ビゴツキー(読み)びごつきー(その他表記)Лев Семенович Выготский/Lev Semenovich Vïgotskiy

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビゴツキー」の意味・わかりやすい解説

ビゴツキー
びごつきー
Лев Семенович Выготский/Lev Semenovich Vïgotskiy
(1896―1934)

ロシアの心理学者。レオンチェフAleksei Nikolaevich Leont'ev(1903―1979)、A・R・ルリアらと「人間の高次精神機能の発達についての文化・歴史的理論」を創設したことで世界的に有名。1917年にモスクワ大学法学部、シヤニャフスキー大学歴史哲学科を同時に卒業、1925年『芸術心理学』で博士号を得る。人間に固有な道具、言語の使用、抽象的思考、随意的・意識的行為などの高次精神機能は、歴史的・社会的起源をもつと考え、マルクス主義の立場から、発達心理、児童心理、教育心理学、欠陥学、言語心理学の分野で独自の理論を展開し、現在のロシア(ソビエト)心理学の基礎をつくった。この後継者たちは、今日「ビゴツキー学派」とよばれている。おもな著書に『高次精神機能の発達史』(1931)、『思考と言語』(1934)などがあり、また全集6巻(1983~1984)が公刊された。

天野 清]

『柴田義松訳『思考と言語』上下(1962・明治図書出版/新訳版全1巻・2001・新読書社)』『中村和夫著『ヴィゴーツキーの発達論――文化‐歴史的理論の形成と展開』(1998・東京大学出版会)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ビゴツキー」の意味・わかりやすい解説

ビゴツキー
Lev Semyonovich Vygotskii
生没年:1896-1934

ソ連邦の心理学者。モスクワ大学などで法学,哲学,歴史を学び,さらに心理学研究にとりくみ,十月革命後はソ連におけるマルクス主義心理学の確立に貢献した。その業績は,心理学理論,精神病理学,欠陥学,言語学,教育心理学と広い分野にわたっており,その下で直接の指導を受けたルリヤ,レオンチエフ,エリコーニン,ガリペリンなど後のソビエト心理学界の中心となるビゴツキー学派を形成している。当時の心理学を支配していた生物学的・自然主義的理論に対立する〈精神の歴史的・文化的発達〉理論を唱え,弁証法的唯物論を個々の具体的な心理現象の研究にはじめて適用した。また子どもの発達度と計画的な指導によって到達させる水準との幅を〈発達の最近接領域〉と呼び,その領域に働きかけることこそ教育の任務であるとした。そして言語の機能についてもたんなるコミュニケーションの手段としてではなく,思考の道具へと発展していく,より内面的な過程として把握すべきであると主張した(ピアジェへの批判)。著書には《思考と言語》(1934),《精神発達の理論》(1960,執筆は1930-31)がある。
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百科事典マイペディア 「ビゴツキー」の意味・わかりやすい解説

ビゴツキー

ロシアの心理学者。ベラルーシのオルシャ生れ。モスクワ大学などで法学,哲学,歴史を学び,1924年モスクワの心理学研究所の科学研究員になった。心理学理論,精神病理学,欠陥学,言語学,教育心理学,記号論などの分野で活躍,多くの後輩を指導してビゴツキー学派を形成し,ソ連におけるマルクス主義心理学の確立に貢献した。子どもの発達度と教育の関係についての研究もあり,ソ連のみならず,1960年代以降は西側諸国の心理学者,とりわけ児童発達の専門家たちに影響を与えた。著書に《思考と言語》(1934年),《精神発達の理論》(1960年,執筆は1930年−1931年)がある。
→関連項目発達心理学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビゴツキー」の意味・わかりやすい解説

ビゴツキー
Vygotskii, Lev Semenovich

[生]1896.11.5/17. オルシャ
[没]1934.6.11. モスクワ
ロシアの心理学者。モスクワ大学に学び,38歳で肺結核に倒れるまでわずか 10年余の間に,80編をこす論文を発表。その内容は多岐にわたり,児童・教育,精神障害,言語・文芸などの諸方向から意識の発達を考察し,独創的な研究を行なった。著書に『思考と言語』 Myshlenie i rech' (1934) のほか,20歳の処女作『ハムレット-その言葉と沈黙』 Tragecliya o Gamlete (1916年発表,87年刊行) や,没後出版された『芸術心理学』 Psikhologiya iskusstva (65) などがある。

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世界大百科事典(旧版)内のビゴツキーの言及

【学習】より


[状況論と学習研究の課題]
 学習を社会的活動としてとらえる立場を理論的に支えているのが,状況論と総称される立場である。状況論はビゴツキーL.S.Vygotsky(1896-1934)に始まる社会歴史的アプローチ,活動理論をベースにして,コールM.Cole(1938- )らのアメリカ・カリフォルニア大学の比較人間認知研究所を中心として展開されている学際的な理論的志向を指す。特に,リテラシーなどの文化的道具と認知との関係に関する研究,工場や家庭における日常的認知の研究は,状況論的な学習の理論化において重要な役割を果たした。…

【教育心理学】より

…本書は長い間アメリカの教育心理学の基本テキストとされた。フランスではA.ビネが,19世紀末から20世紀初めにかけて知能検査の創案に結実するような心理学研究を旺盛に展開して教育心理学の成立に寄与し,ソビエトではL.S.ビゴツキーが唯物論の立場に立つ教育心理学の成立と発展に貢献した。全体としてみると,教育心理学は児童心理学,発達心理学,学習心理学などと深くかかわりをもちながら初期の発展をとげた。…

【自己中心性】より

… ピアジェが自己中心性を〈社会性〉の対立概念としてとらえ,幼児の会話の分析から〈自己中心的言語〉と〈社会的言語〉を区別し,それぞれの指数を算出し,〈自己中心性指数〉は6歳から7歳にかけて減少することを示した。自己中心的言語を代表する〈独語〉〈集団的独語〉の解釈について,ソビエトの心理学者L.S.ビゴツキーは,それは社会的性格(精神間機能)を有しつつ,思考の手段である内言(精神内的機能をもつ)に移行していく過渡期の言語であると論じている。【滝沢 武久】【清水 民子】。…

【認知工学】より

…たとえばサッチマンは,コピー機の使いやすさを検討する中で,人工知能研究が前提としていた表象主義の問題点を明らかにし,状況の中に埋め込まれた行為を中心に考える状況的認知situated cognitionという考え方を提唱した。また人工物と人の認知との相互作用の重視は,ロシアの発達・教育心理学者であったビゴツキーの理論の再評価ともあいまって,活動理論activity theoryとして展開している。このように,認知工学および認知的人工物研究は,認知科学全体の動向へも大きな影響を与えているといえよう。…

【ロボティクス】より

…従来,ロボットの設計・製作・制御に重点がおかれていたため,ロボット工学を指す場合が多いが,近年,産業面以外の応用の議論が盛んになされ,ロボットに関連したさまざまな科学研究を総じて〈ロボティクス(ロボット学)〉と呼ぶ傾向が強くなってきている。現在,工場などで利用されている産業用ロボットは,一般大衆がイメージするロボットから程遠く,後者は主に大学や研究所などで〈自律ロボット〉として研究対象となっている。…

※「ビゴツキー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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