改訂新版 世界大百科事典 「電力ケーブル」の意味・わかりやすい解説
電力ケーブル (でんりょくケーブル)
power cable
強電流電気を伝送するための電気導体。日本の電気設備の使用電圧は通産省令の〈電気設備技術基準〉により下記のように区分されている。(1)低圧 直流750V以下,交流600V以下。(2)高圧 直流,交流とも(1)を超え7000V以下。(3)特別高圧 7000Vを超えるもの。実用上は超高圧と呼ばれる275~525kVまでの電気設備が使用されており,超々高圧と呼ばれる1000kV級の建設が始まる気運にある。
電力ケーブルの歴史的発達については,19世紀の初期,鉱山動力および電灯照明用などに天然ゴムを絶縁体に利用したものと,ジュート,紙などに木タール,アスファルト,パラフィンなどの混和物である高粘度絶縁コンパウンドを含浸した絶縁体をもつ2種類に大別される高圧ケーブルが出現した。前者はその後,加硫法などの製法改良および石油化学工業などの発展に伴う合成ゴム,エチレンプロピレンゴム,塩化ビニル,ポリエチレンなどの材料変換の努力が加えられ,さらに1958-59年ころからポリエチレンに架橋(橋架け)技術が導入され,現在の架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(CVケーブルという)の発展の基礎ができ上がった。今日ではCVケーブルはプラスチックケーブルの主要部分を占め275kV級に多用され,近く500kVCVケーブルも実用化される勢いにある。後者はコンパウンド含浸絶縁体に改良が加えられ,絶縁紙に比較的高粘度の絶縁油を含浸した積層ソリッド油浸絶縁ケーブルとして,遮へい構造の改良と相まってベルトケーブル,Hケーブル,SLケーブル,ノンドレーンケーブルなどの呼称のもとに60kV級まで(おもに11~33kV)実用された。しかしながら絶縁体中に存在するボイド(小さな空洞)中での放電を抑制できず,いっそうの高電圧化はむずかしく,この積層ソリッド油浸絶縁体に窒素ガスなどを充てん加圧して,内部放電を抑制しつつ使用する低ガス圧ケーブルおよび海底GFケーブルとして実用されたケースもある。しかしながら高粘度コンパウンドの代りに低粘度油を積層絶縁紙に含浸加圧して使用するOFケーブルoil filled cableの原理が,1912年エマニュエリL.Emanueliにより発明され,電力ケーブルの超高圧化に大きく貢献した。低粘度油を優れた誘電特性を有する積層絶縁紙中に含浸加圧したOFケーブルでは,絶縁体中に放電を生ずるボイドは存在せずきわめて優れた耐電圧特性を示し,現在500kV級に多用され,1000kV級ケーブルの研究が進められている。
なお,電力ケーブルの送電電流が大きくなるほど導体断面積は増加し,送電電圧が高くなるほど絶縁体厚さは大きくなるわけだが,交流用ケーブルでは導体とシース(遮へい層)間の電位は静電容量分布により決定されるのに対し,直流送電ケーブルの場合は絶縁抵抗分布となり,この絶縁抵抗が温度および電界により変化することから複雑な理論設計が必要となる。
執筆者:菊地 幸司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報