日本大百科全書(ニッポニカ)「人為選択」の解説
人為選択
じんいせんたく
作物や家畜などの品種を改良するために、有用な形質をもつ個体を選抜して交配させ、その子孫を残させることを継続的に行うこと。人為淘汰(とうた)ともよばれる。ハトやイヌなどにみられるさまざまな品種は、人為選択の結果つくりだされたものである。メンデルの法則が知られる以前には、親の形質は原則的に子に遺伝すると信じられていたので、品種改良における人為選択の有効性は非常に高くみられていた。以前は表現型だけに着目して選抜していたが、現在は遺伝子型を考慮して選抜される。さらに、遺伝子組換えなどの方法により、直接に遺伝子型を操作して新しい品種をつくりだすことも行われている。
19世紀にC・ダーウィンは、当時のイギリスで広く普及していた人為選択に注目し、彼の進化論の中心となる自然選択説を、それとの類比から導き出した。人為選択は、自然選択とは違って観賞や食用などの人間の目的に応じて行われるものであるから、自然条件下ではかならずしも生存できないようなものもつくりだされる。しかし、自然に存在する遺伝的な変異の存在を前提とするという点では、自然選択も人為選択も同じである。それゆえ、つくりだされる品種には一定の限界がある。遺伝子操作による育種は、その限界を越えるものであるが、それだけに危険性も伴うことになる。
[上田哲行]