翻訳|reactor
電気または電子回路にリアクタンスを導入することを目的とした装置。とくに電気用のチョークコイルのことをいう。インダクターinductorともよばれる。構造的には電線をコイル状に巻いたもので、鉄心をもつものと、空心とに大別できる。また鉄心をもつものでも、鉄心に空隙(くうげき)をつくる場合が多い。空心リアクトルは、リアクタンスが流れる電流に関係なく一定である。鉄心をもつものは、鉄心飽和のために電流が大きくなるほど、リアクタンスが小さくなる。空隙付き鉄心の場合のリアクタンスはその中間である。
リアクトルはリアクタンスを導入するので、電流の流れを抑制するインピーダンスとしての機能と、電流が電圧に対して90度の位相差をもつなどの特徴があり、この特徴を生かして使われる。しかし、使い方により名称は若干変化する。
[岡村正巳]
電力系統に短絡故障が発生したとき、短絡電流を抑制するために使うリアクトル。この場合、常時流れる電流ではほとんど影響を受けない程度のリアクタンスでも、短絡電流の抑制効果はかなり高い。このため、電力系統が大容量化して、短絡電流が遮断器の遮断電流を上回るような場合でも、リアクトルを用いることで、遮断器を取り替える必要はなくなる。
なお、短絡電流の抑制には、抵抗やコンデンサーによっても目的を達することができる。しかし、抵抗は常時流れる電流による損失が大きく、コンデンサーは大型となったり、数値の選択を誤るとかえって短絡電流を増やすこともあり、それらの問題を簡単に解決できるリアクトルの使用には大きな意味がある。
[岡村正巳]
電圧を調整する目的で使われるリアクトル。分路リアクトルは限流リアクトルと異なり、負荷と並列に接続される。つまり負荷の一種とみなしてもよい。したがって、分路リアクトルのスイッチを入れると、リアクタンスが加わったことになり、90度位相の遅れた電流が流れるため、母線の電圧が低下する。逆に、いままで投入されていたリアクトルを遮断すれば、母線電圧は上昇する。このように分路リアクトルは電圧を調整する機能があるので、電圧調整器として使用される。ただし、リアクトルの容量を大きくすると、電圧の変動幅も大きくなるので、リアクトルをいくつかに分割して使用する。なお、電力用コンデンサーは分路リアクトルと逆の効果があるので、両者を組み合わせて電圧調整器とする場合が多い。
[岡村正巳]
星形結線変圧器の中性点と大地との間に接続するリアクトル。中性点リアクトルを使用する目的は二つに大別できる。一つは、電力系統に地絡事故が発生したとき、異常高電圧の発生を防止したり、地絡事故を検出する保護リレー(継電器)の動作を助ける目的で使われる。このような目的で使われる場合は、電力ケーブルを多く使用した系統、いいかえると電力系統の対地静電容量が大きい場合に採用される。
中性点リアクトルのもう一つの目的は、電力系統に一線地絡故障が生じたとき、事故点に流れる事故電流をゼロにすることにある。事故電流がゼロであれば、地絡事故が自然消滅する場合が多いことと、たとえ消滅しなくても、事故電流がゼロであるから、そのまま送電を継続できるなどの利点がある。このような目的の中性点リアクトルは、ペテルゼンコイルPetersen coilあるいは消弧リアクトルともいわれる。一線地絡のとき、事故電流をゼロにするためには、中性点リアクトルの値Lは、L=1/(3ω2C)のように定めればよい。ただし、Cは各相の対地静電容量、ωは角周波数(周波数に2πを乗じた値)である。
[岡村正巳]
交流回路を構成する主要要素は抵抗,静電容量,インダクタンスの三つである。インダクタンスは交流電流の流れを抑制したり,静電容量で流れる電流と反対位相の電流が流れるので,静電容量電流を補償(低減)する作用がある。インダクタンスの作用をもつコイル状の静止誘導機器がリアクトルである。電力回路に使用されるリアクトルを用途別に分類すると以下のようになる。
(1)直列リアクトル 回路と負荷との間に直列に入れ電流を抑制するもので,回路の短絡電流を抑制する限流リアクトル,電動機の始動時の電流制限用リアクトルなどがある。(2)分路リアクトル 交流回路に並列に入れ進相電流の補償用,過電圧の抑制用に用いられる。(3)フィルター用 静電容量と組み合わせて,交流回路にのる高調波電流の除去用として用いられる。(4)中性点リアクトル,消弧リアクトル 星形結線変圧器の中性点に入れ,送電線の故障電流の低減用に使われる。
リアクトルは巻線の中や,磁束の帰路に鉄心を入れるか否かで鉄心形リアクトルと空心形リアクトルに分けられる。後者の空心形は電圧,電流特性に直線性があるが,大型になり,主磁束が巻線中にも通るため,巻線内のうず電流損が大きくなる欠点がある。したがって短絡電流の抑制など短時間用に適している。鉄心形は高いインダクタンスを得るのに容易で一般に用いられているが,鉄心の飽和のため直線性に劣るので,鉄心に空隙を入れるなどの改善が行われている。
執筆者:山本 充義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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