丸山圭三郎(読み)まるやまけいざぶろう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「丸山圭三郎」の意味・わかりやすい解説

丸山圭三郎
まるやまけいざぶろう
(1933―1993)

言語哲学者、フランス文学者。水戸市に生まれる。国文学者の父の下で、幼少期より文学に親しむ。17歳で第二次世界大戦終戦を迎え、1952年(昭和27)には東京教育大学付属高校から東京大学文学部仏文科に進み、学生時代に数編の小説を同人誌砂漠』に寄稿する。1959年に同大学院修士課程を修了後、アメリカ、コーネル大学に留学し、1965年に同大学院言語学科博士課程を修了。この間、アメリカ言語学が得意とする「分布分析」(言語要素がどういう位置関係をとるかという分析)を徹底して実践するとともに、それに対する根本的な批判も身につけたという。帰国後、1960年に国際基督(キリスト)教大学に専任講師として着任。1966年よりNHKテレビ、ラジオのフランス語講師として活躍する。1969年に論文「構造主義と言語学」(『英語教育』1969年9月号)を発表することによって、言語理論の構築へと乗り出してゆく。

 1971年には中央大学に移り、フランス語、フランス文学の教育を続けながら、他方で一般言語学に関する論文を矢つぎばやに発表。それらではフェルディナン・ド・ソシュールにおける「体系」の概念を論じ、そこから派生する「二つの構造」をとらえ、「ラング」と「パロール」との関係を解明する。また同時に、ソシュールの唱える「言語記号恣意(しい)性」をめぐる論争に決着をつけ、しだいに記号論の分野にも思索を広げてゆく。こうして1981年には主著『ソシュールの思想』を刊行し、当時のポスト構造主義ブームともあいまって、一躍、言論界の寵児(ちょうじ)となる。同書では、ロベール・ゴデルRobert Godel(1902―1984)、ルドルフ・エングラーRudolf Engler(1930―2003)、トゥリオ・デ・マウロTullio De Mauro(1932― )らの推進する最先端のソシュール研究を日本に初めて紹介し、シャルル・バイイとアルベール・セシュエAlbert Sechehaye(1870―1946)によりまとめられた『一般言語学講義』Cours de linguistique générale(1916)の不備を指摘している。

 同著の刊行を機に、言語哲学者をもって自任するようになる。1984年には『文化フェティシズム』を発表。ソシュールの「恣意性=示差性」原理を基礎とする言語モデルによって独自の「事(こと)的世界観」を確立し、「フェティシズム」「物象化」の観点から世界解釈を試みる。そこでは動物と人間との行動を「身分け」「事=言分け」という形態で区別し、「カオス」「コスモス」「ノモス」の概念を駆使する文化論を展開しているが、やがて『欲望のウロボロス』(1985)、『フェティシズムと快楽』(1986)、『生命と過剰』(1987)、『生の円環運動』『ホモ・モルタリス』(ともに1992)などを通じて無意識の世界を探求し、欲動や生死について言及するようになってゆく。こうして丸山は、言語研究の堅固な基盤の上に独自の思想をうちたて、執筆・講演に日々忙殺されながら、1993年(平成5)9月16日に自宅の書斎で急逝する。まさに還暦を迎え、弟子たちの手になる記念論集『言語哲学の地平』(1993)が上梓(じょうし)されようという矢先のことだった。そのほかの著作に『文化記号学の可能性』『ソシュールを読む』(ともに1983)、『丸山圭三郎 記号学批判』(1985、共著)、『言葉のエロティシズム』(1986)、『文化=記号のブラックホール』『言葉と無意識』(ともに1987)、『欲動』(1989)、『言葉・狂気・エロス』(1990)、『人はなぜ歌うのか』『カオスモスの運動』(ともに1991)などがある。

[加賀野井秀一 2018年10月19日]

『『ソシュールの思想』(1981・岩波書店)』『『ソシュールを読む』(1983・岩波書店/講談社学術文庫)』『『欲望のウロボロス』(1985・勁草書房)』『『フェティシズムと快楽』『言葉のエロティシズム』(1986・紀伊國屋書店)』『『生命と過剰』(1987・河出書房新社)』『『文化=記号のブラックホール』(1987・大修館書店)』『『欲動』(1989・弘文堂)』『『人はなぜ歌うのか』(1991・飛鳥新社)』『『生の円環運動』(1992・紀伊國屋書店)』『『ホモ・モルタリス』(1992・河出書房新社)』『『文化記号学の可能性』(1993・夏目書房)』『『丸山圭三郎著作集』全5巻(2013、2014・岩波書店)』『『カオスモスの運動』(講談社学術文庫)』『『言葉と無意識』『言葉・狂気・エロス』(講談社現代新書)』『丸山圭三郎・竹田青嗣著『丸山圭三郎 記号学批判』(1985・作品社)』『丸山圭三郎編『ソシュール小事典』(1985・大修館書店)』『加賀野井秀一他編『言語哲学の地平――丸山圭三郎の世界』(1993・夏目書房)』

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20世紀日本人名事典 「丸山圭三郎」の解説

丸山 圭三郎
マルヤマ ケイザブロウ

昭和・平成期のフランス文学者,言語学者 中央大学文学部教授。



生年
昭和8(1933)年4月25日

没年
平成5(1993)年9月16日

出生地
東京

学歴〔年〕
東京大学文学部仏文学科〔昭和31年〕卒,東京大学大学院仏語仏文学研究科〔昭和34年〕修士課程修了,コーネル大学〔昭和40年〕博士課程修了

主な受賞名〔年〕
各務記念賞〔昭和56年〕

経歴
昭和35年国際基督教大学講師、38年助教授、46年中央大学助教授、49年教授。この間、38〜40年米国コーネル大学留学、53〜54年フランス、スイスで在外研究。著書に「ソシュールの思想」「文化のフェティシズム」「生命と過剰」「人はなぜ歌うのか」など。

出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「丸山圭三郎」の解説

丸山圭三郎 まるやま-けいざぶろう

1933-1993 昭和後期-平成時代のフランス文学者,言語学者。
昭和8年4月25日生まれ。国際基督(キリスト)教大助教授から中央大助教授となり,49年教授。ソシュールの言語哲学の研究で知られた。平成5年9月16日死去。60歳。東京出身。東大卒。著作に「ソシュールの思想」「生命と過剰」「言葉と無意識」。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

367日誕生日大事典 「丸山圭三郎」の解説

丸山 圭三郎 (まるやま けいざぶろう)

生年月日:1933年4月25日
昭和時代;平成時代のフランス文学者;言語学者。中央大学教授
1993年没

出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報

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