不働態(読み)ふどうたい(その他表記)passivity
passive state

改訂新版 世界大百科事典 「不働態」の意味・わかりやすい解説

不働態 (ふどうたい)
passivity
passive state

不動態とも書く。硫酸中に鉄Fe試片を浸漬し,これを陽極として働かせると,電極電位が高くなるにつれて金属溶解が盛んになり,図1のように電流密度は増加する。しかし,ある電極電位に達すると,電流密度は急激に減少して,Feの溶解がほとんど止まった状態になる。これと類似の現象はFe以外にもニッケルNi,コバルトCo,クロムCrなどにも観測される。これは金属の表面にきわめて薄い不溶性かつ絶縁性の薄膜(多くは酸化物,または水酸化物)が生成したためと考えられ,この状態を不働態,生成したと考えられる薄膜を不働態皮膜と呼ぶ。不働態皮膜の厚さは15~100Åくらいと推定されている。また電流が急激に減少する電位をフラーデ電位という(図1)。Feを濃硝酸に浸漬したときも,不働態化が起こる。硝酸は酸化力を有するのでカソード反応を起こしやすい。そのときの分極曲線は図2のように示される。金属の腐食は金属が電子を失うアノード反応酸化剤が電子を受け取るカソード反応の組合せで,アノード電流とカソード電流の大きさは等しい。この条件は1の線で示されたところに相当する。すなわち,濃硝酸ではアノード電流とカソード電流の等しい条件が鉄の不働態領域に入るので,鉄は溶解しない。しかし希硝酸ではFeは溶解する。これは硝酸のカソード電流が小さく,アノード電流とカソード電流の等しい点が2の線で示されるように活性態領域に入るからである。

 ステンレス鋼は広範囲な腐食条件下で不働態化する。これはステンレス鋼の主要成分のFe,Ni,Crがいずれも不働態化し,しかも各不働態化領域が異なるので,補い合って広範囲の不働態化領域を形成,すぐれた耐食性を示す。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不働態」の意味・わかりやすい解説

不働態
ふどうたい
passivity passive state

受働態ともいう。金属が空気中の酸素や酸化剤を含む水溶液などに接したとき,反応生成物が緻密な皮膜となって金属面に固着する。そのとき金属は浸食速度が小さい耐食性にすぐれた状態となる。これが不働態である。アルミニウム,チタン,ステンレス鋼が外見上貴金属と同様に錆びないようにみえるのは,表面に数十Åの透明な不働態皮膜が存在しているからである。鉄も酸性や中性の水溶液では,溶解したり厚い錆層を形成しつつ腐食していくが,アルカリ性のコンクリート中では不働態となるため,コンクリート補強用鉄筋として用いられる。

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百科事典マイペディア 「不働態」の意味・わかりやすい解説

不働態【ふどうたい】

鉄は希硝酸に溶けるが濃硝酸にはほとんど溶解しない。また一度濃硝酸に浸した鉄は,普通なら溶けるはずの硫酸銅溶液に入れても溶けない。これは金属の表面に酸化物の不溶性薄膜ができるためで,このような状態を不働態という。鉄のほか,ニッケル,コバルト,クロムなどの金属でもみられる。不働態化した金属はほとんど腐食されないため実用上重要。
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