電力を受けて動力を発生する機械。モーターともいう。もっとも広く用いられているのは回転しながら動作するものであるが,直線運動をしながら動力を発生するリニアモーターもある。われわれは家庭から工場,鉱山に至るまであらゆる場所で多量の動力を利用しているが,自動車などの移動機械や特殊な場合を除くと,ほとんどすべての場合に動力を電動機から得ており,日本で発電している電気エネルギーのおよそ60%は電動機によって消費されている。実用されている電動機の大きさは,小型テープレコーダー用の入力0.1W程度のものから,製鉄所の高炉送風機駆動用の出力5万kW程度のものまである。直流電源に接続して運転される電動機を直流電動機といい,交流電源に接続して運転される電動機を交流電動機という。交流電動機には誘導電動機,同期電動機,交流整流子電動機の3種類があり,それぞれ単相,多相(通常は三相)の別がある。直流直巻電動機は電車の牽引用電動機として広く用いられているが,直列抵抗を入れて始動する代りに,直流チョッパー(サイリスターなどを用いて定電圧の直流から可変電圧の直流を得る装置)によって始動および速度制御を行う例が増えている。電動発電機を電源として他励直流電動機を運転する方式をワード=レオナード方式といい,1900年の発表以来,広い速度範囲にわたって精密な速度制御を必要とする用途に広く用いられてきたが,現在はその電動発電機を整流器で置き換えた静止レオナード方式が用いられている。誘導電動機はもっとも数多く使用されている電動機であり,同期電動機もしばしば用いられるが,いずれも速度制御特性は直流電動機より劣る。交流整流子電動機は整流子が機械の弱点であって,現在では三相機はほとんど製作されず,出力数百W以下の単相直巻電動機が家電器具などに多数用いられている。
70年ころからサイリスター,またはトランジスターを用いた可変周波数電源によって,誘導電動機,または同期電動機を運転する方式がしばしば採用されるようになった。これは直流電動機の整流子およびブラシに保守上の欠点があるので,整流子のない電動機を用いて直流電動機と同様な優れた速度制御特性を得たいという要求から発展した技術である。可変周波数電源としてはインバーター(直流を交流に変換する装置)とサイクロコンバーター(交流を別の周波数の交流に変換する装置)とがあり,インバーターによる場合はその前段に交流電源の電力を直流に変換する整流器が接続される。回転子位置検出器と同期電動機とサイリスター電力変換装置を組み合わせたものをサイリスターモーターまたは無整流子電動機という。
1821年にM.ファラデーが原理的な電動機を製作し,36年にアメリカのダベンポートT.Davenport(1802-51)が直流電動機を作って電池の電力で旋盤を回したが,直流電動機が広く実用されるようになったのは,67年にE.W.vonジーメンスが,電池の助けをかりずに発電する自励式直流発電機を考案してからである。82年にはN.テスラが二相誘導電動機を考案し,85年にはG.フェラリスが分相形単相誘導電動機を考案し,M.ドリボ・ドブロウォルスキーは91年に三相誘導電動機を,93年に二重かご形誘導電動機を考案した。この間,交流電源としての同期発電機も単相,二相,三相の順に実用化された。交流整流子電動機では,1886年にC.P.スタインメッツらによって単相直巻形のものがつくられて以来,単相および三相の種々の形式のものが相次いで考案された。このようにして,今日の各種電動機の基本的な構造が完成し,理論も1915年ころまでに高度の発達を遂げた。その後は磁性材料,絶縁材料,設計製造技術の進歩による改良が行われたが,70年ころから電源装置および制御装置にサイリスター,トランジスター,ICなどを用いて電動機を運転,制御する方式の採用が増えた。
日本における電動機の利用は,1890年東京浅草の凌雲閣(りよううんかく)のエレベーター運転および同年上野公園で開催された第3回内国博覧会の電車運転が初めである。国産の最初の発電機は1885年につくられた1.5kW直流発電機であるが,電動機の最初のものは95年につくられた25馬力二相誘導電動機であり,99年ころから三相誘導電動機がつくられた。
回転形の電動機は回転運動の形で動力を発生する。この動力はトルク(物体を回転させようとする作用)と回転速度によって定まる。図1-aのように,回転軸の中心からr(m)の距離の点にrと直角の方向に力f(N)が働くとき,T=fr(N・m)をトルクという。回転速度は,角速度ω(rad),または毎分回転数N(rpm)で表される。電動機をエネルギー変換装置として見ると,図1-bのように,電圧V(V),電流I(A)の形で電気エネルギーを供給し,トルクT(N・m),角速度ω(rad/s)の形で機械エネルギーを取り出す装置である。電動機内部で消費されるエネルギーがないとすれば,入力Pe=VI(W)と出力PM=Tω(W)とは等しいが,実際の電動機では必ず内部で電力および動力の損失があって,PmはPeよりも多少小さくなる。η=(Pm/Pe)×100(%)を電動機の効率といい,機種および設計によって多少異なるが,例えば35W(出力)機で50%,0.75kW機で70%,37kW機で88%である。実務面では,回転速度を毎分回転数Nで,トルクを重量キログラムメートル(単位記号kgf・m,略してkgm)で表すことが多い。1kgf・mは9.80665N・mであり,τ(kgm)のトルクを発生してN(rpm)の速度で回転しているときの動力は,Pm=1.027Nτ(W)で計算される。
電機子表面の磁束密度を大きくするため,電動機の静止部分(固定子という)と回転部分(回転子という)にそれぞれ鉄心を用いて磁束が通りやすいようにし,両者を狭い空隙(くうげき)(ギャップという)を隔てて配置する。ギャップを狭くするためと電機子の導体を機械的に保護するために,鉄心表面に軸と平行に設けた溝(スロットという)の中に導体を納める。スロットは円周方向に等間隔に多数設け,それぞれに導体を納めて鉄心表面を有効に利用し,同時に回転中のトルクの脈動を小さくする。スロット内の電機子導体は単一の導体の場合もあるが,多くの場合は絶縁銅線をほぼ六角形に何回か巻いたもの(コイルという)の二つの辺を互いに離れた位置にある二つのスロットに入れる。多数のコイルが接続されたものを巻線といい,その両端を端子という。界磁の場合は,界磁鉄心に巻きつけられた銅線の全体を界磁コイルといい,二つ以上の界磁コイルを接続したものを界磁巻線という。回転子の巻線を外部回路に接続する必要のある電動機では,整流子,またはスリップリングを回転子に設け,その表面にブラシを押しつけてすり接触をさせる。整流子は電機子コイルの端末が二つずつ接続された多数の硬銅片を互いに絶縁して円筒状に組み立てたものであり,スリップリングは軸に電気絶縁を介して取りつけた黄銅製の環である。ブラシは電機用ブラシと呼ばれるもので,黒鉛質,または金属粉を混入して焼成した金属黒鉛質のものがふつうである。
図2は他励直流電動機の略図である。は導体中の電流が紙面の裏から表の方向に流れていることを示し,⊗はその逆向きの電流を示す。図では整流子を省略し,ブラシが電機子導体に直接にすり接触する形にしてあるが,原理的には同じことである。多数の電機子導体の相互接続は,電機子巻線法と呼ばれる,やや複雑な規則に従って行われる。ブラシを通して電機子電流Ia(A)を流すと,電機子導体の電流の分布はN極の下ではすべて同方向,S極の下ではすべてその逆方向となり,その結果,すべての導体電流は同一方向のトルク発生に寄与する。界磁の1極当りの磁束をΦ(Wb)とすると,電動機の発生トルクはT=KΦIa(N・m)で与えられる。Kは定数である。このトルクによって電機子が角速度ω(rad/s)で回転すると,ブラシ間にはIaに逆らう向きの誘導起電力E=KΦω(V)が発生する。これを電機子回路の電圧方程式V=E+RaIaに代入してωについて解くと,ω=(V-RaIa)/(KΦ)(rad/s)となる。これが他励電動機の回転速度を与える式で,毎分回転数はN=60(ω/2π)によって求められる。上式から,回転速度を変えるには,電源電圧Vを増やすこと,電機子回路の抵抗Raを減らすこと,および界磁の磁束Φを減らすこと(これらの場合は速度が上昇)の3通りの方法があることがわかる。図3は励磁方式(磁束を発生させる方式)による直流電動機の種類を示し,図4は各種電動機の特性を示す。
誘導電動機は固定子巻線(一次巻線という)を交流電源に接続し,回転子巻線(二次巻線という)には固定子側からの電磁誘導によって電流が流れてトルクを発生する電動機である。構造上,かご形と巻線形に大別されるが,一般的に数多く使われているのはかご形誘導電動機である。かご形電動機の回転子巻線は図5のように円筒かご状の導体からなり,それ自体で閉じた短絡回路になっていて,外部回路には接続されない。図6-aは二相誘導電動機の原理的な構造を示すもので,固定子には二相電流ia,ibの流れる二つの巻線がある。各電流はアンペアの右ねじの法則に従ってギャップに磁界をつくる。図6-bのように各時刻の磁界を調べてみると,起磁力Fは大きさが一定で,交流の1サイクルの間に1回転することがわかる。このような磁界を回転磁界という。広く実用されている三相誘導電動機の場合は,図7-aのように3個の固定子巻線が空間的に120度ずつずらして設けられており,これに三相交流電流を流すと二相機の場合と同様に回転磁界が発生する(一相の巻数と電流最大値を同じとすれば,三相の場合の磁界の強さは二相の場合の3/2倍になる)。次に,図7-aの三相巻線の各巻線の両辺の間隔を90度に縮め,巻線相互の間隔も半分にして,円周上の約180度の範囲に納め,残りの空所にもう1組の三相巻線を設けると図7-bの四極機が得られる。四極機の回転磁界について調べると,交流の1サイクルの間に180度(1/2回転)しか回転しないことがわかる。一般に極数2pの誘導電動機に周波数f(Hz)の交流電流を流したときの回転磁界の回転速度は,Ns=60f/p(rpm)で与えられ,このNsを同期速度という。四極,50Hzの場合はNs=1500rpmである。かご形回転子の導体は回転磁界の磁束によって切られ,電磁誘導による起電力が発生して導体中に電流が流れる。この電流と回転磁界の磁束との間に電磁力が発生して,回転子は回転磁界と同方向に回転する。回転子の回転速度Nを,N=(1-s)Nsで表したときのsを滑りという。sの値は無負荷時にはほとんど0であり,全負荷時には小型機で0.05,大型機で0.01の程度である。したがって,誘導電動機は同期速度よりわずかに低い,ほぼ一定の速度で回転する電動機である。かご形電動機の速度に対する一次電流とトルクの変化は図8のようになる。安定運転の範囲は停動トルクTmの点よりも右側である。始動の際は速度0から停動トルクを発生する速度付近までの間かなり大きい一次電流が流れ続ける。このため,小型機以外は始動装置を用いて始動電流を制限する場合が多い。巻線形誘導電動機は回転子巻線を三相巻線とし,スリップリングとブラシを介してその端子を静止部分に引き出したもので,その端子に三相の可変抵抗器を接続して,始動または速度制御を行う。始動電流をとくに制限したい場合,大きい始動トルクが必要な場合,または速度制御が必要な場合に採用される。上記の可変抵抗器の代りに整流器とインバーターをつないで,二次電力を交流電源に返還するようにした速度制御方式を静止セルビウス方式という。
単相誘導電動機は三相電源が利用できない場合に使用されるもので,出力数Wないし0.75kWのものが家電用および軽作業用にきわめて数多く使用されている。分相始動誘導電動機は図6-aの二相電動機の固定子巻線の一方を高抵抗の巻線として,両巻線を並列にして単相電源に接続して始動するものである。二つの固定子巻線に流れる電流の位相が異なるので,不完全ながら回転磁界が生じて始動トルクが発生する。高抵抗の巻線は始動後自動的に切り離される。コンデンサー始動誘導電動機(図9)は二相固定子巻線の一方に大容量の交流用電解コンデンサーを直列に入れ,他方の巻線と並列にして単相電源に接続して始動するものである。コンデンサーと直列にした巻線は始動後自動的に切り離される。コンデンサー誘導電動機はコンデンサー始動形におけるコンデンサーを中容量の連続使用できるコンデンサーとし,始動後もその巻線を切り離さないものである。図10はくま取りコイル形単相誘導電動機で,磁極面の一部に銅の短絡環をはめてあり,その作用によって磁束Φaの時間的位相がΦmよりも遅れるので不完全ながら回転磁界が生じて始動する。
三相同期電動機は図11に示すように,三相誘導電動機と同様な固定子と,直流で励磁される界磁をもった回転子からなっている。固定子巻線(電機子巻線)に三相交流電流を流すと,誘導電動機の場合と同じように回転磁界ができる。回転磁界の磁極Sa,Naが界磁の磁極Nf,Sfを吸引するので,界磁は回転磁界と同じ速度,すなわち同期速度で回転する。同期電動機としてのトルクは,回転子が同期速度で回転しているときにしか発生しないので,始動の際は界磁の磁極頭部に設けた制動巻線(かご形巻線の不完全なもの)を利用し,誘導電動機の原理による始動トルクを利用する。そして同期速度に近い速度に達してから界磁巻線に直流電流を与えて同期速度に引き込む。誘導同期電動機は巻線形誘導電動機と同様な構造で,巻線形誘導電動機として始動し,その後回転子巻線に直流電流を流して同期化するもので,界磁は円筒形である。図11のような突極形界磁の電動機は界磁巻線に直流電流を流さなくても同期電動機として動作する。これを反作用電動機,またはリラクタンスモーターという。
直流直巻電動機と同様な構造の電動機であるが,設計上交流で使用できるように配慮してつくられる。この電動機は直流および交流の両方で使用できるので,交直両用電動機,またはユニバーサルモーターとも呼ばれる。直流直巻電動機と同様に,負荷電流によって速度が大幅に変わる。
電動機の基本的な種類は以上のとおりであるが,その変形ないし他の装置との組合せは非常に多い。極数切換誘導電動機は速度を2段階以上に切り換えることのできる電動機であり,ギヤードモーター,ブレーキモーター,クラッチモーターはそれぞれ減速歯車,ブレーキまたはクラッチと電動機を一体に組み立てたものである。電気冷蔵庫のコンプレッサーのように,作業機械と一体にしてつくられた電動機をつくりつけ電動機という。サーボ機構において,機械的な位置や角度などを制御するための操作用電動機をサーボモーターといい,電気式のサーボモーターとしては,直流電動機,ブラシレス直流電動機(同期電動機の多相固定子巻線に直流電源から供給される電流をトランジスターによって順次切り換えるもの),二相誘導電動機などが使われる。サーボモーターは応答を速くするために慣性モーメントを小さく設計する必要があり,電機子を細長くしたものや電機子鉄心を使用しないもの(プリントモーター,コアレスモーター)がある。ステップモーターは固定子の多相巻線に順次パルスを加え,その1パルスごとに回転子が一定角度だけ回転する電動機で,パルスモーターとも呼ばれる。用途はプリンター,コンピューターのフロッピーディスク装置,ロボット,数値制御工作機械などであるが,サーボモーターもこれらの用途に使われている。入力3W以下,最大寸法5cm以下の程度の超小型電動機をマイクロモーター,またはミニチュアモーターといい,携帯用カセットレコーダーや小型の計測・制御機器に組み込んで使用されている。強力な永久磁石を用いた直流電動機とブラシレス直流電動機が多い。
執筆者:猪狩 武尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電気エネルギーを機械エネルギーに変換するエネルギー変換機器の総称。モーターmotorともいう。電源により直流と交流とに分けられるが、原理は同じで、磁束密度がBテスラの磁界内に磁界と直角に長さlメートルの導体を置き、これに電流iアンペアを流すとき、その導体にB・l・iニュートンの力を生ずるということを利用している。
[磯部直吉・森本雅之]
電動機の形をなしたものとしては、M・ファラデーによって電磁誘導が発見された1831年ころからつくられている。ただし、初期のものは永久磁石の吸引・反発の力を利用して、可動部は回転でなく、揺動させる方式が主流だったといわれている。現在の直流電動機のように電機子と直流励磁した電磁石を用いた形は、1834年に発表されたヤコビMoritz Hermann von Jacobi(1801―1874)の電動機や、デビッドソンRobert Davidson(1804―1894)が1837年につくったものが最初といわれているが、いずれも出力が小さく、研究室段階のものであった。数十年を経て、交流による発電が定着する時代に入り、交流電源によって直接運転できる電動機が望まれ、イタリアのG・フェラリスやクロアチアのN・テスラらによって交流からつくられる回転磁界が発見され、これが端緒となって2人が独自に二相交流電動機をつくりあげた。現在、交流電動機の主流は三相交流を用いているが、これはドイツのドリボ・ドブロボルスキーが1889年につくった出力100ワットのものが最初といわれる。
日本でつくられた直流電動機は、1855年(安政2)の15キロワットのものが最初(『日本電機工業史』日本電機工業会発行による)とされるが、三相誘導電動機はずっと遅く1899年(明治32)に0.75キロワットのものがつくられた。三相同期電動機はさらに遅く、1915年(大正4)となっているが、このときは出力が大きく550キロワット、6000ボルトのものが6台もつくられた。
[磯部直吉・森本雅之]
電動機は原理的には発電機としても使える。発電機は、機械動力を電力の形態にエネルギー変換するものであるが、逆に発電機に電力を供給すれば、機械動力が発生する。一般に、電動機と発電機は原理、構造が共通であるので、誘導電動機と誘導発電機をあわせて誘導機、直流発電機と直流電動機をあわせて直流機のように総称される。
電動機と発電機を含む電気機器の種類は、端子に与えられる電圧の電力形態(直流か交流か)および電源周波数と回転速度が一定の関係をもつか(同期であるか)などにより、以下のように分類される。
〔1〕直流機
(1)自励 直巻(ちょくまき)直流機、分巻(ぶんまき)直流機、複巻直流機。
(2)他励 他励直流機、永久磁石直流機。
〔2〕交流機
(1)同期機 巻線形同期機、永久磁石同期機、リラクタンスモーター、ステッピングモーター。
(2)誘導機(非同期機) かご形誘導機、巻線形誘導機、単相誘導機。
(3)交流整流子機(ユニバーサルモーター)。
[森本雅之]
電動機の速度は、その用途に応じ、つねに一定またはほぼ一定であることを望む場合や、広い範囲に変化させて運転したい場合などがある。このような面から各電動機の性質を調べると次のようになる。
〔1〕直流電動機 速度は電機子に加える電圧にほぼ比例し、磁極に生ずる磁束量に反比例する。したがって一定電圧、一定励磁で運転すれば、負荷が重いときは若干速度低下がおこるが、ほぼ一定速度での運転ができる。速度を変えるには、励磁を一定に保ち、電機子に加える電圧を変えるか、または電圧を一定に保ち、励磁を変えるかすればよい。前者を速度の電圧制御、後者を界磁制御という。両者は併用もできる。
直流電動機を励磁方式により分類すると、他励式、分巻式、複巻式、直巻式となる。
(1)他励式 界磁と電機子が別の電源になっているもの。電機子電圧制御、界磁制御のいずれも適用できる。この便利さが、高価で保守が煩わしいという直流機の欠点を補い、大出力の他励電動機がいまでも重視され、使用されている。
(2)分巻式 界磁巻線と電機子巻線が並列に接続してあるもの。界磁電流を保つため、電機子電圧を一定に保って運転する。速度制御は界磁制御によるが、最高速度と最低速度の比が3ぐらいの範囲で制御できる。
(3)複巻式 界磁巻線が2種類ある。一方は分巻式と同じであり、他方は電機子電流が流せるように断面積が大きく巻数の少ない界磁巻線で、これを直巻界磁という。この二つの界磁巻線が各磁極鉄心に巻いてあるので、複巻という。この電動機も定電圧で使用し、速度制御は界磁制御によって行う。
(4)直巻式 界磁巻線と電機子巻線が直列接続されているもの。ある電圧を加え、負荷を重くすると、電機子電流が増すことになり、磁束が多くなって速度が低下しトルク(回転力)が増す。この電動機を定電圧電源で運転する場合は、電機子に直列に抵抗を入れ、この抵抗を変えて速度制御を行う。可変電圧電源なら電圧を変えればよく、電気鉄道の直巻電動機のチョッパ(直流電流を通電、遮断する装置)による制御は、定電圧電源からチョッパを通じて可変電圧をつくり、電動機に加えていることになる。
〔2〕同期電動機 周波数に比例した同期速度でのみ運転できるから、50ヘルツまたは60ヘルツの一定周波数(商用周波数)の電源で運転する場合には、一定速度でしか運転できない。しかし可変周波数の電源を用いれば、周波数に比例した可変速度が得られる。1980年代以降はパワーエレクトロニクスの進歩により可変周波インバーターが普及し、同期電動機の可変速度運転をする例が増えている。
〔3〕誘導電動機 この電動機も一定周波数の電源で運転すると、負荷が増してもわずかしか速度低下せず、定速度電動機に含められる。速度を制御したい場合には、巻線形電動機では二次回路の各相に直列に抵抗を入れ、これを加減する方法があるが、広い範囲の制御はむずかしい。サイリスタや直流機、インバーターなどを二次回路に入れて制御する方法もあり、大容量機に適用する例がある。
かご形電動機の速度を広範囲に変えるには、普通可変周波数のインバーターを電源とする方式が増えている。なお一次巻線を特殊構成にしておき、極数をたとえば2極4極、4極8極などに切り替え、同期速度を変えることができるが、これは速度切替えであって、連続的な速度制御はできない。
[磯部直吉・森本雅之]
(1)交流整流子電動機 直流機のような整流子をもつ交流電動機。三相と単相とがある。三相機には分巻形と直巻形とがあり、いずれも電気ブラシの移動により速度を広範囲に変えることができる。交流電源から直接運転でき、さらに直流機なみの速度制御ができることからかつては使用例が多かったが、1980年代以降パワーエレクトロニクスにより交流機を速度制御することが容易になったので、三相の交流整流子電動機はほとんど使われなくなった。
三相分巻形のうち回転子側に一次巻線を置くものをシュラーゲschrage形といい、これは三相誘導機の変形とみなすことができる。固定子の二次巻線に、回転子側の整流子面からブラシを通じて取り出したすべり周波数の電圧を加え、その大きさをブラシの移動によって変化させて速度を変える。速度範囲は同期速度を中心に上下50%のものが多く、この間、無段変速ができる。固定子給電形三相分巻機は付属機として三相誘導電圧調整器を用い、その回転子位置を変えるが、電動機のブラシの移動なしに速度を制御する。三相直巻整流子電動機は直巻直流電動機のように始動トルクが大きく、ブラシ位置を変えることにより無段変速ができるが、整流が悪く火花を生じやすい。
単相整流子電動機にも分巻形と直巻形とがあるが、前者は特性が悪く、以前からほとんど用いられていない。小容量の直巻形は掃除機、ミキサー、電気ドリルなどの高速運転を要するものに使われている。この電動機はブラシ移動を行わず、速度制御には加える電圧を変えている。単相整流子電動機で交流、直流のいずれにも使えるように設計されたものをユニバーサルモーターという。
単相直巻整流子電動機は、かつてヨーロッパでは電車および電気機関車に使う例があった。誘導起電力を低くするために25ヘルツまたは3分の50ヘルツなどの低い周波数が用いられる。電車の場合、電動機1台の容量が150キロ~250キロワットのものを1車両に4台備える。電車線電圧は1万5000ボルトを用いる例が多く、車両内に変圧器を備え、一次または二次側に多数のタップを置き、その切替えにより電動機に加わる電圧を変えて速度を制御する。
(2)無整流子電動機 三相同期電動機とインバーターまたはサイクロコンバーターを組み合わせ、電動機に可変周波数の交流電圧を加えるようにすると、広範囲の可変速度運転ができるようになる。このシステムは整流子をもたない電動機ということで、無整流子電動機とよばれる。ブラシなし電動機またはサイリスタ電動機ともいう。数千キロワットクラスの大型の無整流子電動機もある。
1980年代以降、永久磁石を界磁に使い、インバーターで駆動するものをブラシレスモーターととくによぶようになった。ブラシレスモーターは直流電動機に似た特性をもっている。
[磯部直吉・森本雅之]
『電気学会編・刊『電気工学ハンドブック』第7版(2013)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
「モータ」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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