新内節の曲名。《尾上伊太八》ともいう。本名題《帰咲名残命毛(かえりざきなごりのいのちげ)》。初世鶴賀若狭掾(つるがわかさのじよう)作詞・作曲。《明烏(あけがらす)》《蘭蝶》と並ぶ新内節の代表曲。明和期(1764-72)の作品。津軽藩の家臣で江戸詰めの祐筆役と吉原の遊女との心中未遂事件をモデルにした作品。武士の伊太八は吉原堺屋の遊女尾上に入れあげて親から勘当される。尾上は伊太八のために尽くして満2年,借金で首がまわらなくなったところへ身請けの話がくる。二人の心中は未遂に終わったが,実は身請けの客は伊太八の叔父で,二人はめでたく夫婦になるという筋。後半は語る人なく,二人が心中の覚悟をきめるまでが伝承されている。とくに尾上のクドキ〈逢いそめてより一日も……〉以下が有名で,あとの伊太八の〈わずかな筆の命毛で……〉以下も,珍しい男のクドキとして特色がある。また前半で歌われる二上りの祭文,吉原情緒の描写など,きかせどころも多い。レコードも多く,よく演奏される。
執筆者:竹内 道敬
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