人間詞話(読み)じんかんしわ(その他表記)Ren-jian ci-hua

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人間詞話」の意味・わかりやすい解説

人間詞話
じんかんしわ
Ren-jian ci-hua

中国の評論書。清末民国初の王国維の著。2巻。上巻は光緒 34 (1908) 年『国粋学報』に連載されたもので,下巻は死後,詞に関する遺文をまとめたもの。人の真心から発する詩情が格調高い名句を生むとし,それが作品に表われたものを「境界」と名づけた。五代,北宋の詞を高く評価し,五代の李 煜 (りいく) ,馮延巳 (ふうえんし) ,北宋の欧陽修蘇軾,秦観,周邦彦らをこの境地に達したとみる。伝統的な詞話の形式を用いているが,従来の文学観からは軽視されてきた詞の芸術的価値を,西洋の芸術理論をもとにした緻密で鋭い批評によって解明,再評価したもので,中国における近代的文学評論のさきがけとなり広い影響を残した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「人間詞話」の意味・わかりやすい解説

人間詞話
じんかんしわ

中国、王国維(おうこくい/ワンクオウェイ)の詞(し)(詩余あるいは填詞(てんし)ともよぶ)に関する評論。「詞は境界を以(もっ)て最上となす。境界があればおのずから高い格調をなし、名句も生まれる」という「境界」の説にたって唐以来歴代の詞を論じたもので、詩人の鋭い直覚と豊かな感性のうえに、西洋近代の美学と伝統的詞論を融合した希有(けう)の詩論であり、中国の近代文芸批評の先駆的業績といえよう。1908~09年に『国粋学報』に連載。26年に単行本。28年に未刊稿を加えて上下二巻本が編まれ、39年に補遺を加えて開明書店から刊行された。

[伊藤虎丸]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の人間詞話の言及

【王国維】より

…彼は東文学社在学時からショーペンハウアーやニーチェなどの哲学に共鳴し,また文学を愛好した。従来,研究の対象としてはあまり顧みられなかった劇文学の研究を開拓し(《宋元劇曲史》),また詞の批評《人間(じんかん)詞話》は人口に膾炙(かいしや)している。しかし亡命後は羅振玉の勧めによって中国古典の学問に精進し,羅振玉を助けて甲骨文,金文,敦煌出土の簡牘(かんとく)など,当時はじめて世に現れた史料の整理と研究に専念した。…

※「人間詞話」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android