日本大百科全書(ニッポニカ) 「上咽頭腫瘍」の意味・わかりやすい解説
上咽頭腫瘍
じょういんとうしゅよう
咽頭のもっとも上方にあたる上咽頭(咽頭鼻部、鼻咽腔(くう)ともいう)に発生する腫瘍。良性腫瘍では若年者に好発する線維腫がもっとも多い。症状は鼻閉(鼻づまり)と多量の鼻出血で、治療としては手術がよい。しかし、出血が多い場合は放射線照射後に手術を行う。悪性腫瘍では癌(がん)、ついで悪性リンパ腫が多い。肉腫もあるが比較的少ない。癌の大部分は扁平(へんぺい)上皮癌で、東南アジアでは非常に多いが、日本では頭頸(とうけい)部癌の約10%で、40~60歳代に多く、男女比は3対1くらいである。
上咽頭悪性腫瘍は初期には自覚症状が非常に少なく、それに比べ頸部のリンパ節転移が早く、それを主訴として病院を訪れる例がとくに多い。原発巣の症状は咽頭の異常感、後鼻漏(鼻汁が後鼻孔から咽頭に流下する現象が自覚されるもの)、少量の出血などにすぎないが、耳管の開口部を圧迫して耳管狭窄(きょうさく)をおこし、その症状で発見されることのほうが多い。癌は上方に進展することが多く、頭蓋(とうがい)の破裂孔から中頭蓋腔に容易に侵入して外転神経、動眼神経、滑車神経などを侵し、眼球の運動障害と三叉(さんさ)神経障害のため顔面の痛みなどが現れる。癌が前方へ進展すると後鼻孔を閉塞(へいそく)し、鼻腔内に入り鼻閉や鼻出血がひどくなる。側方へ進展すると中咽頭に腫瘍が出てくる。上咽頭悪性腫瘍の治療は放射線や抗癌剤が比較的有効であるが、これらの感受性が少ないものには手術的治療も行われる。
[河村正三]