改訂新版 世界大百科事典 「リハビリテーション工学」の意味・わかりやすい解説
リハビリテーション工学 (リハビリテーションこうがく)
rehabilitation engineering
リハビリテーションに必要な種々の補装具などの開発・研究を行う医療工学の一分野。リハビリテーション工学の概念は障害者のリハビリテーションの拡大をめざす試みのなかで誕生した。たとえば,障害者の用いる補装具として義肢や装具の機能をより進めて身体的欠陥を補足するとか,これらの器具または機器を障害者の意志にもとづいて自由に制御できる能力を付与するとか,社会環境のなかに障害者がより適応しやすい条件をつくるために工学的立場で両者の協調を計画するなど,従来のリハビリテーション医学の範囲を越えたシステムが考えられるようになった。リハビリテーション工学の体系化を試みると,(1)補装具工学(動力義肢,電動車いす,障害者通信コントロール,環境制御装置,人工関節など),(2)運動工学(歩行解析システム,その他の運動評価),(3)神経筋工学(人工感覚,人工神経など),(4)環境および教育工学(訓練用機器,リハビリテーションプログラム機器,障害者住居など)がある。
このように分類すると,そこに関連する工学分野もさまざまであって,たとえば補装具工学には人間工学,生体工学,計測工学,制御工学,電子工学,電気工学,材料工学,機械工学などが含まれる。そのほかリハビリテーション工学にはシステム工学,情報工学,応用工学,建築工学,交通工学,都市工学なども加わってくるのである。このうちすでにある程度の進行をみせているものもあって,その一つに義肢開発があげられる。歴史的にすでにかなりの経験と研究の蓄積があり,工学分野からの積極的参加も得られたため,義肢工学の最近の進歩は著しい。諸外国においても西ドイツ(現,ドイツ),アメリカ,スウェーデンなどの研究が成果をあげており,日本も研究態勢で遅れていたものの義肢開発に向かって着手し,つぎつぎと実験的試みが発表されている。骨格型義肢はすでに実用化され,各種交換部品が切断者に応じて選択できる。
リハビリテーションに成功するためには,その個人の生活文化を十分に考慮する必要があるため,かりに義肢を選択するにしても生活条件に適したものでなければならない。動力義肢にはコントロールシステムとしてコンピューターが用いられており,実用化には今一歩である。歩行解析装置を用いた義足装着歩行訓練ならびに義肢開発などもリハビリテーション工学の実用的課題として多くとり上げられる。重度障害者の日常生活動作をある程度自力でコントロールできる環境制御装置も,実用化の段階に入ってはいるものの,なお問題が残っている。リハビリテーション工学の今後の広がりを示すものとして,運動障害に限らず,たとえば視力障害や聴覚障害,言語障害などに対する補装具や代替器具の開発が進められている。ただこれらの場合には環境や社会の適応に応じた設計を試みることも必要で,個人と社会との結びつきになると,リハビリテーション工学そのものの倫理にもかかわってくる。
執筆者:岩倉 博光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報