世俗化(読み)せぞくか(その他表記)secularization

日本大百科全書(ニッポニカ) 「世俗化」の意味・わかりやすい解説

世俗化
せぞくか
secularization

社会過程概念の一つ。このことばは、オリジナルには教会財産が国家の管轄下に置かれることを意味していた。それが、宗教との関連で、広く社会的・文化的変化を問ういまのような用語法になったのは近代以降のことである。この場合、簡単には宗教の衰退を意味するが、より正確には、社会と文化の諸領域が宗教の制度ならびに象徴支配から離脱するプロセス、と定義するのがいい。近代化、合理化、都市化などの用語とも併用して、われわれの生活が迷信呪術(じゅじゅつ)から解放され、しだいに科学的世界観のもとに統御されていく事態を記述するのに用いる。ただし、近年「宗教回帰」ともよばれる現象が世界の各地に生じて、先進国における宗教の死滅を予想していた単純な進化説は退けられる傾向にある。当然、世俗化を議論する仕方にも微妙な変化がおこっている。それは、宗教の衰微あるいは世界の非宗教化を意味するのではなく、むしろ宗教の個人化ないし私生活化を意味すると説く宗教学者が増えている。ベラーの唱える「市民宗教」、ルックマンのいう「見えない宗教」など、伝統的な宗教形態とは違った仕方で、それでもなお宗教は不滅であると説く有力な議論である。

[大村英昭]

『R・N・ベラー著、河合秀和訳『社会変革と宗教倫理』(1973・未来社)』『P・L・バーガー著、園田稔訳『聖なる天蓋』(1979・新曜社)』『T・ルックマン著、J・スィンゲドー、赤池憲昭訳『見えない宗教』(1976・ヨルダン社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「世俗化」の意味・わかりやすい解説

世俗化
せぞくか
secularization

神聖化の対概念。ある社会で「聖」とされるものによる社会制度や人間生活全般にわたる拘束 (宗教) が,「世俗的」な規制の形態に置き換っていく一つの社会過程。一般に歴史はこの方向に進むものとみなされている。 H.ベッカーらによれば,かつて社会生活の紐帯は宗教的な観念ないし習慣により保障されていたが,旧来の共同体的結合の解体と個人の析出に伴い,これを保障する諸技法が自然に関する科学的知識に基づいたものへと転化して,物や人,場所,時間にまつわりついた超自然的な力が剥奪されていくとされる。

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世界大百科事典(旧版)内の世俗化の言及

【学校】より

…16世紀,ルターによる宗教改革がキリスト教学校に与えた影響のうち重要なのは初等教育の重視であり,ここで段階に分けた教育課程編成が始まり,学年制の端緒となった。
【近代学校の出発】

[学校の世俗化]
 このころから,長い期間教会の支配下にあった学校への批判が強まり,モンテーニュは,圧制的な学校のあり方や単なる博学を批判し,17世紀には,F.ベーコンの〈知は力なり〉という知識観を受け継ぎ,チェコスロバキアのJ.A.コメニウスが,反封建・反教会の立場から,平和主義と普遍人類的な知識体系の確立をめざし,教授学の確立に尽力し,近代教育への道を切り開いた。彼は,神は神の前では個人の身分は問わぬのだから,ある種の人々だけの知能を開発するのでは不公平であるとし,すべての人にすべてのことを教える技術の創造の必要を説き,学習全体を精密に学年に区分し,先の学習が後に続く学習への道を平らにし,それを照らすたいまつにすることを提案していた。…

【ヨーロッパ】より

…ルターは善行ではなく,信仰によってのみ人間は救われると説き,カトリック教会のなかに残存していた古代以来の互酬性の絆を絶ち切ってしまったのである。以後,都市や国家を世俗化していく理論的な武器が与えられ,宗教は個人の内面への問題とされていく。18,19世紀にヨーロッパ社会は,産業革命によって大きな変質を遂げるのだが,その基本的な枠組みはすでに中世において生まれていたのである。…

※「世俗化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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