フランス,ロレーヌ地方の画家。1616年以後に記録が存在するので,それ以前にイタリアに行ったとする推測がされる。しかしその画風の単純性や主題の宗教性からはその可能性は少ない。20年からナンシー近郊のリュネビルLunévilleに工房をかまえ,死ぬまでそこを離れなかったと思われる。この都市は交通の要衝でブルゴーニュ地方やメッス,ナンシーといった都市との連絡が密であるとともに,三十年戦争の舞台ともなったところである。38年から43年までリュネビルでの記録がないが,たぶんパリに行っていたのであろう。38年に〈フランス王の画家〉となる。それ以前はロレーヌ公の宮廷画家の一人であった。作品は少なく30点もない。これは,しばしば戦場となった地方に生きた画家の宿命ともいうべきかもしれない。それらはほぼ,ろうそくの光をかざした〈夜の光景〉の宗教画と,カラバッジョ派的な民衆像を描く風俗画とに分けられる。前者では《聖誕図》や《セバスティアヌス》が代表作であり,後者では《いかさま師》《盲目の絃琴師》が名高い。ともに微妙な光の反射を写実的に表現している点や,イタリア的な肉体の量感性が抑制されている点では共通しているが,前者の宗教性と後者の風俗性とはその対照性にとまどわされるほどである。1972年パリでの〈ラ・トゥール展〉においてソ連のリボフ美術館から《借金の返済》やイギリスのミドルズブラから《さいころ遊び》も出品された。しかし前者はラ・トゥールの師匠のドゴツClaude Dogoz,後者は息子のエティエンヌÉtienneによるものと思われるが,まだ定説はない。この画家自身20世紀に入って発見され,まだ研究の年月が浅いせいか,彼に帰せられる作品についても議論が多い。北方のテルブリュッヘンやファン・ホントルストと夜の場面で共通性をもつものの,その深い宗教性が,ラ・トゥールを17世紀の最もすぐれた画家の一人にしている。
執筆者:田中 英道
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フランスの画家。サン・カンタンに生まれる。1723年パリに出て、当時ジョセフ・ビビアンJoseph Vivien(1657―1735)、ロザルバ・カリエラRosalba Carriera(1675―1757)たちによって流行し始めたパステル画の刺激を受け、もっぱらパステル画によって肖像画を描く。1746年には「パステル肖像画家」としてアカデミーに入会。とくに1743年以来、王室、宮廷の公的な肖像を制作し、青、真珠色に輝く灰色を主調とし、若干のバラ色や黄を混じえた繊細で魅惑的な色彩、モデルの心理的な機微を表す精密な描写によって人気を得、1748年のサロンに出品された王や王妃を含む14点の肖像のうち8点がルーブル所蔵となったほどである。ほかにジャン・ジャック・ルソーやポンパドゥール夫人など多くの同時代人の肖像が残されている。ロココ人の自由で屈託のない相貌(そうぼう)を示す『自画像』(アミアン美術館)も代表作。1773年までサロンに出品し、1784年以降は故郷に隠退。その死後アトリエに残された多くの作品がサン・カンタン美術館の基盤となった。
[中山公男]
フランスの画家。ロレーヌ地方のビク・シュル・セイユにパン屋の息子として生まれる。1610~1616年ころ、ローマで絵の修業をしたと考えられる。1620年にロレーヌ地方のリュネビルに居を定めて活躍を始め、ロレーヌ公アンリ2世の宮廷画家となるが、フランス国王ルイ13世などからも注文を受けた。初期には風俗画が多く、登場人物の心理的緊張感を主題とした『クラブのエースを持ついかさま師』(フォート・ワース、キンベル美術館)、『女占師(うらないし)』(ニューヨーク、メトロポリタン美術館)などがある。後期にはカラバッジョからの影響を発展させて、独特な宗教画の様式を確立し、ろうそくの光を中心とした強い明暗の対照、深い精神性と臨場感を特色とする。『大工の聖ヨセフ』(1645ころ、ルーブル美術館)、『聖セバスチャン』(1650ころ、ルーブル美術館)など。リュネビルで没。死後その名は忘れ去られ、作品だけが他の画家の名で知られていたが、20世紀前半にようやく復活した。
[宮崎克己]
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[フランス]
フランスでは17世紀の初頭まで,マニエリスムのフォンテンブロー派が尾を引いていた。カラバッジョ派のバランタン・ド・ブーローニュがまず清新の気を伝え,風俗画のル・ナン兄弟,明暗様式のG.deラ・トゥールなどが〈プロト・バロック〉を代表する。彼らはカラバッジョやリベラと同じく,極度に技巧化したマニエリスムを克服し,現実生活に眼を向けた精神の革新のモメントを代表しているといえよう。…
※「ラトゥール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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