耶麻郡猪苗代町・磐梯町・
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
福島県北部,猪苗代湖北方に位置する火山。頂上付近の直径約1.5kmの沼ノ平火口を中心に円錐形の山容を呈し,会津富士ともいわれている。《万葉集》の東歌に〈会津嶺(あいづね)〉と詠まれ,民謡《会津磐梯山》でも親しまれている。沼ノ平火口は琵琶沢などの浸食谷によって火口壁が破壊され,このため山頂が主峰の大磐梯山(1819m),櫛ヶ峰(1636m),赤埴(あかはに)山(1430m)の3峰に分かれている。この火口は806年(大同1)に爆発した古い噴火口で,火口内には大小の沼や高層湿原があり,コケ類の繁茂が特に顕著である。磐梯山の北側は1888年の大爆発によってすっかり地形が変わり,斜面には北に開いた直径2kmの馬蹄形の爆発カルデラがある。この爆発の泥流によって生じた堰止湖の檜原湖,小野川湖,秋元湖などを含む一帯は磐梯高原(裏磐梯高原)とよばれる。一方,表磐梯とよばれる南側はゆるやかな円錐形の形態をよく残し,磨上(すりあげ)原などで代表されるようなすそ野が広くみられる。
磐梯朝日国立公園に属し,1970年に磐梯山西麓を通り表磐梯と磐梯高原を結ぶ有料道路磐梯ゴールドライン(延長約18km)が,72年には磐梯高原を通る磐梯吾妻レークライン(約13km)が開通し,これによりすでに開通していた磐梯吾妻スカイラインと一体となった広域山岳高原観光ルートが完成し,急速に観光地化が進んだ。磐梯山南面に国設猪苗代スキー場(現,猪苗代スキー場中央)があり,ふもとには民宿も多い。また,西の猫魔ヶ岳に続く山稜,1280mの高所には中ノ湯温泉(酸性緑バン泉,85℃)があり,猪苗代町見禰(みね)には,1888年の噴火の際に火口から泥流によって約5kmも運ばれた長さ9m,幅6m,高さ3mの巨大な安山岩塊の〈見禰の大石〉(天)がある。
執筆者:水野 裕
磐梯山が分布する地域は会津構造盆地の北東縁で,棚倉破砕帯の延長部に相当する。磐梯山の基盤岩類は中新世から鮮新世の砂質,泥質および凝灰質の堆積岩である。磐梯山の火山活動開始時期はよくわかっていないが,西に隣接する猫魔ヶ岳の活動の終息後で,約30万年前ころには活動していたと推定される。活動前期は火山砕屑物を,後期は溶岩をそれぞれ多く噴出させ,総噴出量は約30km3と推定される。磐梯山の岩石はすべて輝石安山岩で,一般に斑晶含量が比較的多い。磐梯山の有史時代の活動で記録に残っていて確からしいのは,806年と1888年とで,ともに水蒸気爆発型の活動であった。
著名な1888年の噴火は,爆発性が強く,マグマを噴出させないウルトラブルカノ式の活動であった。活動は7月15日午前7時45分に開始され,おもな活動は最初の約2時間くらいであった。かつての小磐梯山の山頂部を構成した多量の火山砕屑物が一瞬にして(時速約80km),北麓山村を襲い,大きな被害を与えた(この火山砕屑物の流動現象を岩屑流あるいはドライアバランシュという)。被害は5村11集落におよび,死者461名に達した。また檜原川,長瀬川などがせき止められて,大小100余の湖沼が生まれた。小磐梯山山頂部は完全に失われ,U字形に開いた凹地形(馬蹄形爆発カルデラ)が形成された。この噴火活動の総エネルギーは約1023erg,爆発の圧力は約60気圧と推定されている。この噴火現象はアメリカのワシントン州南西端にあるセント・ヘレンズ火山の1980年5月18日の活動とも酷似し,注目されている。
執筆者:中村 洋一
磐梯山は山麓部の住民から農業神の山として信仰されているほか,かつては修験道の霊場でもあった。ただし修験道の道場としては吾妻山も含む山々にまたがって展開されており,磐梯山はその一画を占めてきたとみられる。そのなかで磐梯山をきわだたせたのは,徳一の開基と伝える慧日(えにち)寺(現,恵日寺)の存在である。一時,子院3800坊,寺僧300人,僧兵数千人,寺領18万石の勢力を誇ったとも称され,その繁栄ぶりは永正8年(1511)銘のある絹本著色《恵日寺絵図》の伽藍配置や遺物などから知られるが,1589年(天正17)伊達政宗の会津侵攻によって炎上,その後再建されたものの,かつての隆盛を再現することはなかった。寺跡は慧日寺跡として国の史跡に指定されている。恵日寺および磐梯山をめぐる信仰習俗のなかでイナバツと称される習俗は注目される。これは大頭小頭といい,曲物をつけた木製鉾を持って村々を巡り初穂を集める習俗で,慧日寺の権威と山麓住民の磐梯山に寄せる信仰によって維持されてきたものである。
執筆者:宮本 袈裟雄
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福島県北部、耶麻(やま)郡の猪苗代(いなわしろ)、磐梯の2町と北塩原村にまたがる火山。標高1816メートル。新第三紀の砂質、泥質と凝灰質の堆積(たいせき)岩を基盤とする輝石安山岩の成層火山で、いまから3万年ほど前から活動してきたらしく、また、有史以後の噴火は水蒸気爆発2回だけである。頂部には、主峰の大磐梯や櫛ヶ峰(くしがみね)、赤埴(あかはに)山などで囲まれた直径約1.5キロメートルの沼ノ平火口があり、内部に大小の沼や高層湿原がある。火口は806年(大同1)に爆発、そのとき南方の猪苗代湖ができたという伝説があるが、信じがたい。火口の北壁をなしていた小磐梯山は、1888年(明治21)7月15日に突発した大爆発で崩壊し(1.2立方キロメートル余)、直径約2キロメートルのU字形の爆発カルデラができた。大岩屑(がんせつ)流が時速約80キロで北麓(ほくろく)に押し出し、諸集落を埋没し(死者461人)、裏磐梯三湖などの多数の湖沼を生じた。長い休眠後におきたこの大水蒸気爆発を典型とする特殊な噴火形式を磐梯式噴火という。1938年(昭和13)と1954年(昭和29)に、カルデラ壁大崩壊で被害を出した。カルデラ壁や沼ノ平火口内には硫気孔が散在。南麓の磐椅神社(いわはしじんじゃ)は山霊を祀(まつ)るが、椅は梯と同義で、天に昇る磐のはしごの意。農業神である。会津富士と仰がれ、民謡「会津磐梯山」でも親しまれ、磐梯朝日国立公園に属す。八方台口からの登山路が歩行距離最短だが、猪苗代口、翁島(おきなじま)口、裏磐梯口、川上口などからも登れる。若松測候所が常時火山観測中。
[諏訪 彰]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域遺産」事典 日本の地域遺産について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
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