機械の開発、設計、製作、運転、保全など、機械に関係する学問と知識の体系。
[清水伸二]
17世紀の後半、ロバート・ボイル、ロバート・フック、クリスチャン・ホイヘンス、アイザック・ニュートンらは物理学、力学の理論的研究を進め、空気ポンプ、ばね、時計、レンズ、顕微鏡など機械技術に大きな刺激を与えた。18世紀に入ると機械技術はいっそう発展し、紡績機械、織物機械についての発明が相次いで行われ、機械工場が建設され、蒸気機関の登場により産業革命が進行した。さらに各種工作機械の発明が進み、機械工業は発展した。19世紀後半には、水力タービン、蒸気タービン、内燃機関が発明され、機械技術は一段と進歩した。このような機械を取り扱い、改良し、製造するためには、経験にのみ頼っていることはできず、自然科学の原理を身につけた機械技術の専門家が必要であった。19世紀から20世紀にかけて、イギリスをはじめとし、ヨーロッパの各地に工業専門学校が設立された。工業専門学校の目的は、機械科の場合なら機械の製造、改良などに必要な基礎的学問を教授することで、工学を機械、電気、建築、土木というように分類し、それぞれの分野での技術者教育が開始された。
日本でも1871年(明治4)技術者の養成を目的とする工学寮が開設され、土木、機械、電信、その他の6部門が置かれた。1877年に工学寮は工部大学校と改称し、1886年帝国大学工科大学となり、現在の東京大学工学部に発展した。
[中山秀太郎]
機械工学は、基礎工学分野、生産工学分野、応用工学分野などから成り立っている。基礎工学分野としては、工業力学、機械力学、材料力学、熱工学、流体工学などがある。工業力学は、力、力とモーメント、摩擦、仕事など力学の基礎となる学問である。機械力学は、外力や運動によって生ずる速度、加速度を求め、それらが機械に及ぼす影響などを研究する。また外力によっておこる振動現象も研究対象で、振動破壊を防ぐのに使われる。材料力学は、機械の構成部分に引張力や圧縮力、あるいは曲げやねじり力が加わったときにその部分がいかに変形するか、またいかなる応力が発生するかを論ずる学問である。熱工学は、内燃機関、往復形蒸気機関、蒸気タービンのように、ガソリンを燃焼させたり、高温の水蒸気を利用したりする機関の構造、運動、効率などを理論的に研究する学問である。流体工学は、水力タービンなど水の流れを利用する機械の研究に応用され、また空気の流れを利用する航空機、油圧を利用する油圧機器などの理論的研究も重要な分野である。
生産工学分野は、機械単体ならびに機械システムの設計と生産に関係する分野である。学問としては、材料工学、機構学、機械要素・トライボロジー、機械設計法や機械製図法、加工学と工作機械、計測・制御工学、生産システム工学、生体工学などがある。材料工学は、機械の各部に作用する外力、運動によって生ずる摩耗、疲れ、あるいは腐食などさまざまな条件に耐える材料を選ぶのに必要な学問である。力を考えることなしに機械各部の相対運動を対象とするのが機構学で、機械が目的に応じていかなる動きをしたらよいのかを知る学問である。目的にあった性能をもつ機械をどのようにつくったらよいかを考える機械設計、設計したものを実際に製作する方法を考える加工学も機械工学の分野である。また、機械全体を一つのシステムとして、いかに効率よく制御するかを研究する制御工学もこの分野に含まれる。
応用工学分野は、特定の機械あるいは、機械システムの種類ごとに固有な技術を対象とする学問分野である。たとえば、対象となる機械には、産業機械、流体機械、熱原動機、交通機械、ロボット、医療・福祉機器、宇宙機器などがあり、学問として、自動車工学、ロボット工学などがあげられる。
[中山秀太郎・清水伸二]
『池谷武雄・大西清・大沢誠一著『機械工学入門』(1960・オーム社)』▽『機械工学ポケットブック編集委員会編『新版・機械工学ポケットブック』(1983・オーム社)』▽『日本機械学会編・刊『機械工学便覧 基礎編α1 機械工学総論』(2005)』
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