村上春樹(読み)ムラカミハルキ

デジタル大辞泉 「村上春樹」の意味・読み・例文・類語

むらかみ‐はるき【村上春樹】

[1949~ ]小説家。京都の生まれ。処女小説「風の歌を聴け」でデビュー。「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で谷崎潤一郎賞受賞。「ノルウェイの森」は空前のベストセラーとなる。他に「羊をめぐる冒険」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」など。平成18年(2006)フランツ‐カフカ賞、フランク‐オコナー国際短編賞を受賞するなど、海外でも高い評価を受けている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「村上春樹」の意味・わかりやすい解説

村上春樹
むらかみはるき
(1949― )

小説家。京都市生まれ。間もなく兵庫県西宮市、さらに芦屋市に転居、10代のほとんどをこの地で過ごす。早稲田大学第一文学部演劇科卒業(卒論は「アメリカ映画における旅の思想」)。大学在学中の1971年(昭和46)、学生結婚。74年にはジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺に開店する(のちに千駄ヶ谷に移転)。「毎日夜遅くまで働いて、夜中にビールを飲みながら台所のテーブルに向かって書いた」(「自作を語る」『村上春樹全作品1979―1989』第1巻)最初の小説『風の歌を聴け』(1979)が、『群像』新人文学賞を受賞。選考委員からは「近来の収穫」(吉行淳之介)、「この新人の登場は一つの事件」(丸谷才一)と評された。同作、『1973年のピンボール』(1980)、『羊をめぐる冒険』(1982。野間文芸新人賞)の三部作により、即妙で乾いた会話を特色とする「ムラカミ・ワールド」を確立、後発するほとんどすべての作家に影響を与えることとなる。

 村上に、折しも「高度資本主義社会」のただ中にあった時代の軽やかな預言者/代弁者像を重ね合わせる趨向(すうこう)は、「計算士」の「私」と「夢読み」の「僕」の物語が交互に進行する『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』(1985。谷崎潤一郎賞)や、1年間で270万部を売り上げた『ノルウェイの森』(1987)の成功によっていっそう揺るぎないものとなったが、三部作の続編というべき『ダンス・ダンス・ダンス』(1988)について「主人公の『僕』がことあるごとに、いわば宿命的に、羊男とドルフィン・ホテルというデフォルメされた自己核に引き戻されていくように、作家としての僕もいつも何かの節目にさしかかるたびに、宿命的に羊男という存在に、引き寄せられていった」(「自作を語る」『村上春樹全作品1979―1989』第7巻)と述べているように、彼の小説家としての特質は、あくまでも「時が経過すればするほど、事実とフィクションという二つのダイナミズムは、特性の違いを乗り越えて、だんだん近接してくるのではないか」(マイケル・ギルモア Mikal Gilmore(1951― )著『心臓を貫かれて』「訳者あとがき」)というビジョンにこそあるといってよい。この傾性はノモンハン事件にも材をとった『ねじまき鳥クロニクル』(第1部「泥棒かささぎ編」1992~93、第2部「予言する鳥編」1994、第3部「鳥刺し男編」1995。読売文学賞小説賞)に具象化され始めていたが、「1995年3月20日の朝に、東京の地下でほんとうに何が起こったのか」を解くため、60人を超す地下鉄サリン事件の被害者・関係者に取材したノンフィクションアンダーグラウンド』(1997)および加害者側であるオウム真理教の信者らへのインタビューに基づく『約束された場所で』(1998)の発表で、より明確なかたちでわれわれの眼前に提示されるに至った。したがって、少年期の思い出の地を襲った阪神・淡路大震災への衝迫に貫かれた連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』(2000)もまた、「1995年1月17日の朝に、神戸の地でほんとうに何が起こったのか」との問いにおいて読まれる必要があるだろう。こうした「事実」へのコミットメントに関して、しばしば対比的に論じられる村上龍とは、互いのデビュー直後に対談集『ウォーク・ドント・ラン』(1981)が刊行されており、「この人(=村上龍)に必要なものは、『職業』ではなく『状況』なのだ」等々の率直かつ先見的な発言が興味深い

 ほかには『回転木馬のデッド・ヒート』(1985)、『パン屋再襲撃』(1986)、『国境の南、太陽の西』(1992)、『スプートニクの恋人』(1999)などの作品があり、レイモンド・カーバー Raymond Carver(1939―88)、スコット・フィッツジェラルド、ジョン・アービング など、現代アメリカ文学を中心に翻訳も多数手がけている。

[水谷真人]

『『村上春樹全作品1979―1989』全8巻(1990~91・講談社)』『『海辺のカフカ』上下(2002・新潮社)』『『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『ノルウェイの森』『ダンス・ダンス・ダンス』『アンダーグラウンド』『回転木馬のデッド・ヒート』『国境の南、太陽の西』『スプートニクの恋人』(講談社文庫)』『『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)』『『約束された場所で』『パン屋再襲撃』(文春文庫)』『村上龍・村上春樹著『ウォーク・ドント・ラン』(1981・講談社)』『マイケル・ギルモア著、村上春樹訳『心臓を貫かれて』(文春文庫)』『レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳『The Complete Works of Raymond Carver――レイモンド・カーヴァー全集』1~7(1990~2002・中央公論新社)』『スコット・フィッツジェラルド著、村上春樹訳『マイ・ロスト・シティー』(中公文庫)』『ジョン・アーヴィング著、村上春樹訳『熊を放つ』(中公文庫)』『加藤典洋ほか著『群像日本の作家26 村上春樹』(1997・小学館)』『『ユリイカ』臨時増刊「総特集=村上春樹を読む」(2000・青土社)』

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知恵蔵 「村上春樹」の解説

村上春樹

日本の小説家、翻訳家、エッセイスト。1949年1月12日、京都府生まれ。1979年、ジャズ喫茶を経営するかたわらで書いた『風の歌を聴け』で講談社の群像新人文学賞を受賞してデビュー。代表作に『羊をめぐる冒険』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』など。また、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(J・D・サリンジャー)、『グレート・ギャツビー』(スコット・フィッツジェラルド)、『ティファニーで朝食を』(トルーマン・カポーティ)など多数の翻訳を手がける。
国内外で評価が高く、欧米、アジアなど約50カ国で作品が翻訳出版されている。恋愛、社会背景、哲学、音楽などの要素を巧みに織り交ぜた、ときに難解な物語が特徴。
幼い頃から外国文学に親しみ、自分にとっての名文を書く作家としてスコット・フィッツジェラルド、トルーマン・カポーティ、レイモンド・チャンドラー、カート・ボネガットなどを挙げている。アメリカ文学から受けた影響も作品の随所に表れている。
代表作として知られる『羊をめぐる冒険』は、専業作家になって最初に書いた小説であると語っており、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』と合わせて、登場人物に「僕」と「鼠(ねずみ)」が共通して出てくることから「三部作」と呼ばれている。同じく代表作である、87年発表の『ノルウェイの森』は1年間で270万部を売り上げ、88年に第23回新風賞を受賞。この作品をきっかけに村上春樹の名が一気に世の中に知れ渡った。2009年には1千万部を突破し、単行本・文庫本などを含めると累計1千万3400部を突破している。
1982年『羊をめぐる冒険』で第4回野間文芸新人賞、85年『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で第21回谷崎潤一郎賞を受賞。海外でも、2006年にチェコの「フランツ・カフカ賞」、09年にイスラエルの「エルサレム賞」、11年にスペインの「カタルーニャ国際賞」を受賞するなど、数々の賞を受賞している。また、ノーベル文学賞候補として毎回注目されるが、こちらはおしくも受賞を逃し続けている。
記録的な発行部数でもたびたび話題になっており、2009年5月、長編小説『1Q84』の第1巻『BOOK1』、第2巻『BOOK2』を刊行すると、2冊の合計が発売から2週間たらずで100万部を超える。1巻~3巻の累計は10年5月までで320万部を超え、単行本としては異例の部数を誇った。また第3巻『BOOK3』の発売時には、東京や大阪などの書店が開店時間を繰り上げ早朝から販売を開始。米国で『1Q84』の英訳本が発売された11年には、米国でも通常の営業時間を変更して夜中から臨時営業する書店が登場した。13年4月に刊行した最新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、発売から1週間で100万部を発行した。
音楽への造詣(ぞうけい)も深く、11年11月には、世界的な指揮者・小澤征爾氏との対談をまとめた『小澤征爾さんと、音楽について話をする』を発行。フル・マラソンやトライアスロン・レースにも参加しており、フル・マラソンは13年までに世界各地で33回参加している。作品だけでなく、生活スタイルや志向性・人間性に心酔する熱狂的なファンもおり、通称ハルキストと呼ばれている。

(富岡亜紀子  ライター / 2013年)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「村上春樹」の解説

村上春樹 むらかみ-はるき

1949- 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和24年1月12日生まれ。昭和54年「風の歌を聴け」で群像新人文学賞。「羊をめぐる冒険」(57年野間文芸新人賞)など独特の喪失感のただよう作品をつぎつぎに発表,62年刊の「ノルウェイの森」は空前のベストセラーとなった。平成8年「ねじまき鳥クロニクル」で読売文学賞。9年「アンダーグラウンド」,12年「神の子どもたちはみな踊る」,14年「海辺のカフカ」を刊行。現代アメリカ文学の翻訳も多数ある。18年フランツ-カフカ賞,フランク-オコナー国際短編賞を受賞。19年朝日賞。21年イスラエルのエルサレム賞。同年「1Q84」(BOOK1・2)で毎日出版文化賞。24年国際交流基金賞。同年小澤征爾との共著「小澤征爾さんと、音楽について話をする」で小林秀雄賞。26年ドイツのウェルト文学賞を受賞。京都府出身。早大卒。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「村上春樹」の意味・わかりやすい解説

村上春樹
むらかみはるき

[生]1949.1.12. 兵庫
小説家。 1973年早稲田大学演劇科卒業。 74~81年ジャズ喫茶店を経営する。 79年『風の歌を聴け』で群像新人賞受賞。以後『1973年のピンボール』 (1980) ,『羊をめぐる冒険』 (82) ,『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 (85) ,『ノルウェイの森』 (87) ,『ダンス・ダンス・ダンス』 (88) と続く諸作品がいずれもベストセラーとなった。 F.S.フィッツジェラルド,R.カーバーなどアメリカの現代作家の翻訳も多く,それが自身の文体のもとにある。作品は一見都会的でおしゃれであるが,言語への懐疑,都市生活の空虚さへの凝視が見え隠れし,その明るい虚無感が特に若者たちの共感を呼んでいる。

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百科事典マイペディア 「村上春樹」の意味・わかりやすい解説

村上春樹【むらかみはるき】

小説家,翻訳家。京都市生れ。早大文学部卒。主な作品に《風の歌を聴け》《1973年のピンボール》《羊をめぐる冒険》の3部作,谷崎潤一郎賞を受賞した《世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド》《ノルウェイの森》などがある。とくに若い読者に絶大な支持を受けている。レイモンド・カーバー,スコット・フィッツジェラルドなど,アメリカ現代文学の翻訳も手がける。

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