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女性において,性欲や性反応はあるが,オーガスムの量的不全,すなわちオーガスムが得られないか,きわめて弱い状態をいう。似た言葉に冷感症があるが,これは性欲も性反応もない状態をさす。不感症は女性の約1割にみられるとされている。
オーガスムは性交の極期にあたり,骨盤底および性器の平滑筋の快適痙攣(けいれん)を伴い,女性では腟壁および子宮体部の収縮が起こり,男性では副性器平滑筋の攣縮によって射精が起こる。同時に全身的に交感神経系の興奮もひき起こされるが,これは女性において,とくに著しい反応を示すことが多い。このようなオーガスムの発現は視床下部およびその周辺域において調節されており,ドーパミン系機構dopaminergic systemで促進され,セロトニン系機構serotoninergic systemで抑制される。この中枢での調節のもとに,末梢機構として,交感神経系とくにα-アドレナリン受容機構が作動して,オーガスムが発現するのである。
オーガスム不全を起こす原因としては,性器局部における器質的・生理的変化や内分泌異常などがあげられるが,原因の約90%は心理的な原因によるものとされている。心理的原因としては,情緒不安,性交に対する嫌悪や恐怖,同性愛,夫婦間の問題,さらに性的発達初期に被った有害な影響などがあげられる。また精神的・肉体的過労によることもある。これら心理的要因や過労によって,大脳皮質から性抑制がドーパミン系機構に加わり,オーガスムの発現を抑制すると考えられている。この場合には,治療として,精神療法や心理療法,すなわちいわゆるセックス・カウンセリングやセックス・セラピーが有効となる。
その発生のメカニズムからすれば,男性においても不感症に相当する状態は存在しうるわけで,勃起があり性交は行えても,射精不能である状態が,ニュアンスは少し異なるが,不感症と同じ範疇(はんちゆう)に入ることになる。
なお,以上の原因によるもののほか,中枢神経の機能障害によって不感症が起こることがあるが,この場合,ドーパミン系機構の賦活あるいはセロトニン系機構の抑制を起こす薬剤で治癒することが少なくない。
→性交
執筆者:熊本 悦明
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性交欲はあるが、性交に際して快感をほとんど感知しないか、あるいはまったく快感を伴わないものをいい、一般に女性についていわれる。性交欲を欠く性交無欲症あるいは冷感症との区別は困難な場合が多い。原因の大半は性的無知によるもので、とくに男性側に原因すると考えられるものとして、前戯のない性交がいちばん大きな原因である。また、このほか男性側の原因としては、早漏やインポテンス、粗暴あるいは無理解な態度などがある。一方、女性側の原因として、男性同様の性的無知からくる性交に対する不安、恐怖、嫌悪、羞恥(しゅうち)などがその大半であるが、ごく一部に性器の発育不全あるいは形態異常のほか、炎症などによる性交時の疼痛(とうつう)といった器質的障害や内分泌疾患などによるものが認められる。
治療法は、まずその原因を明らかにし、器質的原因による場合にはその原因に対して正しく治療する。一方、心因性のものに対する治療にはパートナーの協力が不可欠で、性的無知や無理解に対しては十分に啓蒙(けいもう)、教育するとともに、実際に性器に対する刺激訓練をパートナー間で行わせる。
[白井將文]
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