内科学 第10版 の解説 人・尿路系疾患における新しい展開 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者は末期腎不全のみならず心血管疾患発症の高リスク群であり,成人人口における頻度(12%)も高いため,健康福祉の観点から重要な問題である.その対策として,CKD診療ガイドラインが作成され,厚生労働省も戦略研究を開始した.現在,行政機関や学術団体などが連携しながら,CKDに対する正しい知識を医療関係者のみでなく一般住民にも広めるための活動が行われている.CKDの発症進展には生活習慣病が関連することが多く,健診や保健指導によるCKD発症の予防,早期発見,早期治療が重要となる. ステージの進行したCKDでは,原因の如何にかかわらず,酸化ストレス,炎症,虚血や線維化などにかかわる因子が病態の悪化に関与していると考えられている.これらの因子が細胞傷害を起こす分子機序が基礎的研究から徐々に解明されてきており,その分子を標的に治療する試みがなされている.たとえば虚血誘導因子の制御により経口のエリスロポエチン誘導薬,酸化ストレスに対応する防御因子の活性薬,抗線維化薬などはヒトで治験が行われており,有効性や安全性などが検討されている.また,免疫の関連する腎疾患では分子標的抗体製剤などによる治療も開発されつつある. 腎疾患の診断においては画像診断の進歩は目覚ましく,MRIにより腎局所の血流の変化なども測定できるようになりつつある.今後は炎症の有無や部位などを画像でとらえることができるようになるかもしれない.腎疾患の診断治療においてのバイオマーカーの開発も進められている.傷害されているのが血管・糸球体なのか,尿細管なのか,どの部位の尿細管なのか,また,傷害の程度などを知ることは腎疾患の診断や治療に重要である.現在,尿の蛋白やペプチドや炎症マーカーなどと,原疾患やその臨床病態との関連が盛んに検討されている.将来,診療の指針となる新しいバイオマーカーが出現することが期待される. 遺伝子工学的手法で,各種遺伝子の病態との関連が検討されてきている.現在,全世界で全遺伝子を解読し,疾病と遺伝子と環境要因との関連を解明するための大規模な研究が進められている.将来は,遺伝子情報に基づいた個別化医療とともに,個別化予防を目指すことになることも予想される.一方,常染色体優性多発囊胞腎などのような遺伝疾患では根本的な治療法の開発が難しい.しかし,発症は抑えられなくとも進行は抑えられる可能性がある.その意味で,バソプレシン受容体拮抗薬が常染色体優性囊胞腎で腎容積の増加と腎機能の悪化を抑制した臨床成績は画期的といえる.これまで,腎臓病治療の特異的な薬剤は非常に限られ,透析患者やCKD患者はまだ増え続けている.腎臓学は,再生医療なども含め今後大きな飛躍が必要であり,かつ,期待される分野である.[伊藤貞嘉] 出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報