改訂新版 世界大百科事典 「中性子吸収材」の意味・わかりやすい解説
中性子吸収材 (ちゅうせいしきゅうしゅうざい)
neutron absorber
原子炉の炉心を構成する主要な材料の一つで,中性子を吸収し,炉心内の中性子の数を調節して,原子炉の出力の調節あるいは原子炉を停止する役割をもつもの。原子炉が運転状態にあるとき,核燃料は中性子を吸収して核分裂し,熱エネルギーや中性子を発生している。発生した中性子の一部は他の燃料に吸収され,核反応の連鎖反応が持続するが,一方,中性子の一部は燃料以外の炉心構成材料に吸収されたり,炉外へ漏れ出ていく。ここで中性子を吸収しやすいものを炉心に出し入れすると核分裂に関係する中性子の数が変わることになり,原子炉の出力の調節や原子炉の停止を行うことができる。このような役割をもつものを中性子吸収材あるいは原子炉の制御材という。中性子の吸収されやすさの程度は,その大きさに比例した断面積(通常,バーンという単位で表される)という概念で表現する。吸収断面積は同一元素であっても中性子のエネルギーレベルによって異なる。軽水炉,重水炉などで核分裂反応を起こす熱中性子についてみれば,中性子吸収断面積は元素によって大差があり,断面積の大きなものと小さなものとでは7けた以上の差がある。熱中性子の吸収材としては断面積が数万バーンから100バーン程度の,ホウ素B,ハフニウムHf,カドミウムCd,ガドリニウムGd,ユーロピウムEu,タンタルTaなどが使用される。一方,高速増殖炉で核分裂にかかわる高速中性子の吸収断面積は元素によって大差ないが,これらにおいても断面積の大きなものがよく,B4CやTaなどが使用される。
中性子吸収材の使用方法としては,(1)制御棒,(2)液体吸収材,(3)可燃毒物(バーナブルポイズン)がある。使用形態の例としては,沸騰水型炉ではホウ素の炭化物B4Cの粉末をステンレス鋼管の中に封入したもの,加圧水型炉ではAg-In-Cd合金をステンレス鋼管に封入したものが制御棒として使用されている。液体吸収材としては,加圧水型炉では炉水にホウ酸を溶かし,この濃度を調節する方法が採用されている。可燃毒物とは,中性子を吸収することによって中性子吸収の小さい物質に変わるものであって,たとえば軽水炉のUO2燃料に可燃毒物のGd2O3を混合したものがある。これは燃料が新しく核燃料物質の量の多い間は吸収材の量も多く,燃焼が進んで燃料の量が減っていくと,吸収材も減っていくことによって,燃料の寿命期間にわたってちょうどよく燃焼するようにするものである。
以上は通常の原子炉の制御用であるが,緊急時に急速に原子炉を停止させるために,制御棒や液体吸収材を炉心に急速に入れるような例もある。
執筆者:大久保 忠恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報