ポジティブ心理学(読み)ポジティブしんりがく(その他表記)positive psychology

最新 心理学事典 「ポジティブ心理学」の解説

ポジティブしんりがく
ポジティブ心理学
positive psychology

ポジティブ心理学とは人間のポジティブな側面を探究する心理学であり,1990年代の終わりに生まれた。幸福感や希望,共感などポジティブ心理学の中心となる概念は心理学が生まれてまもない1900年初頭から研究されていたが,行動主義の全盛期である1920年から1950年代に,科学的に研究不可能な概念とみなされ心理学から事実上「島流し」にされた。1940年代終わりから50年代の初めに人間の異常心理を研究対象とする臨床心理学から独立するかたちカウンセリング心理学counseling psychologyが生まれ,ロジャーズRogers,C.R.の唱える人間性の尊重中核にした心理治療が行なわれるようになった。しかしながら,アメリカではカウンセリング心理学の博士課程をもつ大学の数は臨床心理学博士課程をもつ大学よりはるかに少なく,しかも多くは教育学部の中に設置された。そのためもあり,心理学界でのカウンセリング心理学の存在感は薄かった。また1940年代からマズローMaslow,A.H.ら行動主義に批判的な心理学者たちが中心となり人間性心理学humanistic psychologyを発足させ,自己実現や至高経験などという人間特有の現象を追究することを目標とする心理学での「第3勢力」を作った。1961年には人間性心理学の学会誌も刊行されたが,マズロー自身の論文も含めこの学会誌に掲載されたほとんどの論文はエッセイ形式であり,アメリカ心理学会での主流である実証的論文の形式をとるものは少なかった。このため人間のポジティブな側面を研究しようという人間性心理学の動きも学問的な心理学の世界には浸透しなかった。つまり,カウンセリング心理学や人間性心理学は,現在のポジティブ心理学が推奨している対象とほぼ同じ現象を1940年代から研究してきたわけだが,当時のアメリカ心理学会の風潮からかけ離れていたこともあり,心理学全体に及ぼす影響は限られたものとなった。

 しかしながら1960年代に起きた認知革命を経て幸福感や愛が1980年代に再び心理学の研究テーマとして受け入れられ,幸福感と愛着の実証的研究は1990年代からは人格心理学と社会心理学で最も人気のある研究テーマの一つとなった。また,1998年にセリグマンSeligman,M.E.P.がアメリカ心理学会の会長となりその学会のニュースレターや数々の講演でポジティブな側面の研究を推奨したこともあり,1990年代の終わりにポジティブ心理学とよばれる領域が生まれた。

 従来の臨床心理学では,うつ症状やさまざまな恐怖症を取り除くことが究極の治療目標であったが,うつではないことや恐怖症がなくなること自体は,充実した人生を送る第一歩であり最終目的ではない。ポジティブ心理学とは,いかに充実した人生を多くの人が送れるかを最終目標とし,その過程を研究し,実践に移していく学問領域である。具体的な研究テーマとしては,先に挙げた幸福感,希望や共感,至高体験に加え,向社会的行動,情動知能,創造力,自尊心,英知,個性,感謝などさまざまである。日本でも2006年に『ポジティブ心理学』という本が出版され,ポジティブ心理学の人気が出てきた。ポジティブ心理学が過去10年の間に急激に成長し主流の心理学に受け入れられてきたことは確かだが,この動きに批判的な心理学者も少なくはない。たとえば,感情とストレスの研究で有名なラザルスLazarus,R.S.はポジティブ心理学者が幸せが万能薬であるかのように宣伝するのは不当広告であるとし,ポジティブ心理学も一時期の流行で終わるのではないかという警鐘を2003年の時点ですでに鳴らしている。 →カウンセリング →人間性心理学
〔大石 繁宏〕

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人事労務用語辞典 「ポジティブ心理学」の解説

ポジティブ心理学

「ポジティブ心理学」とは、1998年、当時の米国心理学会会長だったペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって創設された新しい学問で、個人の人生や個人の属する組織、社会のあり方が、本来あるべき正しい方向に向かう状態に注目し、そうした“ポジティブ”な状態を構成する諸要素について科学的に検証・実証を試みる心理学の一領域であると定義されます。
(2011/9/26掲載)

出典 『日本の人事部』人事労務用語辞典について 情報

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