ラビッシュ(読み)らびっしゅ(その他表記)Eugène Labiche

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラビッシュ」の意味・わかりやすい解説

ラビッシュ
らびっしゅ
Eugène Labiche
(1815―1888)

フランスの劇作家パリ生まれ。フランス演劇のもっとも古い流れである中世ファルス(笑劇)の系統を引く19世紀最高の喜劇作家。モリエールの後継者にルニャールとダンクールDancourt(本名Florent Carton。1661―1725)の2人がいて、ともにモリエールのようなモラリスト的性格喜劇には及ばなかったが、後者はモリエールの鋭い観察眼を継いだという定評があり、ラビッシュはその直系といわれる。彼の時代にはそれはほろ苦い笑いを供するボードビル喜劇となって開花した。『イタリアの麦わら帽子』(1851。邦訳名『人妻麦藁(むぎわら)帽子』)はその代表作で、初めパレ・ロアイヤル座の支配人はたいして関心を抱かなかったが、舞台をあけてそのたいへんな人気にびっくりしたという。ファルスにコミックの味をつけた『ペリション氏の旅行記』(1860)も傑作で、いまも上演される。合作を混ぜて作品は150編もある。合作者として有名なメイヤックダニエル・アレビーの作品はパリが舞台で、ラビッシュはモリエールと同じフランスを代表しているが、彼ほどの詩的要素には乏しい。

[本庄桂輔]

『梅田晴夫訳『人妻と麦藁帽子』(1948・世界文学社)』『梅田晴夫訳『ペリション氏の旅行記』(1949・世界文学社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ラビッシュ」の意味・わかりやすい解説

ラビッシュ
Eugène Labiche
生没年:1815-88

フランスの劇作家。パリに生まれ,初め法律を学んだが文学転向。1838年小説家として出発するが,同年,ボードビル喜劇《コアラン氏》を発表,以後もっぱら喜劇の分野に続々と作品を書き続け,マルク・ミシェル,ルフランらとの共作を含め150編以上を数える。代表作は《イタリアの麦わら帽子》(1851),《ペリション氏の旅行》(1860),《賭金》(1864),《文法》(1867),《三人のうち一番幸福な男》(1870)など。スクリーブの流れを汲む軽妙なボードビル喜劇を得意とし,19世紀後半のブルジョア社会を舞台に,ひねりの利いた状況設定としゃれた笑いをふんだんに盛り込む。深い思想性や鋭い社会批判は望むべくもないが,登場人物の性格描写にはみるべきものがある。オージエ小デュマの〈問題劇〉とは正反対の明るい笑いで大衆喝采を得た。80年アカデミー入り。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラビッシュ」の意味・わかりやすい解説

ラビッシュ
Labiche, Eugène

[生]1815.5.5. パリ
[没]1888.1.23. パリ
フランスの劇作家。初め雑誌に小説を発表していたが,1838年『ド・コアラン氏,あるいは無限に礼儀正しい男』 Monsieur de Coyllin ou l'homme infiniment poliで喜劇・ボードビル作家としてデビュー。以後矢つぎばやに 100以上の作品を発表,19世紀の代表的喜劇作家となった。代表作『イタリアの麦藁帽子』 Un Chapeau de paille d'Italie (1851) ,同時代の小市民を戯画化した風俗喜劇『ペリション氏の旅行』 Le Voyage de M. Perrichon (60) ,『目くらまし』 La Poudre aux yeux (61) ,『文法』 La Grammaire (67) ,『鉄道』 Les Chemins de fer (68) ,『3人のうち最も幸福な男』 Le Plus Heureux des trois (70) 。アカデミー・フランセーズ会員 (80) 。

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