無煙火薬(読み)ムエンカヤク(その他表記)smokeless powder

デジタル大辞泉 「無煙火薬」の意味・読み・例文・類語

むえん‐かやく〔‐クワヤク〕【無煙火薬】

黒色火薬に比べて、発煙量が非常に少ない火薬ニトロセルロースニトログリセリンなどを用いた火薬をいう。

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精選版 日本国語大辞典 「無煙火薬」の意味・読み・例文・類語

むえん‐かやく‥クヮヤク【無煙火薬】

  1. 〘 名詞 〙 発射薬一つ発射するときに煙が出る黒色火薬にくらべ、煙の発生量がずっと少ない火薬をいう。ニトロセルロース、ニトログリセリンなどを用いる。
    1. [初出の実例]「既に無煙火薬にして発明し得らるる上は」(出典:東京朝日新聞‐明治二七年(1894)四月一四日)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「無煙火薬」の意味・わかりやすい解説

無煙火薬
むえんかやく
smokeless powder

発射薬のうちニトロセルロース、ニトログリセリンなどを主剤とする火薬をいう。黒色火薬と異なり、発砲の際に煙が少ないので無煙火薬とよばれるようになった。1884年フランスのビエイユPaul Vieille(1854―1934)は、ニトロセルロースをエーテル、アルコール混合液で膠化(こうか)させ、これを成型して乾燥し、本格的な無煙火薬をつくった。これは砲用発射薬として優れていたので、1886年フランスは陸軍の制式火薬とし、当時の陸軍大臣ブーランジェGeorges Ernest Jean Marie Boulanger(1837―1891)の功績をたたえてB火薬と名づけた。B火薬は今日のシングルベース無煙火薬のはしりであった。

 1887年スウェーデンのノーベルは、窒素量約12%のニトロセルロースとニトログリセリンとを混ぜて練って成型して無煙火薬をつくり、バリスタイトと命名した。1888年にイギリスのアーベルFrederick Augustus Abel(1827―1902)とJ・デュワーは、窒素量13%以上のニトロセルロースとニトログリセリンとの混合物をアセトンで練って成型し、溶剤を蒸発させて無煙火薬をつくり、コルダイトと命名した。バリスタイトおよびコルダイトは、ニトロセルロースとニトログリセリンからなる今日のダブルベース無煙火薬の始まりである。

 第二次世界大戦中、ドイツおよびイギリスでは、無煙火薬にニトログアニジンを加える研究が行われ、砲孔内の焼食を抑制し、砲孔炎を少なくすることに成功した。このニトロセルロース、ニトログリセリンおよびニトログアニジンの3成分を主剤とする無煙火薬はトリプルベース無煙火薬とよばれている。現在、無煙火薬をさらに改良する試みとしてRDXヘキソーゲン)などの高性能爆薬やエネルギー可塑剤(単位質量当りのエネルギーが高く、なおかつ、ある材料に柔軟性を与えたり、加工しやすくしたりするために添加する物質)を配合する研究などが行われている。

吉田忠雄・伊達新吾]

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改訂新版 世界大百科事典 「無煙火薬」の意味・わかりやすい解説

無煙火薬 (むえんかやく)
smokeless powder

無煙火薬はニトロセルロース,ニトログリセリンなどを主剤とする火薬で,発射薬や推進薬として用いられている。発射の際に,黒色火薬と異なり煙の発生が少ないので無煙火薬といわれるようになったが,厳密な意味での無煙ではない。1884年フランスのビエイユP.Vieilleはニトロセルロースをエーテルとアルコールの混合液で膠化(こうか)させ,これを成形して乾燥し本格的な無煙火薬をつくった。これは砲用発射薬として優れていたので,86年フランス政府は陸軍の制式火薬とし,当時の陸軍大臣ブーランジェG.E.Boulangerの功績をたたえB火薬と名づけた。B火薬は今日のシングルベース無煙火薬のはしりである。88年スウェーデンのA.ノーベルは窒素量約12%のニトロセルロースとニトログリセリンを混ぜて練って成形し無煙火薬をつくりバリスタイトBallistiteと呼んだ。89年イギリスのアーベルF.Abelは窒素量13%以上のニトロセルロースとニトログリセリンの混合物をアセトンで練って成形し,溶剤を飛ばして無煙火薬をつくり,これをコルダイトCorditeと命名した。バリスタイトやコルダイトは今日のダブルベース無煙火薬の原型となった。第2次大戦中,ドイツとイギリスでは無煙火薬にニトログアニジンを加える研究が行われ,砲腔内の焼食を抑制し,砲口炎を少なくすることに成功した。このニトロセルロース,ニトログリセリンおよびニトログアニジンの3成分を主剤とした無煙火薬をトリプルベース無煙火薬と呼んでいる。現在,無煙火薬をさらに改良する試みとしてHMXなどの爆薬を配合する研究が行われている。

 無煙火薬は黒色火薬に比べて発射能力が大きく,発射効率を上げるための燃速の調節が可能で,銃砲腔を焼食する作用が少なく,煙が少なく,弾道性能が良好であるという利点をもっている。しかし,一方では安定性が悪く,無煙火薬の自然発火火薬庫が爆発し,軍艦が沈没するという事故がかなり起こった。このために,ニトロセルロースの精製安定化が行われ,自然発火を抑制する安定剤の添加が行われるようになった。さらに定期的な安定度試験を行って,不安定となった無煙火薬を早期発見し廃棄処分するような方策がとられている。
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百科事典マイペディア 「無煙火薬」の意味・わかりやすい解説

無煙火薬【むえんかやく】

黒色火薬に比べて発射の際の煙の発生の少ない発射薬。19世紀の終りにフランスで開発され,陸軍の制式火薬になってから普及。ニトロセルロースを単独で基剤とするシングルベース火薬と,これにニトログリセリンを加えたものを基剤とするダブルベース火薬,さらにニトログアニジンを加えた基剤のトリプルベース火薬が主。基剤を溶剤に溶かしてゲル化し,圧力をかけて密度を高め,自然分解を防ぐために安定剤(ジフェニルアミンなど)を加える。ニトロセルロース火薬ではニトロセルロースをエーテルとアルコールの混合溶剤で処理したB火薬が代表的。ニトログリセリン火薬ではニトロセルロースとニトログリセリンをアセトンで処理したコルダイト,ニトログリセリン自身を溶剤としてゲル化したバリスタイト,これにゲル化剤セントラリット(ジメチルジフェニル尿素。安定剤の役も兼ねる)を加えた不揮発性溶剤火薬が代表的。→火薬/A.B.ノーベル

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化学辞典 第2版 「無煙火薬」の解説

無煙火薬
ムエンカヤク
smokeless powder

発射薬のうち,その使用に際して発生する煙が少ないものを無煙火薬という.黒色火薬,褐色火薬などを発射薬として用いるときは多量の煙を発生し,なおかつ砲身に残りかすが残るので,これらの有煙火薬の欠点を改良して1884年ごろより無煙火薬が登場した.無煙火薬を大別すると次の3種類となる.
(1)シングルベース火薬:ニトロセルロースを基剤とする火薬でニトロセルロースをアセトン,エーテル.アルコールなどの揮発性溶剤でこねあわせ管状,板状などに成形する.
(2)ダブルベース火薬:ニトロセルロースとニトログリセリンを基剤とする火薬で,揮発性溶剤または不揮発性溶剤を使用して成形する.
(3)トリプルベース火薬:ニトロセルロース,ニトログリセリン,ニトログアニジンの3成分を基剤とし,揮発性溶剤を加えて成形する.
無煙火薬は銃砲用,砲用,ロケット用などの発射薬として用いられる.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無煙火薬」の意味・わかりやすい解説

無煙火薬
むえんかやく
smokeless powder

黒色火薬に比べて煙が非常に少い火薬。発射薬,推進薬に使われるニトロセルロース (綿薬) 系火薬で,1890年頃に発明された。現在では基剤として,ニトロセルロース,ニトログリセリン,ニトログアニジンの3つがあり,基剤の数によって,シングルベース火薬,ダブルベース火薬などに分けられる。工業用,水産用,スポーツ用,軍用など多方面に使われている。

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