改訂新版 世界大百科事典 「食品香料」の意味・わかりやすい解説
食品香料 (しょくひんこうりょう)
flavor
食品に添加付香して,その嗜好性を高めるための香味物質。香粧品香料(パヒュームperfume)に対してフレーバーと呼び区別する。パヒュームがおもに鼻で感知され,においの感覚を与えるのみであるのに反して,食品香料は口腔から鼻にぬける香りも加味し,さらに味,刺激といった食品の他の性質と関連しつつ総合的な感覚として認識される特徴がある。食品香料は当然食品成分であるゆえ,生理的に無害であることが前提である。食品香料の歴史は古く,5000年以前から使用されたと伝えられ,とくに17世紀以降の植民地主義,遠洋航海の目的の一つに香辛料の確保があったことはよく知られている。食品香料には天然物と合成物とがある。食品香料の調合原料となる天然香料は約1500種とされ,比較的使用頻度の高いものは200~300種であり,そのほとんどは植物系であるが,最近,食生活の変化により,バター,食肉などの動物性原料から得られるものも増大してきている。
天然食品香料
次の六つに大別される。(1)精油essential oil(揮発性植物油) ビターアーモンド,ペパーミントなどから得られる。(2)エキストラクトextract 香料植物を溶剤抽出したもので,バニラ,コーヒー,ココアなど。抽出溶剤としては含水アルコール,プロピレングリコール,グリセリンなどを用いる。エキストラクトは香気成分以外に,色素,油脂,レジン,呈味成分を含むので調合原料として重要である。(3)オレオレジンoleoresin エキストラクトから溶剤を除いて半流動性に濃縮したもので,バニラ,コーヒー,オールスパイス,ジンジャー,ペパー,セロリなど。(4)ディスチレートdistillate 果汁を濃縮し,蒸留して香気成分を濃縮芳香水溶液として得たもの。リンゴ,オレンジ,パイナップル,グレープなど。(5)アイソレートisolate 天然精油からその主成分の特定物質を比較的純粋に単離したもの。(6)酵素フレーバー 脂肪,タンパク質をリパーゼ,プロテアーゼなどの酵素で分解して得た香味料。
合成食品香料
天然物中の化合物とまったく同一なものと,天然には確認されないが,食品香料として重要な物質とに大別される。調合に使用される合成香料は約2000種あるが,使用頻度の高いものは約300種である。日本では安全性の面から食品衛生法により,単独化合物としては77種,化合物群の類別項目(エステル,ケトンなど)としては18項目の物質について認可している(1997現在)。
食品香料の種類
香味別にはかんきつ系,フルーツ系,ビーンズ系,ミント系,ナッツ系,スパイス系,ミルク系,ミート系,調味料,洋酒系,その他に大別されているが,形状としては使途,付香対象食品の性質に応じ,次のように商品化されている。
(1)エッセンス 天然香料,合成香料を数種から数十種調合し(オイルベース),40~60%のアルコールに溶かしたもので,これを1/500~1/100の範囲で水に溶解,分散させた水溶性食品香料。清涼飲料や冷菓に用いる。(2)オイル オイルベースを流動パラフィン,植物油脂などの油溶性溶剤に希釈したもの。油溶性があり,保留性,耐熱性に富む。キャンディ,ビスケットなどに用いる。付香のさい均一に分散するよう注意する。(3)乳化香料 オイルベースをアラビアゴム,カルボキシメチルセルロース(CMC),アルギン酸などの乳化剤,安定剤で水中に分散させたもの。この方法は香料とともに着色料,呈味成分も同時に加えることができる。冷菓・製菓用,また練歯磨き用とする。(4)粉末香料 香料を乳糖などの担体に混合付着させたり,乳化剤,賦形剤の水溶液に分散し,さらに噴霧乾燥させて粉体化したもの。ともに取扱いが簡便なところが特徴で,前者は香料の安定性,後者は食品への分散性にすぐれる。粉末ジュース,ケーキミックス,粉末ゼリー,即席スープなどに広く用いられる。
→香辛料 →香料
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報