一つの状態から他の状態へ移り変わる際の現象。物理的現象だけでなく,化学反応や社会現象などにも広く見られる。例えばスイッチを入れたときの電流の変化,アクセルの踏み方を変えた後の自動車の速度の変化,反応塔内で薬品を混合した後の化学反応,多産多死から少産少死に変わった後の年齢別人口分布の変化などがその例で,きわめて短い時間の変化もあれば,最後の例のように数十年にわたるものや,さらに長いものもある。一般に二つの状態を滑らかに結ぶように現象が起こることが多いが,ばねを引っぱってから放した場合のように,振動的に別の状態に移ったり,人口分布の変化のように過渡現象中は一時的に老齢人口比率が増したり,若年比率が減少したり,結婚適齢期の男女数がアンバランスになるなどの複雑な様相を呈することもある。工学上の問題としては,急激な変化を緩和するように過渡現象の速度や形を変えたり,逆に過渡現象を積極的に利用することもある。電気接点が開く際の火花防止の目的で接点にコンデンサーを入れるのは,変化を遅くするものであり,自動車のばねにダンパーをつけるのは悪路走行時の過渡現象が過度に振動的になるのを防止して乗りごこちを改善するものである。積極的に過渡現象を利用すると,短時間にきわめてスマートに目的とする制御が実現できることもある。以下,電気回路の過渡現象を例に説明する。
電源電圧を入力,負荷電流を出力とする場合,負荷が純抵抗であれば,入力が変化すると直ちに出力がそれに応じて変わる。これは,出力が入力だけによって決まる例である(図1)。負荷が抵抗とインダクタンスとからなる図2の場合には,入力が変化する前の電流から,変化後の最終的な状態(これを定常状態という)に向かって連続的に指数関数的に近づく。さらに図3のように抵抗とキャパシタンスとからなる回路では,いったん電流が不連続に変わってから,次の定常値に接近する。図2,3の例は,出力が入力や負荷の状態にも依存する場合である。過渡現象が起こるのは,系の状態が入力とともに出力に影響するような系の場合である。
図2の場合,最初の電流をI1,最終電流をI2(=V2/R)とし,電圧がV1からV2に変わったときをt=0とすれば,過渡現象中の電流iは,
i=I1e⁻t/t+I2(1-e⁻t/t)=I2+(I1-I2)e⁻t/t
と表現できる。1行目の式で第1項はI1が消滅するようすを,第2項は定常状態に向かう変化を示しており,その変化を示す定数Tは時定数と呼ばれる。2行目の式の第2項は,初期値I1と最終値I2の差I1-I2が消滅するようすを表している。このように,一般に過渡現象は初期条件と定常解および途中の変化のようすを表す定数とで表現できる。
変化の前後を通じて連続である系の状態を示す量から初期条件が求められる。図2の例ではインダクタンスに流れる電流が〈状態〉であり,変化直前の電流I1が直後も保存され,このI1が初期条件となる。図3の例ではキャパシタンスの電圧が〈状態〉で,変化直前のキャパシタンスの電圧V1R2/(R1+R2)が変化の前後で連続である。したがって変化直後にR1にかかる電圧は電源のV2と上記キャパシタンスの電圧との差で,これから電流の初期値I0が定まる。
エネルギー蓄積素子であるインダクタンスL,キャパシタンスCが回路に一つしかない場合,変化のようすは単純な指数関数になり,その変化の速さを表す時定数TはL/RまたはCRである。ここでRとはLまたはCから見た回路の抵抗(複数あるときは合成値)である。エネルギー蓄積素子が複数の場合,変化のようすが複雑になり,初期条件も一般には素子数だけの定数からなる。
交流回路では定常解は一定値ではなく,一定振幅一定位相の正弦波である。初期値とこの定常解のt=0における値との差が消滅していく点は前と同様である。
上記の例は電気以外の物理系にもほとんどあてはまる。例えば力学系でトルクが入力,回転速度が出力の場合,回転抵抗が電気抵抗に,慣性がインダクタンスに対応し,熱系では熱抵抗,熱容量を,電気抵抗,キャパシタンスに対応させることができる。過渡現象は,また図4のように入力の切換えをくふうすることにより,短時間に希望する最終出力が得られるなど,応用範囲は広い。
執筆者:曾根 悟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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