フランスの詩人、劇作家。マルセイユの教養ある商人の家に生まれ、パリ大学に学ぶ。当時流行の象徴主義の影響を受けず、高踏派の詩人ルコント・ド・リールらと交際、1890年、詩集『ミュザルディーズ』を自費出版したあと、障害がなければ恋ができないと信じていた2人の若者の恋の幻滅と再生を描く三幕韻文悲劇『ロマネスク』のコメディ・フランセーズ上演(1894)で成功。続いて、中世吟遊詩人の悲恋を描く『遠い国の姫君』をサラ・ベルナールの斡旋(あっせん)で上演(1895)、あまり受けなかったが、ベルナールの激励でルネサンス座で三幕の聖書劇『サマリヤ女』(1897)を発表してほぼ成功。1897年、名優コクランが主宰していたポルト・サン・マルタン座で上演した『シラノ・ド・ベルジュラック』で不朽の文名を確立した。アクションと叙情を巧みに配合したヒロイズムで、自然主義に飽きていた観客からは熱狂的に迎えられ、今日も世界的名作として有名。しかし、作者のロマン主義は時代遅れのうえ発展がなく、以後は、ナポレオンの子を扱った『鷲(わし)の子』L'Aiglon(1900)、詩劇『東天紅』(1910)があるが、ともに『シラノ』に遠く及ばない。ほかに詩集が二、三ある。生物学者ジャン・ロスタンJean Rostand(1894―1977)は息子。
[岩瀬 孝]
フランスの劇作家。マルセイユ生れ。パリの高校を卒業後ただちに文芸批評と劇作を試み,1894年にユゴーの影響を受けた詩劇《ロマネスク》がコメディ・フランセーズで上演され,その抒情性が自然主義演劇の陰欝と象徴主義演劇の難解にあきた観客に新鮮な驚きを与える。次いで97年12月にポルト・サンマルタン座で名優コクランによって初演された5幕韻文劇《シラノ・ド・ベルジュラック》はその擬古典的な名せりふと巧みな劇作術と愛国心をくすぐる題材とによって空前の大当りをとり,フランス随一の劇作家とみなされるに至る。次いで1900年にナポレオンの遺児を主人公にした《鷲の子》がサラ・ベルナールによって上演され好評を得るが,1910年コメディ・フランセーズ上演の《雄鶏》は俳優がすべて鳥や家畜に扮するという奇抜な着想にもかかわらず失敗に終わる。長男モリスは劇作家,次男ジャンは高名な生物学者である。
執筆者:安堂 信也
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