日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロケット推進薬」の意味・わかりやすい解説
ロケット推進薬
ろけっとすいしんやく
ロケットは、なんらかの作動物質を高速で後方に噴出し、その反作用として推進力を発生する。この作動物質を推進薬、または推進剤という。原子力ロケットのように、別途エネルギーの得られるものについては、なるべく原子量の小さい水素などが用いられるし、また電気的な加速を行うロケットでは、電気的な取扱いの容易さによって推進薬が決まる。ロケットの主力を占める化学ロケットでは、推進薬はエネルギー発生と作動物質との両方の機能をもつものでなければならない。固体推進薬と液体推進薬とに分類される。
主要な固体推進薬には、黒色火薬・ダブルベース・コンポジットなどがある。黒色火薬は初期のものであり、今日では主として点火薬として用いられる。ダブルベースは無煙火薬の成分をなすもので、燃焼すると完全に分解してガス状になるので、黒色火薬に比べて性能が著しく向上している。コンポジット系は、燃料が結合剤の役割も兼ねて酸化剤を固めたものである。最近では、合成ゴム系の燃料が用いられる。一般に、燃焼率の調整、貯蔵中の安定性、機械的性質や鋳込み特性を向上させる目的で、酸化剤と燃料のほかに少量の添加剤が加えられる。
液体推進薬は、酸化剤と燃料とが異なる二液式推進薬と、それらを化学的に結合させた一液式推進薬に分けられる。一液式推進薬は、通常、触媒により分解し、得られた高温高圧ガスを噴出して推力を得るものであるが、二液式に比べて性能が悪く、姿勢制御用などの補助エンジン用に用いられる。代表的なものは過酸化水素である。液体推進薬は、性能がよく安定性があり、毒性がなく取扱いが容易であることが要求される。液体酸素および液体水素は極低温推進薬とよばれ、取扱いに注意を要する。とくに沸騰点が零下253℃の液体水素は、そのままでは液体水素タンク表面に大気中の窒素や酸素が凝固付着するので、タンクには断熱防護対策が必要である。しかし、液体酸素と液体水素の組合せは、他の推進薬に比べてはるかに比推力が大きいので、高性能を要求されるエンジンに用いられる。長時間保存型の推進薬には四酸化二窒素系のものが用いられている。
[河崎俊夫]