蘭蝶(読み)ランチョウ

デジタル大辞泉 「蘭蝶」の意味・読み・例文・類語

らんちょう〔ランテフ〕【蘭蝶】

新内節本名題若木仇名草わかきのあだなぐさ」。初世鶴賀若狭掾つるがわかさのじょう作曲安永年間(1772~1781)成立。太鼓持ち市川屋蘭蝶が新吉原の遊女此糸このいととなじみ、女房お宮との板ばさみになって、此糸と心中する筋。新内節の代表曲。此糸蘭蝶。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「蘭蝶」の意味・読み・例文・類語

らんちょうランテフ【蘭蝶】

  1. 新内。安永(一七七二‐八一)頃の成立か。初世鶴賀若狭掾作曲。本名題「若木仇名草(わかきのあだなぐさ)」。声色身振師市川屋蘭蝶は吉原榊屋の遊女此糸(このいと)になじみ、妻お宮の真心と此糸への思いの板ばさみになって苦しみ、結局此糸と心中する。通称「此糸蘭蝶」。「明烏(あけがらす)」と併称される新内の代表曲。これをもとに、歌舞伎脚本「若木仇名草」が作られた。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「蘭蝶」の意味・わかりやすい解説

蘭蝶 (らんちょう)

(1)新内節の曲名。本名題《若木仇名草(わかぎのあだなぐさ)》。通称を《此糸(このいと)蘭蝶》とも。初世鶴賀若狭掾作曲。安永(1772-81)末ごろ成るか。市川屋蘭蝶という浮世声色身振師は,榊屋の遊女此糸となじみを重ね,女房のお宮が身を売った金まで入れあげてしまう。お宮は客となって此糸に逢い,蘭蝶との夫婦の成立ちを語り,蘭蝶と縁を切ってくれと頼む。此糸はお宮の真実にうたれ,縁を切ることを約束する。その様子を隣の部屋できいていた蘭蝶は,此糸の本心は死ぬ覚悟であろうと察し,お宮の願いも空しく2人は心中する。此糸のクドキ四谷で初めて逢うた時……〉と,お宮のクドキ〈縁でこそあれ末かけて……〉が絶唱。とくに後者は新内節の代名詞のようにいわれている。

(2)歌舞伎狂言。本名題《若木仇名草》。別称《ゆかりの色紫頭巾》。清水先勝軒作。1855年(安政2)10月大坂筑後芝居初演。新内の蘭蝶の素性を石山藩士翅(あげは)蝶三郎という武士にし,お家騒動とからめた作品。上方で数回上演された後,1897年ごろ東京で上演。この新内の部分を受けもった7世富士松加賀太夫の出世芸となった。7世沢村宗十郎はこれを得意とし,高賀十種一つにしている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「蘭蝶」の意味・わかりやすい解説

蘭蝶
らんちょう

新内節の曲名。本名題(ほんなだい)『若木仇名草(わかきのあだなぐさ)』。長編の端物浄瑠璃(はものじょうるり)で、『明烏(あけがらす)』『尾上伊太八(おのえいだはち)』とともに新内の代表曲。初世鶴賀若狭掾(つるがわかさのじょう)(1717―86)の晩年の作。芸人市川屋蘭蝶と深い仲の新吉原(よしわら)の榊屋此糸(さかきやこのいと)とが痴話喧嘩(げんか)のところへ、蘭蝶の女房お宮が此糸のもとを訪れ、別の一間で会って蘭蝶と縁を切ってほしいと頼み込む。その真情にほだされた此糸は願いを聞き入れ、縁切りを約してお宮を帰すが、この会話を始終立ち聞く蘭蝶は、お宮の真心を納得しながらも此糸と情死する。初期の端物で「……でありんす」の廓(さと)ことばを使っているのはこの作だけである。新内といえば『蘭蝶』、『蘭蝶』といえば「縁でこそあれ……」というくらいなじまれている縁切り場のお宮のクドキは、事実新内の生命であるクドキ地の典型的なもので、手ほどきにもかならず用いられる一節であり、太夫(たゆう)たちが聞かせどころとして力量を発揮するくだりである。

 この原曲から1855年(安政2)大坂筑後(ちくご)の芝居で清水先勝軒が脚色上演した『若木仇名草』があり、97年(明治30)東京上演のおり、富士松富士太夫(後の7世加賀太夫)の演奏が好評を博し、その詞章で演奏されることもある。

[林喜代弘]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蘭蝶」の意味・わかりやすい解説

蘭蝶
らんちょう

新内節の曲名。本名題『若木仇名草 (わかぎのあだなぐさ) 』。1世鶴賀若狭掾の作詞,作曲。安永1 (1772) 年頃の作と推定される。現存の新内節としては古く,『明烏 (あけがらす) 』と並ぶ代表曲。特に「縁でこそあれ」以下のお宮の口説が有名。蘭蝶,その妻お宮,遊女此糸の三角関係を扱う。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「蘭蝶」の解説

蘭蝶
〔新内〕
らんちょう

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
清水先勝軒
演者
鶴賀若狭掾(1代)
初演
安政5.8(大坂・筑後芝居)

蘭蝶
(通称)
らんちょう

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
若木仇名草
初演
安政2.5(大坂・筑後芝居)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

百科事典マイペディア 「蘭蝶」の意味・わかりやすい解説

蘭蝶【らんちょう】

新内節の曲名。本名題《若木仇名草(わかきのあだなぐさ)》。初世鶴賀若狭掾作詞・作曲。安永末ころの作か。太鼓持市川屋蘭蝶,その妻お宮,遊女此糸の三角関係を扱ったもの。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の蘭蝶の言及

【山帰り】より

…相模の雨降(あふり)山大山(おおやま)石尊大権現(阿夫利神社)へ参詣(さんけい)した江戸の勇みの男の帰途を描いたもので,木太刀や梵天(ぼんてん),わら細工のらっぱ等の小道具を使う。威勢のよい江戸の職人気質を見せ,新内節の《蘭蝶(らんちよう)》をはめこんだクドキ(口説)がある。【如月 青子】。…

※「蘭蝶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android