人間性心理学(読み)にんげんせいしんりがく(英語表記)humanistic psychology

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

人間性心理学
にんげんせいしんりがく
humanistic psychology

アメリカを中心とした現代心理学の三つの潮流のうち、第一の行動主義・論理実証主義、第二の精神分析・力動的心理学の二つの流れに対して批判的また相補的な第三の潮流を意味する。人間学的心理学または人間主義心理学と訳す場合もあるが、原語のままヒューマニスティック心理学とよんでも通用する。
 この心理学においては、人間を、環境条件や他者による刺激に操作され反応させられる機械や受動体としてのみみることをしない。また、人間を、個人が統制できない無意識の力に支配されている非合理的存在としてのみみることもしない。この心理学においては、人間を全体としてみる、つまり人間をいろいろな素質や本能や特性に還元してしまわずに、それらが一つの人格的主体に統合され、自覚と自由意志とをもち、個性・独自性を発揮しつつ前進する存在とみなす。[星野 命]

七つの特質

村山正治(しょうじ)があげているところを参考にしてまとめると、強調点は七つある。(1)人間を全体として研究する(部分に還元しない)。(2)外側からみた行動でなく、直接の体験、つまり私的な現象世界・場を重視する。(3)研究者はその相手の世界・場から離れたところにたつのでなく、そこに関与しつつ直観的・共感的理解に努める。(4)個人の独自性に注目し、個性記述的アプローチ(法則定立的アプローチとは別)をとる。(5)過去の生育史や、環境条件の決定因よりも、現在および将来の、目標・価値・希望を重視する。(6)選択・創造・意味・自己実現といった人間独自の性質を強調する。(7)人間行動の反応面・順応面・病理面を過度に強調せず、逆に自発的・前進的に行動し、病理からは回復し健康を求めるような積極面を強調する。[星野 命]

具体化した分野

人間性心理学が具体的に展開した分野は、カウンセリング、心理治療、人間の成長を目ざす教育、看護者訓練、組織開発などであるが、もっとも顕著で重要な分野は、エンカウンター・グループ運動である。これはカリフォルニアを発祥地として、アメリカ東部・中西部、そしてヨーロッパ、中南米、アジアに急速に拡大、日本でもかなり普及した。また画期的なできごととして、アメリカの心理学者マズローAbraham Maslow(1908―70)の呼びかけに応じた研究者により、1962年に「アメリカ・ヒューマニスティック学会」ができたことで、日本では82年(昭和57)に、それまで「グループによる集中的体験学習」(通称「グループ・アプローチ」)などに結集していた人々を中心に「日本人間性心理学会」が設立され、83年から毎年1回、大会が開かれている(2002年に第20回大会開催)。また、研究誌『人間性心理学研究』も発刊され、2002年には第20巻1号が刊行されている。各巻には、巻頭言・投稿論文のほかに、毎年開催される大会のシンポジウムの内容や特集論文、書評などが組み込まれている。
 日本における人間性心理学の流れは、アメリカに特徴的な楽観的な自己実現論や人間の尊厳と自由についての強調にとどまらず、人間性の否定的側面や葛藤(かっとう)や運命の受容(受苦)、さらに東洋の視点に立つ宇宙内存在、文明内存在、「場」的存在としての人間へと理念と関心を広げている。
 アメリカにおいても、マズローは晩年になって、人間性のなかに善のみをみるのでなく、悪―悪行についての理論を発展させ、善と悪とを概念的に統合し、それによって包括的な理論を創造しようとしたが、それを果たさないうちに、1970年6月、突然に亡くなった。[星野 命]
『戸川行男著『人間学的心理学』(1978・金子書房) ▽村山正治著『岩波講座 精神の科学2 パーソナリティ』(1983・岩波書店) ▽本明寛責任編集『性格心理学新講座 第1巻 性格の理論 第章』 水島恵一著「人間学的心理学」(1989・金子書房) ▽畠瀬稔編著『人間性心理学とは何か』(1996・大日本図書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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