ヨーロッパおよび北アフリカの地中海沿岸地方原産のスミレ科の多年草。和名ニオイスミレ。花によい香りがあるため,古くからヨーロッパでは,香りの花として親しまれており,種小名odorataも〈香りのある〉という意味である。基部にワサビ状の根茎をもち,その先より葉柄のある心臓形または腎臓形の,葉縁に鈍鋸歯のある葉を根生するが,この葉姿もワサビに似ている。古株になると基部は木質化することがある。草丈は10~15cmぐらい。早春,まだかなり寒さが残るころから径2~3cmぐらいの甘く上品な香りをもつすみれ色の花を,次々と1ヵ月以上にわたって咲かせる。スミレ類独特の距は,まっすぐで短い。北イタリアと南フランスでは香水原料として変種var.parmaが栽培されている。1tの花から約400gの精油が抽出される。葉はお茶のように使われ,咳止めになるという。また花を砂糖漬にしたり,料理の飾りに使うことがあるという。園芸的には,香りを楽しむ花として古くより栽培されていたため,かなり多くの品種がある。ザ・ツァーThe Czarはもっとも有名な品種で,美しい青紫色花を咲かせ,プリンセス・オブ・ウェールズPrincess of Walesは香りの強い品種として知られ,またラ・フランスLa Franceは早咲種として人気がある。新しい品種ではやや濃い桃色花のスイーティーSweetie,すみれ色大輪で香りのよいラブソングLovesongなどがあり,このほか,白花種や珍しい八重咲品種もある。庭植えで楽しむほか,ロックガーデンの植材にもよく,また鉢植えにもされる。一方,ハート型の葉を添えて切花にしたものを花束にし,愛の花束として若い人たちに好まれる。じょうぶな宿根草であるが,比較的夏は冷涼で,冬は温暖な気候を好み,また日当りのよい所でよく生育開花する。したがって,冬季,南向きの日だまりになるような場所へ植えると,早咲種では冬の間より開花する。定植期は9月下旬~10月上旬。繁殖は5月ごろ株分けをするか,葉を4~5葉つけて根茎を切り挿木をしても殖やせる。
執筆者:柳 宗民
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スミレ科(APG分類:スミレ科)の多年草。ニオイスミレともいう。高さ10~15センチメートル。葉は根際(ねぎわ)から生え、心臓形で鋸歯(きょし)があり、葉柄は長い。株元から1本ずつ花茎を出し、芳香の強い紫色花を開く。園芸種には桃、白、淡青色花もあり、八重咲き種もある。暖地では11月から咲き始め3月が最盛期になる。ヨーロッパ、北アフリカ、西アジア原産で、観賞用として花壇や鉢に植えるほか、切り花とする。香水の材料としても有名である。繁殖は、花期後に分枝した匍匐(ほふく)枝を株分けして、日当りのよい暖所に植える。夏季の乾燥と強光線に弱く、ハダニによる被害も多いので、注意が必要である。
[神田敬二 2020年7月21日]
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… スミレ属の種はかわいらしく,多くが山草的に栽植される。またニオイスミレV.odorata L.(英名sweet violet,この園芸品種がバイオレットとよばれる)はヨーロッパから西アジア原産であるが,芳香のある濃紫色の花は観賞のため庭園や花壇に植えられ,ときには野生化している。花からは香水がつくられる。…
…【谷口 幸男】。。…
… スミレ属の種はかわいらしく,多くが山草的に栽植される。またニオイスミレV.odorata L.(英名sweet violet,この園芸品種がバイオレットとよばれる)はヨーロッパから西アジア原産であるが,芳香のある濃紫色の花は観賞のため庭園や花壇に植えられ,ときには野生化している。花からは香水がつくられる。…
※「バイオレット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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