翻訳|linear motor
平板状の構造をもつ電動機。回転形の電動機を円周方向に展開して,固定子に対応する固定部分と回転子に対応し長手方向に直進する移動部分を一定の長さのエアギャップをはさんで対向させている。ギャップに垂直な方向の磁界が長手方向に移動するときに,移動部分に流れる電流やそこに設けられた磁極との相互作用で移動部分に推進力が非接触で発生する(図)。歯車などの伝達機構を必要とせず,摩擦などによって駆動性能が制限されず速応性が高い駆動装置として開発と適用が多くの分野で進んでいる。回転形と比較して磁路が開放されているので,磁束の浸透に伴う過渡現象が存在したり,漏れ磁束が多くなるために電気-機械エネルギー変換での効率が下がる欠点がある。
電動機の形式としては回転形と同じく誘導形,同期形,直流形(無整流子形),パルス形,リラクタンス形などがある。いずれもリニア誘導モーターあるいはリニアインダクションモーターなどと呼ばれる。構造上移動部分が電動機の一次側(あるいは電機子),または二次側(あるいは界磁)であるかによって短一次形あるいは長一次形(長固定子形あるいは短固定子形)と呼ばれる。短一次形は巻線部分が少なく,構造上簡単で励磁部分が少ないという特徴があるが,二次側の構造が限られる。とくに同期形では複雑な形状となってしまう。特殊な形状のものとしてシリンダー形のモーターやアーチ形のモーターもある。
リニアモーターの応用分野としては,その非接触推進機能から超高速磁気浮上鉄道の駆動装置(リニアモーターカー)がよく知られるが,在来方式の鉄道でも粘着性能の改善と台車の小型化のためにとくにリニアメトロと呼ばれる地下鉄用駆動装置への開発が進んでいる。構造が簡単で浮上機構と組み合わせると滑らかで静かな運転ができるので自動化工場や半導体製造工場内の輸送装置としてもかなり使用されている。小型で速応性があり,駆動に振動を伴わないという点では,ロボット関係のアクチュエーター,コンピューター端末の印刷,記録装置の駆動,ドアの開閉機構などに小型のリニアモーターが多数使用されている。駆動される対象に直接大きな力が加えられる性質をいかして自動車の衝突試験装置や自動化された貨車操車場での突放装置にも用いられ,航空母艦でのカタパルトへの適用が試みられたこともある。
執筆者:正田 英介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
直線的な方向に力を発生するモーター(電動機)。通常の電動機は回転運動を行うが、リニアモーターは直線運動を行う。回転形の電動機のトルク(回転力)に相当するのはリニアモーターでは推力(運動方向への力)である。
推力の発生原理により、リニア誘導モーター、リニア同期モーター、リニア直流モーター、リニアステッピングモーターなどがある。それぞれの推力の発生メカニズムは回転形の電動機と同一である。
リニアモーターは移動子と固定子から構成される。固定子を地上側、移動子を車上側とよぶことがある。回転形電動機では固定子が一次回路、回転子が二次回路であるが、リニアモーターの場合、車上一次式と地上一次式がいずれも可能である。回転しないので軸受が不要であり、モーター部分が回転形より小さく構成できる。ただし、減速機がない直結方式(ダイレクトドライブ)であり、リニアモーターの発生推力は大きくする必要がある。鉄道車両(リニアモーターカー)のほか、各種産業機械や工作機械、家電品(電気かみそり)、カメラのオートフォーカスなど、広い分野で使われている。
[森本雅之]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
… 一方,推進方法については,浮上式を採用するとなると車輪とレールの間のすべり摩擦が働かず,したがってそれによる車両の推進は不可能である。このため,プロペラの回転による方式,ジェット推進による方式およびロケット推進による方式なども,一時は実物実験まで行って研究が進められたが,現在,主力的に開発が進められているのはリニアモーターを用いる方式(いわゆるリニアモーターカー)である。現在,日本,ドイツなどで開発が進められている浮上式鉄道は,いずれも推進にリニアモーターを用いた磁気浮上方式である。…
※「リニアモーター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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