レンゲソウ(読み)れんげそう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レンゲソウ」の意味・わかりやすい解説

レンゲソウ
れんげそう / 蓮華草
[学] Astragalus sinicus L.

マメ科(APG分類:マメ科)の二年草。中国原産。排水した水田緑肥用に栽培されるが、野生化もしている。ゲンゲ翹揺)、レンゲともいう。秋に発芽し、茎は地面をはい、分枝し、春に高さ10~30センチメートルに伸び立って、花をつける。葉は羽状複葉で9~11枚の小葉からなり、小葉は楕円(だえん)形、長さ0.8~1.5センチメートル。花は長さ10~20センチメートルの花柄の先に多数固まってつく。その並び方が仏像蓮華(れんげ)台のようなのでレンゲの名がついたという。個々の花は紅紫色、長さ1.2センチメートルで、蝶形花(ちょうけいか)で旗弁と竜骨弁は等長。果実は莢(さや)状で直立し、長さ2~2.5センチメートル、先は嘴(くちばし)状。熟すと黒くなり、中に帯黄色で腎臓(じんぞう)形の種子が数個ある。かつて稲作の緑肥用として栽培された。稲刈りのすこし前、灌漑(かんがい)をやめたころに、稲の間に10アール当り3~5キロメートルばら播(ま)きする。春に花盛りのころ、田に鋤(す)き込む。しかし現在は、春の田起こしが昔より1か月以上も早まったことと、生草の鋤き込みが、夏に稲の根に有害な物質を発生させる緑肥に頼らなくても化学肥料が十分に供給できるなどの理由で、レンゲの緑肥栽培は現在ではほとんどみられなくなった。若葉はゆでたり油炒(いた)めにして食べる。また全草を干してとっておき、煎(せん)じて飲み、利尿、解熱、リウマチなどの民間薬とする。

[星川清親 2019年11月20日]

文化史

レンゲの名は『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)に「京畿(けいき)の小児これをレンゲバナと云(い)ふ」とみえ、この呼び名から由来した。『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』(1695)は、まだスイレンを蓮華(れんげ)と扱う。『大和本草』には子供の遊び、馬の飼料、若葉の食用の記述がある。水田緑肥は江戸後期からで、佐藤玄明窩(げんめいか)が緑肥を口述した『培養(ばいよう)秘録』(1784)にはみえず、大蔵永常(ながつね)の『農家肥培論』(1826)にも、備前(びぜん)、備中(びっちゅう)、伊勢(いせ)などで緑肥とすると書かれ、関東などには触れていない。全国的に広がるのは明治以降である。

「奈良七重菜の花つづき五形(れんげ)咲く」 漱石(そうせき)
[湯浅浩史 2019年11月20日]


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改訂新版 世界大百科事典 「レンゲソウ」の意味・わかりやすい解説

レンゲソウ (蓮華草)
milk vetch
Astragalus sinicus L.

春の草花として最も親しまれている植物の一つで,中国原産のマメ科の越年草。レンゲ,ゲンゲともいう。緑肥として全国で広く栽培され(最盛期は全国で30万ha),今日では田畑,野原,土手,道端などの日当りのよいやや湿った土地に野生化している。高さ10~30cm。葉は互生し,羽状複葉で9~11枚の奇数個の小葉をつける。4~6月に葉腋(ようえき)から10~15cmの花柄を伸ばし,先端に7~10個の蝶形花をつける。この様子をハスの花に見立て蓮華草とよんだ。花は長さ12~14mm,紅紫色で内面に白斑がある。果実は細長い円筒形で先はくちばし状にとがり,長さ2~2.5cm,無毛,黒色に熟する。近年は九州を中心に1万haばかりが栽培され,緑肥のほか,牧草ともされる。種子や全草を薬用として,利尿,解熱,リウマチなどの治療に用いる。若芽をゆでて食用とするほか,蜜源植物としても重要である。

 ゲンゲ属Astragalus(英名locoweed,milk vetch)は約2000種あり,世界に広く分布する。日本には8種が自生している。タイツリオウギA.membranaceus Bungeは北海道と本州中部地方に生える多年草で高さ40~70cm。7~9月に多数の黄色花を穂につける。果実はやや膨らんだ楕円形で,長さ3~4cm。果実が果柄についている状態を,鯛を釣り上げた様子に見立てて,和名となった。オウギは中国産ゲンゲ属の黄蓍(おうぎ)で,薬用植物として知られている。モメンヅルA.reflexistipulus Miq.は日本固有の植物で,北海道と本州の山ろく草地に生える。高さ30~80cmの多年草。6~8月に黄色花をつける。果実は細い円柱形で長さ3.5~4.5cm。ムラサキモメンヅルA.adsurgens Pall.は北海道と本州(中部以北)の高山岩場などに生育する多年草で,高さ10~40cm。7~8月に紅紫色花をつけ,果実はやや膨らんだ狭楕円形で,長さ約1cm。
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百科事典マイペディア 「レンゲソウ」の意味・わかりやすい解説

レンゲソウ

ゲンゲとも。中国原産のマメ科の二年草。緑肥,飼料として田に多く作られ,日当りのよい原野,道端などに野生化する。茎は細く地をはい,奇数羽状複葉の葉を互生し,小葉は9〜11枚ついて倒卵形。春,葉腋から花柄を立て,先端に紅紫色まれに白色の蝶(ちょう)形花を数個輪状につける。豆果は黒熟し上を向く。なお,根には球状の根粒が着生し,根粒菌が共生。
→関連項目牧草

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レンゲソウ」の意味・わかりやすい解説

レンゲソウ(蓮華草)
レンゲソウ
Astragalus sinicus; milk vetch

マメ科の越年草で,中国大陸原産。日本では田地に栽培されるが野生化したものも多い。茎は基部で多数に分枝し地面をはう。葉は長さ5~10cmの奇数羽状複葉で互生し,葉柄の基部に1対の托葉がある。小葉は4~5対あって卵形で先端がややくぼみ,質は薄い。4~5月に,葉のつけ根から長い柄を出し,その頂部に紅紫色または白色の蝶形花を数個輪状につける。この花のつき方をハスの花に見立てレンゲソウの名があるが,ゲンゲとも呼ばれる。花後,短い円柱形の莢が放射状に集った集合果をつくる。莢は黒く熟し先端が嘴状にとがる。根には根粒バクテリアが共生し,空中窒素を固定するので,緑肥として用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内のレンゲソウの言及

【ベッチ】より

…飼料や緑肥として利用されるマメ科の植物。おもにソラマメ属Viciaの植物をさすが,このほかにゲンゲ属Astragalusのゲンゲ(レンゲソウ)などもミルクベッチmilk vetchと呼んで同類に含める。飼料用あるいは緑肥用に利用されるベッチのおもなものには次のような種がある。…

【豆】より

…マメ科の牧草は土地を肥沃にするだけでなく,タンパク質やアミノ酸の含有量も高いため良好な家畜飼料になる。また,生育したマメ科植物を土壌中にすきこんだり(緑肥),堆肥を作ることも広く行われ,日本のレンゲソウはその典型的な例である。 マメ科植物は種々の配糖体を有していたり,窒素を含有する化合物であるアミン類を含有するものが多く,これらは特有の生理活性を示し,薬用植物にされるものも多い。…

※「レンゲソウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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