知恵蔵 の解説
レイモンド・チャンドラー
39年、私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする処女長編『大いなる眠り(原題The Big Sleep)』を発表し、人気を博す。以後、40年に『さらば愛しき女よ(原題Farewell, My Lovely )』、42年に『高い窓(原題The High Window)』、53年に『長いお別れ(原題The Long Goodbye)』など、マーロウシリーズの長編を発表し、ダシール・ハメットらと並ぶハードボイルドの代表的作家の地位を築き、マーロウはハードボイルド探偵の代名詞と評されるようになった。
チャンドラーは、49年に発表した『かわいい女(原題The Little Sister)』、58年の『プレイバック(原題Playback)』を含め、生涯に7作の長編と24作の中短編を残し、中でも『さらば愛しき女よ』と『長いお別れ』は傑作とされている。長編は何度も映画化されており、ディック・パウエル、ロバート・ミッチャム、ハンフリー・ボガートら名優がマーロウを演じている。
40年代には自らハリウッド映画の脚本化として創作を始め、43年にビリー・ワイルダー監督との共作による「深夜の告白(原題Double Indemnity)」を公開し、アカデミー賞にノミネートされる。46年に公開された「ブルー・ダリア/青い戦慄(原題The Blue Dahlia)」は、チャンドラー唯一のオリジナル脚本作品で、2度目のオスカー候補作品となった。
54年、妻が亡くなると、傷心により深い抑うつ状態となり、アルコール中毒や複数の健康上の問題を抱えた。59年、カリフォルニア州ラホヤにて死去。
日本では、チャンドラーの長編は『大いなる眠り』を除き清水俊二による翻訳で広く読まれてきた。チャンドラーから影響を受けた作家の1人、村上春樹は、自ら作家として最も影響を受けた作品の一つとする『ロング・グッドバイ』を2007年に翻訳出版したのを最初に、チャンドラーの作品の新訳に取り組んでいる。12年に刊行された文藝春秋『東西ミステリーベスト100』では、6位に『長いお別れ/ロング・グッドバイ』がランクインした。
(葛西奈津子 フリーランスライター / 2014年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報