(1)歌舞伎舞踊。新内と清元が有名。1772年(安永1)初世鶴賀若狭掾が作曲した《明烏夢泡雪(あけがらすゆめのあわゆき)》が新内の名曲として流布し,1851年(嘉永4)2月江戸市村座の《仮名手本忠臣蔵》8段目の裏に,清元に移した《明烏花濡衣》として舞台に上り,同年3月大坂筑後の芝居(大西の芝居)で新内で演じられた。以後53年大坂浜の操り芝居で義太夫《明烏雪の曙》,のちの《明烏六花曙》になり,新内《明烏后真夢(のちのまさゆめ)》,常磐津《夢泡雪》,同名異曲《新明烏》が作られた。実際の情死事件の劇化で,〈上の巻〉山名屋浦里の部屋の場で時次郎との情痴をしっぽりと見せる。〈下の巻〉同中庭の雪責めで浦里がせっかんされ実子の禿(かむろ)みどりがからむ愁嘆ののち,塀を乗りこえた時次郎と共に逃れる。
→浦里・時次郎
執筆者:藤田 洋(2)落語。新内《明烏夢泡雪》や人情本《明烏後正夢(あけがらすのちのまさゆめ)》の発端の落語化。堅物の時次郎が商用も果たせないと,父親が源兵衛と多助に軟化教育を依頼する。2人は時次郎を吉原へつれてゆくが,時次郎が帰るというので,1人だけ帰ると大門(おおもん)で捕まるとおどして泊める。女にもてた時次郎が,朝になっても帰ろうとしないので,2人だけで帰ろうとすると,〈あなた方,先へ帰れるもんなら帰ってごらんなさい。大門でとめられるから〉と時次郎。ぶっつけ落ち。
執筆者:興津 要
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浄瑠璃(じょうるり)新内節、およびこれをもとにした音曲、戯曲などの題名。新内節の本名題は『明烏夢泡雪(あけがらすゆめのあわゆき)』で、1772年(安永1)初世鶴賀若狭掾(つるがわかさのじょう)作詞・作曲。3年前(明和6)に江戸・三河島で吉原蔦屋(つたや)の遊女三吉野と浅草蔵前伊勢屋(いせや)伊之助(幕府の御賄方(おまかないかた)伊藤家の息子ともいう)が情死した事件を、山名屋浦里(やまなやうらざと)と春日屋(かすがや)時次郎の情話として脚色したもの。哀調を帯びた曲と内容が江戸市中の人気を集め、新内節の代表曲となった。その流行に影響され、他の音曲にも多くつくられたが、なかでも有名なのは清元の『明烏花濡衣(はなのぬれぎぬ)』。1851年(嘉永4)2月江戸・市村座で8世市川団十郎の時次郎と初世坂東しうかの浦里により劇化上演されたときの浄瑠璃で、作詞は3世桜田治助。その脚本は後世に残り、時次郎に操を立てる浦里が、雪中でやり手に折檻(せっかん)される「雪責め」が見せ場である。ほかに常磐津(ときわず)の『明烏夢泡雪』、義太夫(ぎだゆう)の『明烏六花曙(ゆきのあけぼの)』、富本の『明烏写一筆(ちょっとひとふで)』などがあり、また小説では滝亭鯉丈(りゅうていりじょう)、為永春水(ためながしゅんすい)ら作の『明烏後正夢(のちのまさゆめ)』(1819~1824)が新内「明烏」の後日談で、人情本の最初の作品として知られている。
[松井俊諭]
落語。廓噺(くるわばなし)の代表作。日向(ひゅうが)屋半兵衛のせがれ時次郎は、あまりにもまじめすぎるので父親が心配していた。ある日源兵衛と多助が、観音様の裏の稲荷(いなり)にお籠(こも)りに行こうと時次郎を誘いにきたので、半兵衛はせがれに金を持たせて出してやった。吉原とは知らずについて行った時次郎は、登楼してから女郎屋とわかり、あわてて帰るといいだしたので、源兵衛と多助は、3人で大門をくぐったものが1人だけ帰ると大門の番所で止められて縛られると脅かした。あきらめて泊まった時次郎の相方(あいかた)は18歳で美人の浦里(うらざと)。翌朝、相方にふられた源兵衛と多助が時次郎を起こしに行くと、時次郎はなかなか起きてこない。2人が帰るというと時次郎が「あなたがた、先に帰れるものなら帰ってごらんなさい。大門で止められる」。
この噺は、新内『明烏夢泡雪(ゆめのあわゆき)』、人情噺『明烏後正夢(のちのまさゆめ)』の発端を一席物にまとめて落ち(サゲ)をつけたもので、8代目桂文楽(かつらぶんらく)が練り上げた。
[関山和夫]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…新内節の曲名。本名題《明烏後真夢(あけがらすのちのまさゆめ)》。〈正夢〉とも書く。…
※「明烏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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