発射薬のうちニトロセルロース、ニトログリセリンなどを主剤とする火薬をいう。黒色火薬と異なり、発砲の際に煙が少ないので無煙火薬とよばれるようになった。1884年フランスのビエイユPaul Vieille(1854―1934)は、ニトロセルロースをエーテル、アルコール混合液で膠化(こうか)させ、これを成型して乾燥し、本格的な無煙火薬をつくった。これは砲用発射薬として優れていたので、1886年フランスは陸軍の制式火薬とし、当時の陸軍大臣ブーランジェGeorges Ernest Jean Marie Boulanger(1837―1891)の功績をたたえてB火薬と名づけた。B火薬は今日のシングルベース無煙火薬のはしりであった。
1887年スウェーデンのノーベルは、窒素量約12%のニトロセルロースとニトログリセリンとを混ぜて練って成型して無煙火薬をつくり、バリスタイトと命名した。1888年にイギリスのアーベルFrederick Augustus Abel(1827―1902)とJ・デュワーは、窒素量13%以上のニトロセルロースとニトログリセリンとの混合物をアセトンで練って成型し、溶剤を蒸発させて無煙火薬をつくり、コルダイトと命名した。バリスタイトおよびコルダイトは、ニトロセルロースとニトログリセリンからなる今日のダブルベース無煙火薬の始まりである。
第二次世界大戦中、ドイツおよびイギリスでは、無煙火薬にニトログアニジンを加える研究が行われ、砲孔内の焼食を抑制し、砲孔炎を少なくすることに成功した。このニトロセルロース、ニトログリセリンおよびニトログアニジンの3成分を主剤とする無煙火薬はトリプルベース無煙火薬とよばれている。現在、無煙火薬をさらに改良する試みとしてRDX(ヘキソーゲン)などの高性能爆薬やエネルギー可塑剤(単位質量当りのエネルギーが高く、なおかつ、ある材料に柔軟性を与えたり、加工しやすくしたりするために添加する物質)を配合する研究などが行われている。
[吉田忠雄・伊達新吾]
無煙火薬はニトロセルロース,ニトログリセリンなどを主剤とする火薬で,発射薬や推進薬として用いられている。発射の際に,黒色火薬と異なり煙の発生が少ないので無煙火薬といわれるようになったが,厳密な意味での無煙ではない。1884年フランスのビエイユP.Vieilleはニトロセルロースをエーテルとアルコールの混合液で膠化(こうか)させ,これを成形して乾燥し本格的な無煙火薬をつくった。これは砲用発射薬として優れていたので,86年フランス政府は陸軍の制式火薬とし,当時の陸軍大臣ブーランジェG.E.Boulangerの功績をたたえB火薬と名づけた。B火薬は今日のシングルベース無煙火薬のはしりである。88年スウェーデンのA.ノーベルは窒素量約12%のニトロセルロースとニトログリセリンを混ぜて練って成形し無煙火薬をつくりバリスタイトBallistiteと呼んだ。89年イギリスのアーベルF.Abelは窒素量13%以上のニトロセルロースとニトログリセリンの混合物をアセトンで練って成形し,溶剤を飛ばして無煙火薬をつくり,これをコルダイトCorditeと命名した。バリスタイトやコルダイトは今日のダブルベース無煙火薬の原型となった。第2次大戦中,ドイツとイギリスでは無煙火薬にニトログアニジンを加える研究が行われ,砲腔内の焼食を抑制し,砲口炎を少なくすることに成功した。このニトロセルロース,ニトログリセリンおよびニトログアニジンの3成分を主剤とした無煙火薬をトリプルベース無煙火薬と呼んでいる。現在,無煙火薬をさらに改良する試みとしてHMXなどの爆薬を配合する研究が行われている。
無煙火薬は黒色火薬に比べて発射能力が大きく,発射効率を上げるための燃速の調節が可能で,銃砲腔を焼食する作用が少なく,煙が少なく,弾道性能が良好であるという利点をもっている。しかし,一方では安定性が悪く,無煙火薬の自然発火で火薬庫が爆発し,軍艦が沈没するという事故がかなり起こった。このために,ニトロセルロースの精製安定化が行われ,自然発火を抑制する安定剤の添加が行われるようになった。さらに定期的な安定度試験を行って,不安定となった無煙火薬を早期発見し廃棄処分するような方策がとられている。
執筆者:吉田 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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発射薬のうち,その使用に際して発生する煙が少ないものを無煙火薬という.黒色火薬,褐色火薬などを発射薬として用いるときは多量の煙を発生し,なおかつ砲身に残りかすが残るので,これらの有煙火薬の欠点を改良して1884年ごろより無煙火薬が登場した.無煙火薬を大別すると次の3種類となる.
(1)シングルベース火薬:ニトロセルロースを基剤とする火薬でニトロセルロースをアセトン,エーテル.アルコールなどの揮発性溶剤でこねあわせ管状,板状などに成形する.
(2)ダブルベース火薬:ニトロセルロースとニトログリセリンを基剤とする火薬で,揮発性溶剤または不揮発性溶剤を使用して成形する.
(3)トリプルベース火薬:ニトロセルロース,ニトログリセリン,ニトログアニジンの3成分を基剤とし,揮発性溶剤を加えて成形する.
無煙火薬は銃砲用,砲用,ロケット用などの発射薬として用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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