電気を導くための線のこと。電線には、導体のみの裸電線と絶縁被覆を施した絶縁電線とがある。絶縁電線単独または複数本撚(よ)り合わせたものに、絶縁体の保護のため被覆(シース)を施したものをケーブルとよび、電気工事などでは、敷設場所に応じて使い分けられる。広い意味では電気を導くことから、ケーブルを電線とよぶこともある。
電線を大別すると、電力を輸送する電力用電線(電力ケーブルや鋼心アルミ撚り線など)、電気信号を伝送する通信ケーブル、発電機やモーターなどの内部にコイル状に巻かれエネルギー変換に寄与する巻線がある。
日本での電線製造の起源は明らかではない。年代のはっきりしたところでは、1832年(天保3)大坂で平川製線の先祖が銅線をつくっており、1854年(安政1)京都で津田電線の津田幸兵衛が水車を用いて銅線を引き始めている。
電線は電流を流すためのものであるから、電気抵抗はなるべく小さくし、電力損失が小さいものが要求される。したがって、電線の導電材料は電気抵抗がなるべく小さく、加工性がよく、機械的に強いものが望まれる。経済性も考えると、銅とアルミニウムおよびそれらの合金が広く使用されており、ことに銅がもっとも広く使われている。単線の太さは日本では直径をミリメートルで表すが、番号表示でアメリカのAWG(American Wire Gauge、別名Brown and Sharpe's Gauge)、イギリスのSWG(Standard Wire Gauge)などがある。たとえばAWGナンバー10は直径2.588ミリメートルであり、SWGナンバー10は直径3.251ミリメートルである。
銅線は、電気分解でつくった99.96%以上の純度をもつ電気銅から荒引線(ワイヤーロッド)をつくり、伸線して所定の太さの線に仕上げる。荒引線の作り方には3種類ある。古くから行われている方法は「さお銅圧延法」で、電気銅を溶解炉で溶かして鋳型に流し込み、さお銅(ワイヤーバー)をつくる。さお銅は鉄道の枕木(まくらぎ)のような形をしたもので、1本の重さは113キロ~180キログラムまでの各種がある。さお銅を加熱炉で約800℃に加熱し、熱い間に溝付きロールに連続的に何回も通して圧延し、荒引線にする。直径は8ミリメートルが一般的である。荒引線は高温で圧延されるため、表面が黒色の酸化銅で覆われているので、この酸化銅を除去するため希硫酸溶液に浸す。「連続鋳造圧延法」は電気銅の溶解、鋳造、圧延、酸洗い、コイル巻きを連続的に行って製造する。1コイルが3~5トンである。「ディップ・フォーミング法」は、電気銅の溶解した中へ母材の細い銅線を走らせ、母材表面に銅を凝固付着させて太くし、これを連続して圧延し、荒引線をつくる。荒引線を伸線機にかけ、連続して何枚ものダイス(金属加工用の型)を通してだんだんと細く引き伸ばし、所要の太さの線に仕上げる。細いものでは、直径が髪の毛の10分の1ぐらいのものもつくられている。
また、2000年ごろから、超伝導体を用いて超低損失で大電流を流せる電線も開発されている。電力輸送の目的には、ビスマス(Bi)系やイットリウム(Y)系の銅酸化物系超伝導線を用いた電力ケーブルが、日本やアメリカ等で実証試験に供されている。また、ニオブ‐チタン(NbTi)やニオブ‐スズ合金(Nb3Sn)などの低温金属系超伝導線は、すでに、医療用のMRI(磁気共鳴映像法)装置、自然科学研究用のNMR(核磁気共鳴)装置、高エネルギー物理研究用加速器や核融合実験炉、あるいは開発中の超伝導磁気浮上式鉄道のコイル用巻線などとして使用されている。被覆については、「通信ケーブル」および「電力ケーブル」の項目で解説する。
[佐久間照夫・大木義路]
電流を流すための金属線。単線と撚り線,裸電線と絶縁電線などに分けられる。絶縁電線のうち,しなやかさに重点をおいたものがコードである。比較的寸法が大きく,絶縁体の外側をさらに金属やビニルなどで被覆したものを電力ケーブルといって区別する場合がある。
電線の構造材料のうち,導体には銅とアルミニウムおよびその合金が一般に用いられる。ナトリウムをプラスチックで被覆したナトリウム電線もアメリカで配電用に使用した例がある。アルミニウムは銅に比べて導電率がおよそ60%であるが,比重が30%なので,同じ抵抗をもたせるのに断面積は大きくなるが重量は約半分になる。引張強さが小さいため,機械的強度を必要とする場合はアルミ撚り線で鋼撚り線を囲んだ鋼心アルミ撚り線(ACSR)が用いられる。日本では110kV以上の送電線には鋼心アルミ撚り線を用いている。また275kV以上の超高圧送電線では,各相を2~4本の導体で構成する多導体方式が採用される。これは高電圧によるコロナ放電を抑制することがおもな目的である。合金は,純銅あるいは純アルミニウムの導電率をできるだけ低下させずに,引張強さなどの機械的性質を改善する目的で使用される。
絶縁材料としては,ポリ塩化ビニル,ポリエチレンなどのプラスチック類,ゴム,紙,エナメルなどが用いられる。とくに軟銅線にポリ塩化ビニルを被覆したビニル絶縁電線が低圧配電線,屋内配線,機器の配線などに広く使用されている。
執筆者:河野 照哉
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…日常種々雑多な工作に用いられる金属線。通常は低炭素鋼,シンチュウ,銅,アルミニウムなどの線材の一部で,ペンチやニッパーなどで工作できる硬さと太さをもつものをいう。これらは熱間圧延や熱間押出しで製造した棒または線材を,冷間引抜きし,焼きなましてつくられる。針金の太さの分類は番数によってなされ,番号が大きいほど線径が小さい。太さの測定には針金ゲージを用いる。【木原 諄二】…
…(1)おもに銅,またはアルミニウムの電気良導体(単線,または撚(より)線)上に絶縁物を被覆した絶縁電線の一種である。構造上,慣例上次のように区別される。…
…絶縁したしなやかな電線で,家庭用電気器具,小型電気機器を電源に接続する場合や屋内配線などに使用される。絶縁構成によりゴムコード,器具用ビニルコード,キャブタイヤコードなどがある(図)。…
…陽極スライムには銀,銅,鉛,セレンが数%から20%,金,テルルが1%前後含まれ,これらの回収が行われる。
[用途]
最大の用途は電線である。他の金属と合金をつくりやすく,耐食性の優れていることを利用して,化学工業をはじめとするあらゆる産業分野で構造用材として用いられている。…
※「電線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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