今戸心中(読み)イマドシンジュウ

デジタル大辞泉 「今戸心中」の意味・読み・例文・類語

いまどしんじゅう〔いまどシンヂユウ〕【今戸心中】

広津柳浪ひろつりゅうろう小説。明治29年(1896)発表愛人と別れた遊女が、嫌いぬいた男と今戸河岸心中するまでの、女心機微を描く。

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精選版 日本国語大辞典 「今戸心中」の意味・読み・例文・類語

いまどしんじゅういまどシンヂュウ【今戸心中】

  1. 短編小説。広津柳浪作。明治二九年(一八九六)発表。情人に捨てられた江戸吉原娼妓吉里が、日ごろ嫌い抜いた男と今戸の河岸で心中するまでの、女心の微妙な動きを描いた作品

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改訂新版 世界大百科事典 「今戸心中」の意味・わかりやすい解説

今戸心中 (いまどしんじゅう)

広津柳浪の短編小説。1896年(明治29)《文芸俱楽部》に発表。吉原の娼妓吉里は,余儀なく情人と別れた夜,それまでふり抜いていた善吉の実意にほだされて結ばれる。しかしたちまち窮迫していった2人は,今戸の河岸に投身自殺してしまう。遊郭の女の孤独感や空虚感,衝動的・自棄的な心理の機微が,当時の吉原遊郭の写実的な描写を背景に,生彩を放って描かれている。三面記事的な小事件を,環境と心理の深い諦視によって描き出して,明治20年代文学の写実の達成と目される。類似の世界と展開を描く樋口一葉の《にごりえ》とともに双璧をなし,開化近代暗部の写実が,おのずから一つの時代批評につらなっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「今戸心中」の意味・わかりやすい解説

今戸心中
いまどしんじゅう

広津柳浪(りゅうろう)の短編小説。1896年(明治29)7月、『文芸倶楽部(くらぶ)』に発表、のち「柳浪叢書(そうしょ)」前編(1909)所収。1895年の深刻(悲惨)小説から一転、96年柳浪は『河内屋(かわちや)』『信濃屋(しなのや)』『浅瀬の波』などの心中物を多く発表した。なかでも遊里に生きる娼妓(しょうぎ)吉里(よしざと)の心中の動機を主題とした『今戸心中』は傑作といわれる。吉里の情人で好男子の平田、店を手放し、妻子と別れてまでも吉里に通いつめる古着屋美濃屋(みのや)善吉の実直さ、そしてその貞操と同情のはざまにあやしく揺れ動く吉里の女心は、遊廓(ゆうかく)における人情の機微に直接触れていて、また吉原(よしわら)界隈(かいわい)の風俗描写の巧みさと相まって、みごとな一場を結んでいる。

[尾形国治]

『『明治文学全集19 広津柳浪集』(1965・筑摩書房)』

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