最新 心理学事典 「ポジティブ心理学」の解説
ポジティブしんりがく
ポジティブ心理学
positive psychology
しかしながら1960年代に起きた認知革命を経て幸福感や愛が1980年代に再び心理学の研究テーマとして受け入れられ,幸福感と愛着の実証的研究は1990年代からは人格心理学と社会心理学で最も人気のある研究テーマの一つとなった。また,1998年にセリグマンSeligman,M.E.P.がアメリカ心理学会の会長となりその学会のニュースレターや数々の講演でポジティブな側面の研究を推奨したこともあり,1990年代の終わりにポジティブ心理学とよばれる領域が生まれた。
従来の臨床心理学では,うつ症状やさまざまな恐怖症を取り除くことが究極の治療目標であったが,うつではないことや恐怖症がなくなること自体は,充実した人生を送る第一歩であり最終目的ではない。ポジティブ心理学とは,いかに充実した人生を多くの人が送れるかを最終目標とし,その過程を研究し,実践に移していく学問領域である。具体的な研究テーマとしては,先に挙げた幸福感,希望や共感,至高体験に加え,向社会的行動,情動知能,創造力,自尊心,英知,個性,感謝などさまざまである。日本でも2006年に『ポジティブ心理学』という本が出版され,ポジティブ心理学の人気が出てきた。ポジティブ心理学が過去10年の間に急激に成長し主流の心理学に受け入れられてきたことは確かだが,この動きに批判的な心理学者も少なくはない。たとえば,感情とストレスの研究で有名なラザルスLazarus,R.S.はポジティブ心理学者が幸せが万能薬であるかのように宣伝するのは不当広告であるとし,ポジティブ心理学も一時期の流行で終わるのではないかという警鐘を2003年の時点ですでに鳴らしている。 →カウンセリング →人間性心理学
〔大石 繁宏〕
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