乏尿・無尿

内科学 第10版 「乏尿・無尿」の解説

乏尿・無尿(症候学)

概念
 乏尿や無尿は糸球体濾過量の過度な低下を示す重要な症候である.糸球体濾過量の低下以外には原因はない.
1)乏尿:
尿量が400~500 mL/日(20 mL/時)未満と定義されている.腎の最大尿濃縮能が1200 mOsm/Lであり,通常の溶質摂取量が600 mOsm/日であるため,すべての溶質を完全に排泄するには最大限濃縮したとしても最低600/1200=0.5 L/日の尿量が必要との計算が,定義理由である.
2)無尿:
50~100 mL/日未満をいう.ただし,無尿の定義は乏尿ほどしっかりした根拠はない.
病態生理
(表2-39-1)
 乏尿・無尿の状態は,常に糸球体濾過量の低下を背景としている.したがって,乏尿・無尿の状態では,内部環境の恒常性を維持することが不可能となり,老廃物やNa,K,Hが体内に貯留する.そのため,尿毒症症状,体液の貯留,高カリウム血症,あるいはアシドーシスとなる【腎不全⇨11-10】.
1)腎前性乏尿・無尿:
①腎血流量の低下により糸球体濾過量が減少して発症する乏尿・無尿をいう.急激に腎血流量が低下すると,左右の腎臓にあるすべての糸球体で濾過が一斉に低下する【急性腎不全⇨11-10-1)】.基礎の原因が補正されれば,急速に回復し,死亡率は低い.②腎血流量の低下する原因は,有効循環血液量の減少,腎灌流圧の低下,腎抵抗血管(輸入細動脈)の閉塞あるいは過度な収縮などがある.③有効循環血液量の低下には,出血や脱水など総体液量の減少している場合と低蛋白血症(=膠質浸透圧の低下)により血管外に体液が移動している場合がある.
2)腎性乏尿・無尿:
①腎の細胞障害に基づいて糸球体濾過量が低下(濾過面積の減少)して発症する乏尿・無尿をいう.さまざまな腎疾患(=糸球体疾患,尿細管間質疾患)が乏尿・無尿を発症させる.②腎虚血や腎毒性物質が原因となる場合が多いが,可能性のあるすべての疾患を念頭におく必要がある.③腎前性の乏尿・無尿が長く続くと,腎の虚血による腎性乏尿・無尿(=腎性急性腎不全)となる.形態学的には,急性尿細管壊死(acute tubular necrosis: ATN)となる.腎前性乏尿・無尿は腎性へ移行させないよう早期対策がきわめて重要である.④腎毒性物質は,さまざまな機序で尿細管細胞を障害する.アミノ配糖体やアムホテリシン,重金属,シスプラチンなどは,直接的に尿細管を障害する.非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は,血管を収縮させ腎血流量減少によって糸球体濾過量を低下させる.造影剤やシクロスポリンヘム色素などのように血管収縮と細胞直接障害の両方の機序を有する薬剤も多い.⑤アシクロビルやメトトレキサートなどのように結晶が尿細管を閉塞させる薬剤もある.どの薬剤も免疫学的機序で間質尿細管性腎炎(間質性腎炎)を誘発しうるが,メチシリンが古典的に有名である.⑥原因として単一因子を想定しがちであるが,2つ以上の因子が相乗的に作用して発症していることも少なくない.特に,薬剤などの腎毒性は腎血流が低下したり虚血下で発現しやすくなることに注意が必要である.その例としてアミノ配糖体,造影剤,シクロスポリン,シスプラチン,ヘム色素があげられるが,なかでもアミノ配糖体による急性腎不全の発症率は腎灌流の低下が加わると7%が30~50%に上昇する.腎毒性のある薬剤を用いるときには,投与前から体液量不足を補正し腎血流を最大に維持しておくことが必須である.
3)腎後性乏尿・無尿:
①両側尿路の閉塞により糸球体濾過量が低下することが原因である.泌尿器科で扱う疾患である.②高齢者で良性前立腺肥大のある患者で起こりやすい.前立腺癌でも同様である.後腹膜リンパ腫や転移癌,特に乳癌によるものでは尿路閉塞を起こすことがある.また,医原性のものでは,後腹膜の手術時に両側尿管を結紮したり傷つけてしまうことが原因となることもある.
鑑別診断
①表2-39-1の病態や疾患の鑑別を念頭におきながら,慎重に病歴や身体所見をとる.

腹部超音波検査を施行して水腎症の有無を確認するのが原則である.両側水腎症なら,両側尿路通過障害による腎後性の乏尿・無尿である.さらに,CTやMRIなどの画像診断で尿路の疾患の鑑別をすすめる.③次に,腎前性か腎性かの鑑別を行うことがきわめて大事である.なぜなら,腎前性の乏尿・無尿なら,補液などで循環動態を改善することにより回復する可能性があるからである.④腎前性か腎後性かの鑑別には表2-39-2にあげた指標が有用である.腎前性の乏尿・無尿では腎血流量の低下が共通した病態である.このような病態では,尿細管における水,ナトリウム(Na),尿素,リチウム(Li)の再吸収が亢進する(水と尿素の再吸収の亢進はADHの分泌亢進による.Naの再吸収の亢進は交感神経系とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進による).したがって,尿は濃縮され(尿/血漿比がクレアチニンでは40以上,浸透圧では1.5以上)しかも低Na濃度(<20 mEq/L)であることが特徴である.
⑤尿細管排泄分画FE(%)(fractional excretion)は,糸球体で濾過された物質が最終的に何%尿中に排泄されるかを表す指標である.たとえば,FENaは濾過されたNa(= PNa×糸球体濾過量,PNa:血漿Na濃度)の何%が最終的に尿中に排泄(= UNa×V,UNa:尿中Na濃度,V:一定時間の尿量)されるか,という値である.通常は1%程度であるが,腎血流量の低下する,腎前性の乏尿・無尿では1%未満になる.逆に,腎性の乏尿・無尿(急性尿細管壊死)では尿細管での再吸収能が低下(尿細管障害)しており2%以上となる.
UCr:尿中クレアチニン濃度,PCr:血漿クレアチニン濃度.⑥尿中Na濃度とFENaは腎前性乏尿・無尿の診断のためには有用であるが,利尿薬を使用しているときには指標として用いることはできない.なぜなら,利尿薬は腎血流量低下時でもNaの尿中排泄を増加させてしまい,尿中Na濃度とFENaを上昇させる.このような場合には,尿細管での再吸収が利尿薬に影響されない尿素窒素UNの尿細管排泄分画を指標として用いることができる(FEUN).腎前性では35%未満となるが,急性尿細管壊死では50~65%に増加する.⑦急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の概念:従来,急性腎不全を血清クレアチニンの上昇で定義しようとする試みがなされてきた.しかし,これにはさまざまな考え方がありコンセンサスを得ることが難しかった.そこで,最近は血清クレアチニンの上昇と尿量減少により急性の腎障害を定義し,早期発見と早期治療を可能にしようという考えが出てきた(表2-39-3).[木村健二郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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