フランスの作家デュマ(父)の歴史小説。1844年作。オーギュスト・マケの協力を得て,クルティス・ド・サンドラの《国王の銃士隊副隊長ダルタニャン氏の回想録》(1700)をもとに書いたものである。1842年から43年にかけて,《デバ》紙に連載された最初の新聞小説シューの《パリの秘密》がおびただしい数の読者を集めたので,競争紙である《シエークル》は,当代随一の人気作家デュマに高額の原稿料で執筆を依頼し,予期したとおり空前の大成功を収めた。17世紀フランス絶対王政確立期に舞台をとり,性格のまったく異なる三銃士,アトス,ポルトス,アラミスと,勇敢にして天真爛漫なダルタニャンが,王妃のために献身的にリシュリュー枢機卿とたたかう波乱万丈の物語である。この作品が引き起こした反響があまりにも大きかったので,デュマはその続編である《20年後》(1845),有名な《鉄仮面》を含む《ブラジュロンヌ子爵》(1848)を書き,ルイ14世の親政初期までの17世紀絵巻を完成させた。デュマの作品は,日本に明治のかなり早い時期から翻訳・翻案されているが,前田曙山の《落花の舞》の中で,新選組の近藤勇,芹沢鴨,土方歳三が上洛するくだりは,この《三銃士》を下敷きにしたといわれている。
なお,銃士とは,マスケット銃を装備している兵士のことであるが,一般には,1622年にルイ13世が創設し,短筒の小銃で武装させた貴族の近衛兵を指す。デュマの《三銃士》があまりにも有名になったので,フランスでは,何かの分野で目覚ましい活躍をした3人ないし4人を,日本語で〈四天王〉というように,〈三銃士〉とか〈四銃士〉と呼ぶ。
執筆者:高木 進
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フランスの作家アレクサンドル・デュマ(大デュマ)の長編冒険小説。1844年3~7月、新聞『世紀』に連載。それまでの劇作家デュマに小説家としての名声を加えた。17世紀初頭のフランス、ルイ13世と宰相リシュリュー枢機卿(すうききょう)が対立を続け、一方新教徒たちはイギリス王権の勢力と結託し、国内の秩序を脅かしつつある。登場人物アトス、アラミス、ポルトスは国王側の近衛(このえ)銃士で、そこにガスコーニュの田舎(いなか)から出てきた若い騎士ダルタニヤンが加わり、楽天的で友情に厚い4人組ができあがり、次々と冒険をくぐり抜ける。最後まで正体不明の悪魔的女性ミレディーも読者の興味をひきつける。デュマは続編に、それぞれ大部の小説、『二十年後』(1845)、『ブラジュロンヌ子爵』(1848~50)を残している。
[宮原 信]
『生島遼一訳『三銃士』全4冊(岩波文庫)』
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…こうした戦乱の伝統の生んだ勇猛で好戦的な気風は近代にも生き残り,多くの若者たちが土地の貧しさから,富と出世の機会を軍隊に求め故郷を離れた。デュマ作《三銃士》は,こうしたガスコーニュの若者たちを主人公に,彼らの冒険好きでほら吹きで,空威張りの気味はあるが友情に厚い気質(ガスコンかたぎ)をえがいている。 ピレネー地方には,西から,バスク,ベアルン,ビゴール,コマンジュの4地方が区別される。…
※「三銃士」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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