日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨノン」の意味・わかりやすい解説
ヨノン
よのん
ionone
脂環式化合物の一つ。ヨノンは分子内の二重結合の位置によりα(アルファ)、β(ベータ)およびγ(ガンマ)の3種の異性体が存在する。天然物中にはαおよびβ両異性体の混合物として存在する。ボローニアの花精油、コスタスの根茎精油にはαおよびβ-ヨノンが混合して存在し、アンバーグリス、バイオレットモスviolet-moss中にはγ-ヨノンが含有されている。α-ヨノンは濃硫酸と接触するとβ-ヨノンに異性化し、β-ヨノンはアルコール性水酸化カリウムと処理するとα-ヨノンに異性化する。αおよびβ-ヨノンの工業的合成法はシトラールとアセトンを縮合剤(カ性ソーダなどのアルカリ)の存在下で反応させてプソイドヨノンとし、閉環剤を用いてαおよびβ-ヨノンを合成する。閉環剤の種類により、αおよびβ-ヨノンの生成比が異なる。リン酸を用いるとα-体が主となり、硫酸を用いるとβ-体が主として生成する。γ-ヨノンは工業的な合成法はない。
α-ヨノンはバイオレット、ローズ、シトラス系の調合香料に、またベリー系フレーバー、シトラス、バニラフレーバーなどの食品香料に使用する。β-ヨノンは主としてキンモクセイ、フリージア、バイオレットなど拡散性のあるフローラル調香料として室内芳香剤、トイレタリーなどの香粧品香料に使用され、食品香料としてはストロベリー、チェリー、パイナップルなどに使用される。さらに、β-体はビタミンA、ビタミンE、カロチンなどの合成原料として重要である。
[佐藤菊正]