改訂新版 世界大百科事典 「不可分債権不可分債務」の意味・わかりやすい解説
不可分債権・不可分債務 (ふかぶんさいけんふかぶんさいむ)
たとえば,数人が1個の家屋を共同で買った場合の引渡請求権や共同で売った場合の引渡債務のように,分割して実現することのできない給付を目的とする多数当事者の債権関係を不可分債権関係といい,そのうち債権者が多数いるものを不可分債権(前例では数人の引渡請求権),債務者が多数いるものを不可分債務(前例では数人の引渡債務)という。
不可分債権は給付が性質上不可分な場合および当事者が不可分を約した場合に生じるが,実際上の例は少なく,大きな機能を果たしてはいない。不可分債権の各債権者は,それぞれ単独に債務者に対して自分に履行するよう請求することができ,また債務者は多数の債権者の中の任意の1人を選んで履行することができる(民法428条)。債権者の1人が請求すると,全債権者のために効力を生じ,たとえば時効中断などの効力が生じる。また債務者が1人の債権者へ履行すると,全債権者に対して効力を生じ,債権の消滅の効果が生じる。以上のほか,1人の債権者について生じた事由は,他の債権者に対して影響を及ぼさない。
不可分債務もまた給付が性質上不可分な場合および当事者が不可分を約した場合に生じるが,不可分債権と違って実際上の例は少なくない。たとえば,競業をしないという債務などの〈為(な)す債務〉の多くは性質上不可分であり,共同賃借人の賃料債務も性質上不可分と解されている。不可分債務においては,債権者は,1人の債務者に対してまたは総債務者に対して,同時もしくは順次に全部の請求をすることができる(430,432条)。したがって,多数の債務者の中のだれかが履行することができれば,債権者の債権は満足するから,不可分債務は担保的機能を有しているといえる。不可分債務者の1人が履行すれば債務は消滅するが,債権の満足を目的とする事由(弁済,代物弁済および供託)以外の事由は,他の債務者に影響を及ぼさない(430条)。たとえば,多数の債務者の中の1人が免除を受けまたは更改をしても,他の債務者は全部を弁済すべき義務を免れない。多数の債務者の内部関係では,不可分債務の履行をした債務者は他の債務者に対して,内部関係(負担部分という)の割合に応じて求償することができる。
→連帯債務
執筆者:淡路 剛久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報