金銭などを直接支払うのではなく、いったん国の機関に預け、受け取る権利のある人に渡す制度。法令で供託が義務付けられている場合などに限って活用できる。代表的なのは家賃の金額に争いがあって家主が賃料を受け取らないケースで、賃借人は賃料を供託することで家賃を支払ったのと同じ効果を得られる。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は、元信者らへの補償が必要になった場合の原資として最大100億円を国に供託したいとの意向を示したが、現行法での対応は難しく特例的な対応が必要になる。
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もっとも多い用法では,債権者が弁済の受領を拒んだり,または受領できない場合,あるいは債権者がだれであるのか確知できないときに,弁済者が弁済の目的物(金銭,有価証券,商品など)を供託所に寄託して,弁済と同一の法律効果を生じさせる手続をいう(民法494条以下,供託法)。供託所の特定,そこにおける事務処理等について定めた供託法は,1899年に施行された。また,供託は債務者など弁済者の権利であって義務ではない。供託の大部分は地代・家賃であって,とりわけ地代・家賃の値上げ紛争のときに行われているのが現状である。ほかに公職選挙立候補の際の供託金という用法もある。
供託は,その機能から(1)弁済供託,(2)担保(保証)供託,(3)執行供託,(4)没取供託,(5)保管供託の5種に大きく分類される。
(1)弁済供託は,金銭その他の財産の給付を目的とする債務を負担している者が,その債務を履行しようとしても,債権者がその受領を拒否したこと(受領拒絶),債権者の所在不明その他債権者側の事由でその受領ができないこと(受領不能),または債権者が死亡しその相続人が不明である等,債務者の過失なくして債権者を確知することができないこと(債権者不確知)という原因(供託原因)により,その債務を履行することができない場合に,債務の目的物を供託所に供託して,その債務を免れさせるための供託をいう(民法494条以下)。この弁済供託は,各種の供託の中で,沿革的に最も古く,供託事件数の大半を占めている。弁済供託の法律的性質は,第三者のためにする寄託契約であるとするのが通説・判例の立場である。債権者は,供託によって供託所に対して供託金還付請求権を取得するが,この請求権が債務者に対する債権と同一内容のものである場合には,弁済供託が有効であり,債務者が債務を免れるという効果が生ずる。弁済供託をするのは,通常債務者であるが,債務の内容が債務者自身でしなければ目的を達することができないものである場合を除き,第三者も供託者となることができる(474条参照)。弁済供託は,原則として債務履行地の供託所にしなければならない(495条1項)。供託される物が,金銭,有価証券であるときは法務局,地方法務局およびそれらの支局,出張所がこれに当たり,金銭,有価証券以外の物であるときは法務大臣が告示によって指定している倉庫営業者または銀行が,それぞれ供託所となる(供託法1,5条)。
(2)担保(保証)供託とは,特定の相手方が受ける損害を担保するためにされるもので,法令の規定により,その損害を供託によって担保すべきものとされている場合に限って認められている。したがって,民法199条のように,担保の提供に関する規定があっても,供託によるべきものとされていない場合には,担保供託をすることができない。担保(保証)供託に当たるものとしては,営業保証供託,訴訟上の担保供託および税法上の担保供託等がある。
(3)執行供託とは,供託所による目的物の管理と執行当事者への目的物の交付(配当)を行うために,執行手続の一環として,執行機関または執行当事者が供託所に対してする執行の目的物である金銭(金銭以外の物が執行の目的物であるときは,その換価代金)の供託をいう。
(4)没取供託とは,一定の特殊な目的をもってされる供託で,例えば,立候補の濫用防止のため,候補者に供託させ,その供託物を候補者の得票数が一定数に満たなかった等の場合に,国または地方公共団体が没取する(公職選挙法92条,93条)ものがこれに当たる。このほか独占禁止法62条,68条に定める審決または裁判所の緊急停止命令による執行の免除のための供託も没取供託の一種である。
(5)保管供託とは,目的物の散逸を防止するため,供託物そのものの保全を目的としてされる供託で,銀行,保険会社等の業績が悪化して資産状態が不良となった場合に,その財産の散逸を防止するため,監督官庁がその財産の供託を命ずる場合(銀行法22条,保険業法9条,136条等),あるいは,目的財産またはその代価を保管しておくための供託(民法497条,367条3項)等がこれに当たる。
執筆者:山口 正春
売名立候補など無責任な候補者の立候補を規制する意図で設けられた制度である。この制度は,1925年の普通選挙法の制定の際,イギリスの制度にならってはじめて設けられた。当時は無産政党の議会への進出を抑えることを意図していたといわれていた。したがって,この制度の設置に対し,学界から,財産資格による選挙権の制限を撤廃しながらも供託金制度を設けることによって被選挙権を制限することは普通選挙制を認めることに対する内部矛盾であるといった批判が出されていた。ところが,この制度は現在の公職選挙法(1950公布)においても継承された。公職選挙法では,町村の議会の議員選挙の場合を除くほか,公職の候補者の届出または推薦届出をしようとする者は,公職候補者一人につき,一定の金額またはこれに相当する額面の国債証書を供託しなければならないと定める(92条。たとえば,衆議院議員,参議院議員(選挙区選出),都道府県知事の選挙の場合は200万円),供託は供託所(法務局もしくは地方法務局またはその支局もしくは法務大臣の指定する出張所)にしなければならない。各立候補者が供託していない場合は,立候補の届出がたとえ誤って受理されても,その届出は無効となり当選者となることはできない。
供託金は,各選挙が終了すれば返還するのが原則であるが,一定数以上の得票を得ることができなければ没収され(93条1項),その供託金は国庫,都道府県または当該市町村に帰属する。また,公職の候補者が立候補を辞退したとき,および立候補の届出ののちに,候補者となることができない者であることを知って選挙長が届出を却下した場合にも,供託金は没収される(93条2項)。この制度について,こんにち存在理由は失われているとの批判や,あるいは供託金の存在を認めるにしても,その金額は高すぎて立候補者の被選挙権を侵害することになりはしないかといった批判がある。
執筆者:吉田 善明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
金銭・有価証券その他の物を供託所などの供託機関に寄託すること。その法律的な性質は、第三者のためにする寄託契約であると解されている。供託は種々の目的で行われるが、その営む機能の面から、次のように分類される。
(1)弁済供託(弁済代用の供託) 弁済者が弁済の目的物を債権者のために供託所に寄託して債務を免れるためにする供託である。弁済代用の供託には、債権者が弁済の受領を拒み(たとえば、家主が家賃値上げの意図で家賃を受け取らなかった場合など)、または受領不能のとき(不在の場合など)、あるいは弁済者が過失なしに債権者を確認できないとき(たとえば相続や債権譲渡の有無・効力について事実上・法律上疑問がある場合など)になされる供託(民法494条、商法524条1項・585条1項など)と、一定条件のもとに債権者の請求に基づいてなされる供託(民法578条、商法524条)とがある。
(2)担保供託(保証供託、担保のための供託) 相手方に損害を生ずる可能性のあるとき、その損害賠償を担保するために行われる。民事訴訟法や税法に多い。下級審で勝訴した者に、最終の判決確定を待たずに、担保を供託させて仮執行のできる旨の宣言をつけることができる(民事訴訟法76条・259条)などがその例である。
(3)保管供託 単に保管の意味でする供託。他人の物をただちに処分しえない事情のあるとき一時的供託によって保管するもの(民法367条3項・394条2項・578条、商法585条など)をいう。
(4)執行供託 強制執行の一環として強制執行の目的物が供託される場合(民事執行法91条・108条・137条2項・141条1項・168条7項など)である。
(5)特殊供託(没取供託) 一定の特殊な目的、たとえば公職選挙について売名的な立候補などを規制するために行われる立候補者の供託(公職選挙法92条)がこれにあたる。立候補者は法律で定める金額を供託しなければならず、一定得票数に達しなかった場合にはこの供託金は、国庫または地方公共団体に帰属する。
[淡路剛久]
供託の方法は、民法、商法などの供託の場合には、債務履行地の供託所に供託(民法495条1項)し、民事執行法上の担保のための供託の場合には、担保をたてるべきことを命じた裁判所または執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に対して供託する。
供託所は、金銭および有価証券の供託の場合には、法務省管轄の法務局、地方法務局、それらの支局、法務大臣の指定する出張所であり(供託法1条)、その他の物の場合には、法務大臣の指定した倉庫または銀行である(供託法5条)。供託の目的物は、動産だけでなく不動産であってもよく、目的物自体を供託するのが原則である。ただし、供託に適しない(たとえば爆発物)か、滅失毀損(きそん)のおそれがある(たとえば生鮮食料品)か、あるいは保存に過分の費用を要する場合(たとえば牛馬など)には、裁判所の許可を得て目的物を競売し、その代価を供託することができる(弁済者の自助売却権―民法497条)。供託者は目的物を供託したら、遅滞なく債権者に通知しなければならない(民法495条3項)。
供託の効果は、弁済代用の供託の場合には、債務者をして債務を免れしめること(ただし法律構成については争いがある)、担保のための供託の場合には、被供託者をして供託物のうえに質権と同一の権利を取得せしめること、である。したがって、前者の場合、債権者は供託所または供託物保管者に対して供託物の交付を請求する権利を取得する。しかし、供託者のほうにも供託物を取り戻すことができる権利が与えられている。ただし、債権者が供託を受領したとき、供託を有効と宣告した判決が確定したとき、または供託によって質権あるいは抵当権が消滅したとき(民法496条)には、供託物の取戻権を失う。
[淡路剛久]
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…ただし,衆議院の小選挙区比例代表併立制のもとでは,政党候補者に限り,小選挙区と比例区への重複立候補が認められ(86条の2‐4項),小選挙区で落選しても比例区で当選することができる。〈衆議院〉の項参照),選挙事務関係者および公務員の立候補には一定の制限が置かれており(88,89条),候補者になることのできない公務員が候補者として届け出られた場合には,届出日に公務員を退職したものとみなされ,逆に候補者として届け出た者が,候補者になることのできない選挙事務関係者または公務員になった場合には,立候補を辞退したものとみなされることになっていること(90,91条),立候補の届出または推薦届出には一定額の供託金が必要であること(92条),などである。供託金制度(供託)は,売名立候補や候補者乱立を防ぐ目的で設けられている制度であり,供託金は原則として選挙の終了とともに返還されるが,一定数以上の得票がない場合,および候補者が立候補を辞退した場合には,没収されて,国庫,都道府県,または市に帰属する(93,94条)。…
※「供託」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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