ラクダムシ(読み)らくだむし

改訂新版 世界大百科事典 「ラクダムシ」の意味・わかりやすい解説

ラクダムシ (駱駝虫)
snakefly
serpentfly

脈翅目ラクダムシ亜目Raphidiodeaに属する昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。この仲間は小型から中型で翅の開張10~40mm。体は暗褐色ないし黒色で,雌は細長い産卵管をもつ。ラクダムシの名は,長くのびた前胸とまるいこぶのような中胸,後胸がラクダの背を思わせるところからきている。大部分の種は北半球に分布し,オーストラリアとサハラ以南のアフリカには産しない。世界から約150種が記録されているが,日本には2種しか知られていない。森林地帯や果樹園に生息し,カイガラムシアブラムシなどを捕食する。成虫は4~7月にかけて発生し,寿命は約2ヵ月,バナナの実のような形の微小な卵を数十粒から250粒の卵塊として,樹皮割れ目に産みつける。幼虫は10~11回の脱皮を経てそのまま越冬し,翌春樹皮下や落葉の間でさなぎになる。通常1世代1年である。

 メナシラクダムシ科の1種ラクダムシInocellia japonicaは,翅の開張が雄は約15mm,雌は約20mm。本州,四国,九州に分布し,4~7月にかけて松林で見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラクダムシ」の意味・わかりやすい解説

ラクダムシ
らくだむし / 駱駝虫
[学] Inocellia japonica

昆虫綱脈翅(みゃくし)目ラクダムシ科の昆虫。こぶ状の中・後胸をもち、長い頸(くび)(前胸)を持ち上げ、腹部を曲げて歩くようすがラクダに似ているというので、この名がある。小形、黒色で、透明なはねをもった虫。春から夏にかけてマツ林に出現する。体長10ミリメートル内外、前翅の開張幅は雄で15ミリメートル、雌で20ミリメートル内外。頭部はやや前後に長く、頬(ほお)が角張り、複眼は小さい。単眼はなく、はねの縁紋翅脈二分されない(ラクダムシ科の特徴)。中・後胸の楯板(じゅんばん)や腹部背板各節の後縁および脚(あし)は黄色。雌は細長い産卵管を腹端から突き出している。成虫は夜灯火にもくる。幼虫は樹皮下にすみ、前後に自由に動きながら、小昆虫を捕食する。蛹(さなぎ)は蛹室(ようしつ)に入っているが、のちに適当な場所に移って羽化する。本州、四国、九州に分布する。

 ラクダムシ類Rhaphidioideaは、脈翅目のうち広翅亜目に属し、このなかでも幼虫が陸上で生活するグループに入る。日本にはラクダムシのほかに、単眼をもち、はねの縁紋が横脈で二分されるキスジラクダムシ科のキスジラクダムシRaphidia harmandiがいる。世界からは2科約80種が知られる。

[山崎柄根]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラクダムシ」の意味・わかりやすい解説

ラクダムシ
Inocellia japonica

脈翅目ラクダムシ科。体長 10mm内外。前翅の開張幅は雄で 15mm内外,雌で 20mm内外。体は細長く,頭部は方形,前胸は長い円筒状である。全体に黒色であるが,中胸と後胸の楯板,肢は黄色。触角は糸状。単眼を欠き,複眼は小さいが突出する。翅は長卵形で,各翅に縁紋がある。翅脈は比較的あらく,横脈がかなり多い。雌の産卵管は長い。和名は腹部を曲げ,頭を上げて歩く様子がラクダに似ていることによる。成虫は春から夏に出現し,おもに林中にみられるが,灯火にも飛来する。本州,四国,九州に分布する。日本産ラクダムシ類には本種のほかにキスジラクダムシ Raphidia harmandi1種が知られている。この種は頭部は後方に向ってせばまり,単眼があり,翅の縁紋が2分されている点でキスジラクダムシ科に分類されている。なおラクダムシ類をラクダムシ目として脈翅目から独立させて扱う見方もある。 (→脈翅類 )  

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世界大百科事典(旧版)内のラクダムシの言及

【甲虫】より

…甲虫のもっとも古い化石は二畳紀の地層から発見されている。祖先をヘビトンボ,ラクダムシなどの脈翅類とする説と,ゴキブリ類とする説があるが,この時代に出現したナガヒラタムシ類の化石が脈翅類と甲虫類の中間を示すこと,現生のヘビトンボと甲虫のミズスマシの幼虫が類似することなどによって前者の説が支持されている。
[分類]
 甲虫は百数十の科に分類されているが,始原亜目,食肉亜目,粘食亜目,多食亜目に大別される。…

※「ラクダムシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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