Aは,Bから3000万円を借りていたが,約束の返済期限に金策がつかなかったため,債権者Bに対し,借りた金銭の代りに自分の持っている土地で返したいと申し出て,Bもそれを承諾したとする。Aが本来負っていた給付は金銭だから,それを返さなければ債務を履行または弁済したことにはならないはずだが,Bが代りの給付でよいと〈承諾〉している以上,こういう返し方を禁ずる理由はない。そこで民法も,本来の給付を弁済した場合と同視する(民法482条)。これを代物弁済という。この結果,Bには,後日になって,やはり3000万円を返してもらいたいなどと要求する権利がなくなる。Aの債務は代物弁済により消滅しているからである。
代りの給付は,土地や建物だけでなく宝石その他の動産であってもよいし,また,AがCとの取引で得た売掛代金債権をもって代物弁済することも差しつかえない。代りの給付と本来の給付とは,等価値でなくてもよい。上記の例でいえば,土地の価格は4000万円であっても2000万円であってもかまわないのである。代物弁済で経済的に損をするAなりBなりが,そのことを納得している(つまり両者が合意のうえで行った)からである。代物弁済は,AとBがそういう合意をしただけでは完成せず,代りの給付を実現しなければならないとされる。不動産を代物弁済する場合であれば,その旨の合意に加えて,所有権の移転登記もしないと,代物弁済という法的な効力は生じない。もっとも,AとBの〈特約〉があるときは,登記に必要な一件書類をAがBに交付した時点で代物弁済があったとみられ,たとえば,Aはまだ代物弁済していないからやめるなどと主張できなくなる。AがBに借用証書を渡していたような場合に,後日その借金について手形や小切手を改めて交付することがある。これは代物弁済,つまり借金を返す代りに手形や小切手を渡し,それによって当初の債務が消滅したことになるのか。民法の規定では,債務の〈履行に代えて〉手形を発行すれば更改となるが(513条2項後段),判例は原則として代物弁済になるとしている。いずれにしても当初の債務は消滅するので,それのための担保も消える(ただし,518条参照)。しかし,こういう場合には,そもそも〈履行に代えて〉なされるというよりも,普通は〈履行のため〉であって,もとの債務は消滅しないと推定するのが一般の解釈である。したがって,手形が不渡りになれば,もとからの債務につけられていた担保にかかっていける。代物弁済は,Bが旧債権を失う代りにAも代物を支出する点で有償契約とされ,たとえば,上記土地の値段が実は低すぎたときには,Bは瑕疵(かし)担保責任の規定に〈準じて〉Aの責任を問うことができると解されている。
なお,代物弁済は,それの予約という形で用いられる場合のほうが多いが,この代物弁済予約は,今日では法律的には仮登記担保として取り扱われている。
執筆者:椿 寿夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
債務者が負担した本来の給付にかえて、他の給付をなすことによって債権を消滅させる債権者と弁済者との間の契約(民法482条)。たとえば、100万円を弁済するかわりに特定の家屋の所有権を与えるなど。
[淡路剛久]
代物弁済は、消費貸借の当事者間でしばしば予約の形式で行われる。たとえば1000万円の消費貸借をなし、弁済期までに弁済しないときには特定の家屋の所有権を与えることを約するなど。この場合、弁済期までに弁済しないと、目的物の所有権が当然債権者に移転する、というのが停止条件付代物弁済契約であり、債権者の予約完結権の行使を要するものが狭義の代物弁済の予約である。
代物弁済の予約は、仮登記という権利保全の方法を通じて、物的担保制度の一つとして、取引界において重要な機能を営んでいる。しかし、従来は、債務者の無知、窮迫に乗じて、しばしば不相当に高額な物につけられることがあった。そこで、判例は、これを担保という視点から清算の義務(弁済を超える部分は返還させる)を負わせるなど合理的な解決を導いてきたが、「仮登記担保契約に関する法律」(昭和53年法律78号)の制定後は、他の仮登記担保契約とともに、同法によって解決されることになった。
[淡路剛久]
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