山川 世界史小辞典 改訂新版 「中世都市〔ヨーロッパ〕」の解説
中世都市〔ヨーロッパ〕(ちゅうせいとし)
Medieval City
中世ヨーロッパにおいて,都市的定住地は,地域により差異はあるものの,7~8世紀以降の農業成長と人口増加を背景とし,市場集落や,教会,城塞など聖俗の領主の支配する地域的中心地として形成されていった。そして11~12世紀以降,商品=貨幣経済の中心として,特に北西ヨーロッパと北イタリアを中心に領主から特権(自治と平和)を得た都市共同体が成立する。初期の都市住民は,身分的には多様な人々の集団であり,自由身分の商人,手工業者だけではなく,多様な不自由身分の者を含んでいた。都市の自治は,有力市民から選出されたメンバーによる合議機関(都市参事会など)が管轄し,都市行政,司法,財政,軍事などを担った。中世の都市で自治の担い手となったのは,市民権の保持者であった。市民権は,都市で独立した生業を営むための前提であり,税の支払いや軍役への参加義務を同時に負っていた。しかし,すべての都市住民が市民権を得たわけではない。12~13世紀に自由と自治を秩序だてた都市は,何よりも市民相互の誓約を基本としていた。商工業者たちは相互扶助組織として同業組合(ギルド)を組織するとともに,地縁的・宗教的絆を通じてさまざまな仲間団体(兄弟団など)を他の都市住民と取り結んだのである。12世紀以降,フランデレン,ドイツ,北イタリアなど高度の政治的独立性を実現した地域では,都市はライン都市同盟やロンバルディア同盟などの軍事的・政治的同盟や,ハンザのような経済的連合体を形成し,政治的に強力になる場合もあった。しかし,王権による都市支配が強力であったフランスやイングランドにおいては,都市は王の封臣として位置づけられ,政治的には国王を頂点とする封建社会の秩序に組み込まれた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報