交流型学習(読み)こうりゅうがたがくしゅう(その他表記)partnership in learning

最新 心理学事典 「交流型学習」の解説

こうりゅうがたがくしゅう
交流型学習
partnership in learning

広義には人と人とがやりとりを通して展開していく学習活動を指す。従来,学習learningとは個人内活動を意味していた。しかし1990年代に入り,学習に社会性やネットワークとしての性格を認める理論が出現するようになって,学習観が変化し,交流型学習の有効性が注目されるようになった。

【交流型学習の理論的背景】 交流型学習の理論的背景としては,次の三つを挙げることができる。第1は,人間の思考に対話性を認めたビゴツキーVygotsky,L.S.の理論である。彼は認識の起源を個人の頭という閉じた系の中にあるとはとらえずに,他者相互作用し合い,協同活動する過程の中で生じる現象としてとらえた。こうした考え方は社会的構成主義social constructionismとよばれている。ビゴツキーの理論の特徴は,精神現象が個人の内部にあるととらえずに,複数の人間の心の間に存在する,と考えた点にある。つまり,相互作用による思考や認識の発達は,初めは他者の中にあった知識がやりとりによって個人の内部に取り込まれ,しだいに自己のものとして内化される過程ととらえるのである。

 第2は,認知心理学の分野で並列分散処理のモデルが出現し,その影響で分散認知の理論が発展したことである。従来の認知心理学では,学習とは頭という閉ざされた器の中に知識を獲得する活動と考えられていた。こうした学習観のもとで認知心理学は,概念としての知識の獲得および数字や記号を用いた表象操作のメカニズムを主たる研究対象としてきた。ところが研究が進むにつれて,人間の情報処理はコンピュータのように直列処理イメージでとらえることができないことがわかってきた。そして人間独自の情報処理のモデルとして並列分散処理parallel distributed processing(PDP)が登場した。この理論では,人間の情報処理は当該の処理に関連するすべての要素が少しずつ処理(仕事)を分担し,要素間でネットワークを構築し,相互に影響し合ったり,修正や制約をかけ合ったりしながら全体として一つの処理(仕事)を遂行する,ととらえる。

 この並列分散処理モデルの影響の下で,人間の知的営みに関する分散認知distributed cognitionの理論が生み出された。この理論では認知システムを個人の頭の中に存在する過程としてではなく,個人を取り巻く他者,資料,道具,機器といった環境そのものとしてとらえる。つまり,人間は頭の中で生じている認知活動を周囲の人間,資料や道具,機器に投げ込み,刻印する。また,周囲の環境は当該の人間の認知システムの反映である。このようにして周囲の環境の中に投げ込まれた知は,今度は当該の人間の認知活動に影響を与えるのである。この現象は,人と環境とのやりとりそのものが認知システムとして機能していることを示している。つまり環境とは単なる外部刺激ではなく,人間の認知を構成するシステムの一部なのである。

 第3は,分散認知の理論が状況論という新しいパラダイムを生み出したことである。状況論では,人間の認知は個人の内部で周囲の状況と切り離されて進展するのではなく,周囲の状況と一体化し,連動したかたちで展開する,と考える。なお,ここでの状況とは周囲の人,物,および共同体を意味している。

 状況論の枠組みの中に正統的周辺参加legitimate peripheral participation(LPP)の理論がある。この理論では,学習は特定の共同体での実践であり,アイデンティティの形成過程ととらえる。人間は,特定の共同体へ周辺的な立場にある新参者として参加し,しだいに中心的な立場に役割が変化する。こうした特定の分野で熟達していく過程そのものが学習であるととらえるのである。つまり正統的周辺参加の理論では,学習を知識が頭の中に取り込まれるという水準でとらえるのではなく,自分がどのようなかたちで共同体の実践に参加し,そして学習を通して自分がどうなっていくのか,を問うのである。

 以上をまとめると,学習とは,周囲の物的資源を活用しながら,他者と協力し合いながら進むものであり,ネットワークとしての形態をもつ,という定義になる。このことは学習観が,学習を頭という器の中での出来事ととらえる見方から,周囲との相互関係の中で営まれる実践である,という新たな見方に変わったことを意味している。

 このように学習が共同体への参加であり,他者との関係の中で進展する過程であり,思考がもつ対話的性格が明らかになるにつれて,複数の人間が集まってともに活動を進める交流型学習の重要性が認識されるようになったのである。

 以下に交流型学習の類型を示し,それらを比較したうえで個々の特徴を述べる。

【交流型学習の類型間の比較】 現在,交流型学習を表わすことばとして,共同,協同,協調,協働という用語が使われている。共同という用語は,複数の人間が集団を作りともに問題解決活動を行なうという意味で最も包括的に使われる。さらに共同活動のあり方によって協同学習,協調学習,協働学習という類型に分かれる。最初にこれらの類型間の比較を通して各学習の特徴をうきぼりにする。まず協同学習と協調学習は以下の点が異なる。すなわち協同学習の方が教師による学習の構造化が強く,教師が課題設定,集団編成,時間管理を行ない,活動を統制する。一方,協調学習は社会的構成主義の考え方に基づき,学習者が相互作用の中で自ら新たな知識や理解を生み出す,という意味が強い。ここで教師は監督する立場ではなく,ともに学び合う共同体の一員として位置づけられる。したがって初等中等教育においては協同学習,高等教育においては協調学習というよび名がふさわしい。また協同学習や協調学習が認知面や情動面の成長を強調するのに対し,協働学習という場合は社会の中での実際の活動面と現実的成果とが強調される。

【各類型の特徴】 以下に個々の学習形態の特徴を示す。

協同学習cooperative learning 共通の課題や目標を複数の人間が力を合わせて達成していく過程で,知識や技術を自分の中に内在化させる学習形態である。以下の特徴がある。①互恵的相互依存関係:自分の成功が他者の成功をもたらす,またはその逆の関係を指す。また集団の成員一人ひとりの成功が集団の成功につながる関係を指す。②二重の責任:学習者は自分自身の目標達成だけでなく,集団の目標達成に対しても責任をもつ。③促進的相互交流:認知的作業についての役割分担や学習資源の共有,共感や受容などの情緒的交流を指す。④協同体験の効果の促進:協同体験を有意義なものにするための教師からの意図的支援や働きかけ,集団成員による活動のリフレクションを指す。

協調学習collaborative learning 学習者は教授者から知識を与えられ,知識を消費する存在から主体的に知識を生産していく存在になる。既存の答えに迫るというよりも新たな真理を創生するというタイプの学習形態である。集団の各成員の責任性は高く,一定の成果を上げることが求められる。したがって相互依存性はあるが各学習者は自律的な行動が求められる。以下の特徴がある。①共通理解:集団の成員がつねに同じ理解状態を保ち,同じ知識と解釈を共有している。②課題理解:課題で求められていること,自分がやるべきことを成員全員が正確に理解し,自覚している。③方向性:相互作用のテーマや背景が明確である。④方向性の周知:設定された方向性が成員全員に明確に伝わり,理解されている。⑤方向性の制御:設定されたテーマは短期間のうちに頻繁に変更されることがなく,一定の結論や成果が得られるまで継続される。⑥相互触発的発話:他者の思考に刺激を与え,テーマや相互作用を深化させ,集団全体の思考を前進させる発話がある。

協働学習coproductive learning 協同学習と協調学習の場合,最初から集団成員の成長や学習が意図されているが,協働学習の場合,成員の成長が意図された活動ではない。むしろ分野や立場が異なる人たちが,互いの資源や能力をもち寄って現実的な課題を解決することを目標とする。したがって協働という用語は,学校教育場面よりも実社会のなかで連携して物事を進めていく場合に使用される頻度が高い。たとえば行政と住民とが協働して街づくりを行なう,といった場合に用いられる。このとき学習は結果としての教訓や経験というかたちで生じる。

 上記の類型に共通する相互作用のメカニズムには,建設的相互作用説と収斂説とがある。前者は,遂行役とモニター役という認知的分業の交代によって相互作用が深まるという説である。後者は相互作用の中で多様な意見が出た場合,それをより高次な水準で集約しようとする動きが生じ,抽象命題としてまとめようとする展開になるという説である。

【代表的な交流型学習】 以下に学校教育で行なわれている代表的な交流型学習を紹介する。

バズ学習buzzsession learning 複数の小集団が同時に話し合って行なう学習形態を指す。バズとは人が話し合っているときのがやがやとした声を指す。その際に6人ずつの班で6分間話し合ったことから「6・6法」という名称でよばれた。この学習形態では集団議論の中に少人数による短時間の話し合いを導入する。このことによって,多人数の議論にありがちな少数の人たちだけが議論に参加し,他の人たちには発言の機会がないという事態を避けることができる。つまりバズ学習のねらいは,集団の成員全員が議論に参加するという点にある。したがって多人数で時間が限られている場面で有効である。一つの班での最初の話し合い終了後,二つの班を合体させ,再度同じテーマで話し合うという方法を繰り返すことができる。同じテーマで話し合いを重ね,さらに集団規模が大きくなることで意見の深まりと広がりが期待できる。

 特定単元での各学習段階にバズ学習を導入する場合は,①動機づけレディネス(学習の前提条件)を確認するための導入バズ,②理解や問題解決のための中心バズ,③まとめや確認のための確認バズ,の3段階に分類できる。各学習段階では,準備課題,中心課題,確認課題と明確な課題が設定される。また話し合う内容によって,聞きバズ,調べバズ,比べバズのように話し合いにも名称がつけられる。これらは課題方式バズ学習とよばれる。

ジグソー学習jigsaw learning この学習法では,専門家班(課題追究班)とジグソー班との2種類の班が編成される。まず複数の専門家班に班ごとの課題が与えられ,専門家班の成員は自分たちの班に与えられた課題を学習し,その学習内容を他者に教える方法を考える。次に各専門家班は解体され,各専門家班の成員からなるジグソー班が新たに構築される。ジグソー班の各成員はそれぞれ異なる課題を学習している。そこで各成員は自分が学んだ課題を他成員に教授する。この学習法には,一つの学級で複数の課題を同時に学ぶことが可能になること,および他者に教えることで自分の学びの状況を確認できるという利点がある。同時に普段は積極的に授業に参加できない学習者もジグソー班では自分が中心的役割を果たさねばならない。そのため学習者の自覚と意欲を喚起することができる。専門家班とジグソー班の2種類の班を編成する代わりに,1種類の班で展開させる方法がある。これは,一つの班の中でペアを作り,各ペアが特定課題について学習したうえで,班の全員について教授する形態を取り,within-team jigsawとよばれる。

認知的徒弟制cognitive apprenticeship 近代の学校制度が成立する以前,人びとは徒弟制度によって一人前の職業人になっていた。認知的徒弟制とは徒弟制度を通した熟達化に含まれる学習過程のモデル化,およびこのモデルに基づく教授・学習法を指す。認知的徒弟制に基づく教授法では,熟達化の過程を,モデリング,コーチング,足場かけの段階で示す。モデリングは熟達者が示す課題遂行過程を学習者が観察する段階を指す。コーチングcoachingは学習を促進するために教師が用いる教授方法を指す。すなわち,ヒント,フィードバック,助言である。足場かけは学習者が実際に取った行動に対して教師が提供する個々の支援を指す。足場かけでは,学習者が上達するにつれて教師は少しずつ支援を減らしていく(fading)。その後,教師は学習者が自らの知識を言語化(詳述)し,自分と他者との比較(省察)ができるように導く。さらに教師は学習者が自分でさらに深い探究活動に進めるように具体的な段取りを教授する(探索),という過程を取る。

互恵的教授法reciprocal teaching 他者に教える行為を通して,自分の理解が促進されるという教授法を指す。この教授法では,班の成員(学習者)に明確な役割と責任を与えることによって認知方略を向上させることを目的とする。たとえば読解方略の向上をめざした読解活動を班で進める場合,一人ひとりの学習者には,質問役,要約役,明確化役,予想役というように,特定の読解方略を担当することが役割として与えられる。これらの読解方略が促進者役(担当者)と回答者役という学習者同士のやりとり(質疑応答や教え合い)として行なわれる。このとき,やりとりを通した各読解方略の活用は順番に行なわれる。つまり班の全成員が確実にすべての読解方略を体験する。この過程の特徴は,通常は頭の中で展開されている認知活動(読解方略)がやりとりの中で外在化される点にある。したがって学習者は読解中,行なわなければならない認知活動をやりとりの中で明確化し,実体験できる。こうした体験は促進者役と回答者役との双方に直接教示の場合を上回る認知活動の向上をもたらす。

プロジェクト学習project-based learning(PBL) 学習者がチームを作り,特定のテーマについて,調べる内容,役割分担,および段取りを決め,調査結果を成果としてまとめる一連の探究活動である。この活動の特徴は,学習者たちが教科書などで決められたとおりの手続きに従って実験や調査を行なうのではなく,自分たちで学習を組み立てる点にある。つまり専門家と同じ方法で探究活動を進めるのである。この過程を通して主体的な知識構成がなされていく。すなわち,実社会とのかかわりのなかでの問題意識の自覚,試行錯誤を伴う調査や実験,学習の意義を自分たちで考える,といった活動は,教科書による表面的な理解では得られない,実感を伴った知識と原理原則にまでさかのぼった深い理解を得ることができる。この学習形態はとくに科学教育に用いられることが多く,プロジェクトベースの科学教育とよばれる。この学習活動を通して学習者が習得するのは,調べた内容についての知識や理解だけではなく,自らが新たな分野に入っていって学びを組み立てていくための方法知なのである。この方法知は実体験を通して初めて身につく。現代社会の進歩は著しく,既有知識の有効期間は従来に比べ短くなっている。つまり現代人はつねに新たな分野,テーマに自ら入っていかねばならない必要性に迫られている。こうした場面で,新たなテーマを習得する方法知を身につけていることは,つねに知識の刷新を図るうえで役立つ。

CSCL(computer-supported collaborative learning) 協調学習支援システムとよばれ,コンピュータを利用した協調学習システムを指す。CSCLは教師からの直接指導によらない,生徒の協調を通した学習に焦点が当てられる。そのためコンピュータの役割は,直接的な教示を与えることから,相互作用の方法と場とを提供する点にある。この学習形態では,カリキュラム(教育上のデザイン),リソース(情報科学,通信科学),参加形態(相互作用のデザイン),教材,環境,が総合的に考慮される。学習形態を大別するとWeb掲示板やメールを利用して時間を共有することなく行なわれる非同期式とチャットやTV会議システムを利用して学習者がリアルタイムに協調学習を行なう同期式とがある。CSCLでは,学習者同士がチャットや掲示板でコミュニケーションを取る活動や動画像のライブストリーミング配信を行なうバーチャルクラスルーム(仮想教室)を用いることが可能になる。CSCLによって,だれもがanyone,いつでもanytime,どこでもanywhere学習できる環境が整ってきた。CSCLは遠く隔たった地域との交流学習を可能にする。このことによって離島や小規模学校の学習環境は大きく変わる。現在,遠隔協同学習は交流学習の新たなテーマになっている。 →活動理論 →カリキュラム →教室談話分析 →教授学習 →高等教育教授法 →コーチング
〔假屋園 昭彦〕

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