改訂新版 世界大百科事典 「乱堆積」の意味・わかりやすい解説
乱堆積 (らんたいせき)
penecontemporaneous deformation
地層中にみられる局部的な堆積構造の乱れのことで,層間異常ともいう。地層の形態研究の重要な課題の一つで,次のようなものが観察されている。(1)地すべりslumping 平行な地層にはさまれたある厚さの地層が,層内褶曲を示したり,層理がちぎれたりして,最終的には原形をとどめないほど混じりあってしまうもの。これは,地層が比較的急速に堆積し,地層の固結がまだ十分進んでいない状態で,堆積した斜面の傾斜が何らかの原因により増加したような場合に,斜面崩壊が原因で水中地すべりが生じたものである。大規模な地層の地すべりによって生じた地層をオリストストロームolistostromeと呼ぶ。(2)崩壊構造collapse structure 上にのるやや重い堆積物が下の軟らかい堆積物中に,荷重による変形により,めりこんでいる構造をいう。荷重変形ともいわれる。変形がさらに進むと,上の岩片が下の層中に取り込まれてしまい,一種の偽団塊を形成する。(3)偽礫 数cmから数十mの礫状のシルト岩,地層の塊などが,砂岩または砂混じりのシルト岩の中に不規則に入っているもの。成因としては,同時浸食によって周囲にあった未凝固の地層が削り取られ層間礫として取り込まれたものか,または地すべりによって未凝固泥質層が崩壊して砂層中に取り込まれたものと考えられている。(4)逬入(へいにゆう)構造injection structure ある特殊な条件と岩相のもとで,クイックサンド現象によって堆積物の流動現象が生じたもの。また特殊なものとして岩塩のダイアピル構造がある。砂岩脈は規模の小さいものは荷重変形とあまり違わないものがみられるが,大規模なものは上に向かって数十mも流動しているものがみられる。このような流動現象が地表に噴出して火山のような形態をつくるのが泥(砂)火山である。泥火山はおもに圧縮性の環境でつくられるものとみられている。(5)層内褶曲convolute bedding 上下の褶曲していない層の間にはさまれたラミナだけに発達する小波長の褶曲。層内のラミナは幅広い向斜をはさんで背斜構造として発達するが,その背斜構造は地層の上面に向かい変形(褶曲)が増大するような形態をとることを特徴とする。このような渦巻き形態は間隙水の脱水現象によってもつくられるといわれるが,重力変形による地すべりにおいてしばしば観測されるものに似る。
以上みてきたように,乱堆積は地層中のある特定の層準に集中して生じることが多い。その原因として地殻変動とか海水面変化に由来していると説明されるものが多い。最近,海溝斜面の圧縮性環境において大規模な泥火山が発見されているのは興味深い。
執筆者:加賀美 英雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報