに電子楽器を多用した「四つ打ちビート」(基本となるリズムが1小節に4拍子入ること)や、ダンス・フロアでの使用を考えた12インチシングル・フォーマットなど、ディスコ以降のダンス音楽の原型の一つが提示された。ボガートはさらに真夜中に一度だけこの曲をかけるようラジオ局にもちかけた。このプロモーションは功を奏し、サマーは「ヨーロッパ」の音楽としてアメリカ市場に逆輸入され、世界的なディスコ・ミュージック・ブームの先駆けとなった。
 その後モロダーはサマーらのプロデュースを続ける一方、アラン・パーカーAlan Parker(1944― )監督の映画『ミッドナイト・エクスプレス』(1978)の音楽でアカデミー作曲賞を受賞。受賞後アメリカに移住し、音楽以外に大がかりな視聴覚作品も発表するようになる。1983年にはエイドリアン・ラインAdrian Lyne(1941― )監督の『フラッシュダンス』でアカデミー主題歌賞を受賞し、翌1984年にはフリッツ・ラングの古典的映画『メトロポリス』(1926)のリメイクを行った。これはサイレント映画として制作されたもとの作品に若干の彩色を施し、モロダーが作曲したポップ音楽をかぶせたもので、評価は分かれるが、この作品にはミュージック・ビデオの制作・放映が「先端的なポップ文化」として軌道に乗りつつあった1980年代中期の状況を敏感に読み取ったモロダーの感覚が表れている。1987年にはトニー・スコットTony Scott(1944―2012)監督『トップガン』(1986)でまたアカデミー主題歌賞を受賞。
 1990年代以降のダンス音楽の興隆を見るとき、モロダーが世界のポピュラー音楽に及ぼした影響は大きい。ディスコ・ミュージックの単調さ、反復性、味気なさ、サンプリング等における積極的引用、両性具有的なアピールは、当時主流であったロック的なイデオロギーを少なからず打ち崩し、また同時に起こりつつあったパンク、ニュー・ウェーブ、あるいはゲイ文化などと接合した(『フラッシュダンス』がアンチ・ディスコを掲げたダンス音楽(ヒップ・ホップ)を扱っていたのはある意味で皮肉である)。また、「ミュンヘン・サウンド」は、電子楽器・録音機材の低廉化に伴い、楽曲構造の単純さも手伝って、欧米はもちろん第三世界の音楽家にも広がった。そもそも「ミュンヘン・サウンド」の主役とされたモロダーもベロットもサマーもドイツ人ではない。ディスコが「根無し文化」と呼ばれる所以(ゆえん)である。[安田昌弘]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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